001.~
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この小説の夢小説設定簡易的な夢主設定
夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
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冬休み、長期休みを利用していつもより長く蟬ヶ沢と過ごしていたが、年末は流石にお互い自分の家で過ごすことにした。特に理由はないが、彼ならば自分よりも家族と過ごすのを優先しなさいとでもおせっかいで言ってくるだろう。
年明けは家族一同同じ部屋で過ごした。深夜を跨ぐと年越し蕎麦を食べて、次々と通知される新年のあいさつに返して、気がつくと深夜一時。両親は三十分前に布団について、私は一人客間でソファに寝転がりながら携帯端末を弄っている。皆はもう挨拶が済んだであろう、挨拶の通知も完全になくなった。深夜になったこともあって皆寝てしまったのだ。
新年のあいさつの通知の中に 統和機構でお世話になった人も交じっていたのは驚きだった。勿論、送信したアドレスは表向きに使われているものだ。中でも瀬川、スワロゥバードから来たのは特に意外だ。彼女とは蟬ヶ沢との仕事で知り合ったのが先である。
あおむけになって携帯端末を持った手を天に向けて伸ばす。通知が来なくなった携帯端末をしばらく眺める。
画面は一切何も表示されない。
画面を操作して、メッセージ送信と受信画面を意味もなく交互に見る。
いっそのこと自分から送ってしまえばいいが、来て欲しいと思ってしまう。こんな夜遅くに送るような人ではないと知っているので来るわけがないと分かっていても少しだけ期待をしてしまう。
あの事件以来彼はやや心配性な振る舞いからどこか変わった。より適切に言うならば、大人らしい振る舞いが剥げてきている。私を家に招くことが増えたのはまだ分かる。友人を招待したくても出来なかったのは寂しいものだ。その家を招いた中で、心なしかスキンシップが多い。最初こそ断りを入れてきたが、最近では不意打ちでしてくる。
ずるいなと呟いてソファのクッションに顔を埋める。
あの人が独身なのは知っているが、これは友人に対する行動にしては度が過ぎている。
思い返すと、彼は親よりも気にかけてくれている。
昔こそ自分の子供のように心配してくれているのだと思っていた。出会った時からずっと、 統和機構や特殊な能力を持つ者を狙うものから、ずっと守ってくれていたのだ。本来ならば特殊な能力を持つ者を報告せずにいるのは重大な規約違反であり、それがばれてしまえば処理されてしまう。いや、処理されることよりも恐ろしいことをされる可能性もあるはずだ。何故これまで報告しなかったのかと聞いたが、
「蝶と過ごすせる時間が減るからよ」
と彼はひょうひょうと答えるだけなのだ。
(ばれたら命が無くなるどころではないのに)
馬鹿げたことに十年近くも隠し通したのだ。結局、蝶は統和機構から見つかったため、彼のしたことは無駄とも言える。
(いや、無駄じゃないわね)
完全に手渡されないように、今もまだ隠していることには違いないのだ。
****
うとうとしていたせいもあり、気がついたら寝ていた。時計を見ると時刻は朝の四時半で、夜明けもまだ来ていない。
やたら早く起きてしまったが再び寝るのは惜しい。このまま起きていれば朝日も拝める。人が居ない時に初詣でをするのもいいだろう。
両親もまだ寝ているので、一人で神社へ向かうことにした。スクーターでの移動なので、風が当たって寒いものだが、早起きした者を覚醒させるには一役買ってくれた。息を吐いたとき、どれだけ白い呼気を出せるか試したが、移動しながらでは早く消えてしまう。横に流れる白い呼気を見て、まるで蒸気機関車のようで少し楽しくなる。
神社に着いたころには空がだいぶ明るくなってきた。とはいえ空はまだ夜に近い。神社には人が居ないと思いきや何人かはいて、巫女や神主も甘酒を振る舞う準備をしている。
スクーターを駐車場に駐車し他に駐車された車も見ると、ある車を見つけた。
自身の心拍数が明らかに跳ね上がったのが分かる。
走って探し回りたい衝動を抑えて、あたりを見回して探す。
彼はどこにいるだろう。
(……会いたい)
新年最初に会う人が選べるとしたら彼がいい。
誰よりも彼に一番始めに言いたいのだ。
少し距離をおいて車の中を確認するが、中には誰も乗っていない。
既に神社に行ってしまったのだろうか。
何か残念な思いで肩を落とす。
突如、視界が暗転し、目と背中に何か温かい感触が当たった。
「ねえ、早起きはいいことだけど早すぎない?」
声を聞く前に誰なのかは分かっていた。
両目に当てられた手を退けて、振り向く。この距離なので上を向かないと彼とは視線は合わないのだ。
頭上には蝶が昨晩散々考えを巡らせていた相手、蟬ヶ沢が立っていた。
足首ほどにまで丈がある黒いロングコートに、白のタートルニット、明るめの灰色のグレンチェック、黒の革靴という全体的にモノクロな服装をしていた。おまけに防寒具としてつけていたであろう、手袋とマフラーは白で統一されていた。
見惚れてしまって、一瞬だけ呼吸を止めてしまった。
彼はにっこりと笑い、退けられた手を再度蝶に回す。
「早起きは三文の得。セミさんこそ、新年早々何してんですか。夜明けがまだ始まったかどうかの時間だよ」
