001.~
Please tell me your name
この小説の夢小説設定簡易的な夢主設定
夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
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今日の蟬ヶ沢はおかしい。
事務所に来て早々蟬ヶ沢は上や下や階を往復している。始めこそ忙しいのだなと思って話しかけるのを控えていたが、同室に居た時、蝶が席を立つ度に蟬ヶ沢もがたりと思いっきり音を立てて席を立つものだから、これは忙しいのではないと確信した。
蟬ヶ沢は表向きでは熱心なデザイナーだが、裏の彼は特殊工作をする合成人間だ。特殊な能力を持った、身体的にもとても強い人間であり、並大抵の人間では太刀打ちできない相手である。通常の人間ならばの話である。
生憎、蝶も若干普通の人間ではないらしい。蟬ヶ沢が裏で所属している統和機構で、特殊能力者として認定されている。
おおざっぱに能力を説明してしまえば、現在進行形で動いているものであれば、心も物理現象の感知と操作が可能。操作するとき見える負担が生じるのが難点ではあるが、ありがたいことに統和機構には使えるものとして生かされている。
能力を展開して、ビルの中の人間の数、更に身体の動き、(このあたりで気分が悪くなる)口の動き、そこから捕らえられない人間に向けて話している人間を探す。蟬ヶ沢にだけは直接触れない限り探知が出来ないのだ。そこから、現在位置を探す。
いた。資料室だ。相手は資料の管理担当の人間、そこには誰もいないのに彼は何かに話しかけている。
資料室は三階。私がいるのは四階の階段前。手すりにもたれている。ここから蟬ヶ沢の姿は見えないが、階段を降りてしまえば足音が聞こえる可能性は高いだろう。
合成人間としての能力はどのくらい凄いものなのか全部は知らないが聴力もいくらか上だと聞く。以前扉が開いていたとはいえ下の階の人間の話し声が聞こえたと言っていた。
ガチャリと扉が開く音が聞こえた。
きたと思ったら急に体が落下した。手すりにもたれていたから滑ったのだろう。能力を使って防ごうかと思ったが、出てきたのが事務所の、一般人なら能力を使った所を見られるのは危ないだろう。このままなんとか頭だけでも保護してしまえばなんとかなるだろう。
緩衝剤代わりに手を突き出し、痛みを耐えようとしたが、当たったのは床ではなかった。
「蝶!蝶!!大丈夫?怪我していない?」
部屋から出てきたのは蟬ヶ沢だったのだ。瞬時に受け止めてくれたらしい。
どこも怪我をしていないと何度も言ったが、蟬ヶ沢は無理矢理休憩室に連れてきた。
蝶をソファに座らせ、足やら腕などを診る。これでもかと確認して尚念を押して聞く。
「怪我はしてないわね?」
「しつこい」
「そう……じゃあ、行くわね」
蟬ヶ沢はすまなそうに視線を落して、部屋から出て行こうとする。
蝶は蟬ヶ沢の手を握る。
「待ってよ」
動きが、流れが見えた。不安そうな少し寒い感覚の流れ、もう一つは棘があるような流れが下の階にいる瀬川に向けている。
蟬ヶ沢がちらりと触れている手を見たが、すぐに扉に向きなおす。
「まだ仕事があるのよ。蝶のもまだ残っているでしょう?早く戻りましょう」
蟬ヶ沢を握る手を強める。
「なら教えてよ」
不安になっているなら教えてほしい。私の何が貴方を不安にさせているのか知りたい。
蟬ヶ沢は蝶の隣に座る。
「さっき」
「うん」
「蝶に彼氏が出来たって受付嬢のあの子がね……」
「うん?」
首を傾げる蝶には気付かず、蟬ヶ沢は話を続ける。
「だから、聞いちゃったのよ。貴女に彼氏が出来たって」
「…………」
蝶は自分まで気に病んでいたのが馬鹿らしくなった。ずるりと蟬ヶ沢のジャケットを引っ張り、首を垂れて腕に頭をこすり付ける。
「えっとさ、……セミさん」
「な、何よ」
蝶はがばっと勢いよく上を向いて、蟬ヶ沢と視線を合わせる。
「ついこの間告白した奴が他に彼氏を作るわけないでしょうが!」
蝶が思いっきり大声で言ったものだから、蟬ヶ沢が他に誰も聞いていないか思わず辺りを見回す。すかさず蝶が能力でこの会話を外部に聞こえないように遮断していることを手振りで伝える。聞こえてないのを確認すると蟬ヶ沢も言い返す。
「そういのキープとかっていうじゃない!」
「誰かがそんなことするか!」
大の大人が情けなく眉を八の字にしていている姿に少々情けなくなる。
「その、一度お試しで付き合おうかとか最近の若い子はするって」
「最近の若い子みたいなことしなくて悪かったですね」
「そんなことないわよ」
「今日ずっと私をさけていたのは、つまるところ拗ねていた?」
蟬ヶ沢は無言で頷く。
「なんで涙目になりかけているか深く追求しないことにするわ」
改めて蟬ヶ沢の流れを見る。不安そうな寒い感覚はなくなったが、申し訳なさそうな湿った感覚に変わっている。
「あのさ、セミさん」
一瞬だけぎりぎり重ねないで距離を詰めて言う。
「十年以上も好きだったんだよ。他の人にうつつを抜かす訳ないじゃない」
気の迷いで一瞬だけ重ねたかもしれないが、お互い近すぎてわからないだろう。
「はいはい、仕事仕事!セミさんの方があるんでしょ」
蟬ヶ沢を突き飛ばして、蝶はさっさと持ち場へ戻る。
後ろから悲鳴なのか、それとも蝶を呼んでいるのかよくわからない声を上げて、蟬ヶ沢はソファから転がり落ちた。