「私も早く起きちゃってね。蝶もこんなに早起きだなんて驚きだわ。……一人でこんな時間にいるのは感心しないけど、お蔭で会えたと思えば悪くないかもね。変な人に追いかけられなかった?」
「現在進行形でセクハラを受けているね、目の前の人間に!」自分のマフラーを外して、蟬ヶ沢の頭全体に無理矢理巻き付けた「人の事を暖房器具にするのは止めてください」
顔を隠された蟬ヶ沢は特に慌てることなく片手でマフラーを解く。もう片方は蝶を捕獲したままだ。頭を下げて蝶の頭の位置まで顔を近づける。ふわりと香水が香った。
お願いよと眉を下げて、甘えた声で囁く。
「駄目?」
蝶は調子が狂って、顔が赤くなりそうだが必死にこらえ、何も答えずに俯く。
ふと、蟬ヶ沢が何か重大なことを思い出したかのように真剣な顔になる。
「蝶は今年、まだ誰にも新年の挨拶していない?」
「そりゃあ、この時間だし、誰にも言ってないよ。それがどうしたの」
「ああ、いいえ、こっちの話。気にしないで」
夜明けの一番寒い時間に差し掛かったのか、急に空気が冷える。蝶は思わずくしゃみをした。蟬ヶ沢はあらあらと言い、蝶を捕らえていた腕で背を擦る。
「挨拶もいいけど、いつまでもこんな寒い目に遭わせるわけにもいかないわね。待って頂戴。ちょっとそこの助勤の巫女から甘酒でも貰ってくるわ」
蟬ヶ沢は解いたマフラーを蝶に巻きなおすと、甘酒を振る舞う巫女たちへと向かった。
蝶はとぼとぼベンチまで歩き、ぺたりと腰を掛けた。呼吸にしてはやや深めの息を吐き、自分の心臓を落ち着かせる。自分のくしゃみで解放されて気恥ずかしくもなるが、とにかく解放されて安心した。
来るまで鎮めないと。言うことを聞かない心臓に暗示をかける。胸を擦っても心臓はあまり鎮まってくれない。
早朝なのもあって、甘酒を貰う参拝者がさほどいなかったのだろう、蟬ヶ沢はものの数分で戻ってきた。
蝶に甘酒を渡して、蟬ヶ沢も隣に座る。丁度車に乗ったときの距離だ。近いのか離れているのかよく分からない中途半端な距離。
蟬ヶ沢に気付かれないようにこっそり十センチほど寄せる。寄せることに意味はない。
甘酒は手作りなのか市販のものよりややアルコールの臭いが強かったが、中々美味しかった。
蝶は甘酒を一気に飲んでしまったが、蟬ヶ沢はちびちびと飲んでいる。甘い物は苦手という訳では無いはずだが、甘酒はやや苦手なようだ。
「甘酒だから甘いのは分かっているけど、甘ったるいわね」
「甘くておいしいじゃない。私は好きだけどなあ。セミさんも甘い物は好きじゃない」
「そりゃ甘い物は好きよ。でも、これは甘すぎるってだけよ」
「飲み切れなかったら頂戴。そのまま捨てるくらいなら飲むよ」
蟬ヶ沢が固まる。
「……気にしないの?」
「何を?もしかして甘酒に実験の物入れているの?」
「入れてないわよ。というか、そうじゃなくてね」
蟬ヶ沢がぐったりと頭を垂れ、蝶側の面のカップを指して言った。
「飲むならこっち側にしなさい……いえ、もし飲んでもらうとしたらね。そもそも残したのなんて渡さないわ」
「間接くらいなら気にしないよ」
蟬ヶ沢がむせる。
「あのね、蝶」
二人のポケットから微かにピピッという音が鳴る。その瞬間二人は真顔になり、ポケットから携帯端末を取り出して画面を確認する。
蝶は蟬ヶ沢があからさまに嫌だと顔に出すのを見て苦笑した。
「……セミさん、心底嫌だって 顔にならないでよ」
裏稼業は新年だろうと仕事を持ってくるらしい。
****
任務は幸いなことに、かの最強に物を届けるだけで、ものの小一時間くらいで任務は終えたが、蟬ヶ沢がやつれたように見えた。
「新年早々にお会いできるとは思わなかったわ」
「こんなことならメローちゃんとかヒコネちゃんに任せたかったね」
「ああ、あの二人は彼が大好きだものね」
蟬ヶ沢が呆れたように言うが、蝶は思わず“大好き”の単語に心臓が跳ね上がる。
「あの人は何年追いかけるのやら」
「彼女たちが追いかけているのは、あの“最強”よ?十年でも追いつけるかどうか」
(私は追いついたのだろうか)
蟬ヶ沢のコートの袖を少し引っ張る。
「あのさ、セミさん」
「ん?」
リラックスした笑みでこちらを見てきたので、また心拍数が上がったが、手を鋏に変えて切る動作をして、これからする質問は誰にも聞かされてはいけないことを伝える。
「セミさんは、いつまでシステムから私を隠すつもりなの?」
蟬ヶ沢――スクイーズは一瞬、遠い目になり、
「いつまでだろうな」
とぼけた顔で言う。
「そうね……居られるまで、かしら」
「…………」
「蝶もいつまで隠しておく気?」
いたずらっぽく、答えが分かっていると確信しておいて聞き返す。
蝶は答えずに、そっぽを向いた。
待遠しいのが来たように、ふふと蟬ヶ沢が笑う。
「ああ、ようやく言えるわ」
「うん?」
にこやかな笑みから、にっと楽しそうな笑みに変わった。
「あけましておめでとう」
蝶はきょとんとなる。元旦に会えたのがよほど嬉しかったせいだろうか、昨晩あれほど気にしていた挨拶を忘れていたのだ。
「あけましておめでとうございます。……って言ってなかったけ?」
「言ってないわよ!」
「セミさんは変な所にこだわるなあ」
「あら、貴女には誰よりも直接一番初めに挨拶したかった、って答えじゃ駄目かしら?」
「…………」
「どうしたの?」
ぼすっと顔を蟬ヶ沢の胸に押し当てる。
「なんでもない」
かわいいなんて言ったら怒られそうだ。