001.~
Please tell me your name
この小説の夢小説設定簡易的な夢主設定
夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
行動を分けたのはいつからだろう。心に、言葉遣い、表情。より表の自分ではないものとして振る舞う為に、裏の自分としての行動を増やしていった。裏の自分としての振る舞いが、表の自分が増えるたびに増え、自分でもなぜわざわざ分けているのは分からなくなってきた。振り分けの意義が見いだせないならしなければいいだけのことだが、表の自分と振り分けることが出来なくなりそうで、振る舞いを分けるのを止めるは難しいだろう。やらなくてはならない。
いつか守るものと標的が重ならないように 。
裏と表のどちらも知る人間は多くはない。大抵は裏を知っている者が表向きの身分を知っているにすぎない。
真夜中、時刻は深夜に近い時間である。
公園で二人っきりで歩く者がいる。男女だ。デートなのかと思いきや、とくにそんな雰囲気は感じられない。
この二人はデートとして来ているのではない。調査である。
先に口を開いたのは男の方だった。この男は表向きの名を蟬ヶ沢卓といい、コードネームではスクイーズである。
「こんな時間に任務に連れて行かなきゃいけないとは」
と、スクイーズは女と歩いてから終始愚痴を言っている。
女――スクイーズの監視対象である蝶は、はいはいとスクイーズを雑になだめながら愚痴を聞く。彼が普段はあまりしないむすっと不機嫌な顔を隠さずに出しているのを察して、聞き役に徹しているのだ。
スクイーズが蝶を任務に連れて行きたがらないのはいつものことなのだ。
「しょうがないじゃない。今回は連れていかないと分からない任務なんだから」
「怪我でもしたらどうする」
蝶は公園の遊具を除き込んだりしてなにか異変がないか探す。
「鉄壁の防御があるから安心してよ」
「大して保たないくせに」
スクイーズは周囲を警戒しつつ、蝶を見る。
「気絶した後の逃走はお願いね」
「置いて行ってやる」
「別にいいよ。ターゲットは全部取り除いてあげるから逃げといて」
「前言撤回。何が何でも連れて帰る」
「そこまで言ったならちゃんと逃げてよ……っと」
遊具にぶつかり、転ぶ。蝶は慌てて手を付こうとする。
「あれは冗談だ」
スクイーズが蝶の右手を掴んで支えた。
公園を歩いて人通りが多い道につながる出入り口に着く。公園から出た先で男女が腕を組んで歩いているが、公園には一向に来る気配がない。
蝶とスクイーズは歩きを止めないので、出入口からはどんどん離れ行き再び人気がなくなる。人が完全に見えなくなるとスクイーズは安心したように溜め息を付いた。
「この時間にも関わらず人がいなくてよかったと思う」
「ここはツイン・シティから結構離れているからね。衰えた地域には近寄りたくないんでしょ。公園に人がいれば栄えている証拠ってわけでもないけどさ。人が居なくて調査しやすくていいじゃない。」
この公園の近くには立体駐車場があるが、ツイン・シティという名の大型百貨店や専門店の駐車場がある為、そちらの方が利用されていて、通行人以外はここにたむろすることはない。
二人は公園の中心地の銅像前に着く。そこそこ広い公園内で一番目立つものだが、そこには誰もいない。園内を歩く中で二人は誰ともすれ違わなかった。出入口に人がいたのを見ると誰も入りたがらないのではないかと思ってしまう。
「普通はちょっと人の気配があるところで落ち合うものだと思っていたんだけど、大人の密会は堂々と会うものなのかしら。そこんところはどうなの、社会人代表」
「生憎、私にはそういった人はいなくてね。そういう貴女はどうなんだ、生徒代表」
「私は密会する以前にいないって。そういった相手を作る時間がないからね。そこの中年と過ごしてばっかだから」
そこの中年――スクイーズは顔をこちらに一切向けず、どこかを見ている。
「…………」
「あのー、一応……これぼけたつもりなんだけど」
「………ああ」
彼は振り向かず、とても気まずそうに答える。気のせいか汗もかいているように見えた。
「……すまない」
「なんで謝るのよ。別に不満があって言ったわけじゃないのよ。そりゃ、セミさんと一緒に変えるのが多いってのが事実だけど、だから彼氏が出来ないって訳じゃないし」
そうじゃないんだがと呟き、スクイーズが咳払いをする。
「彼氏と過ごせるような時間は取れるようにする。それと、スクイーズだ」
「別にいいって。彼氏なんていらない。って、今のはセミさんでも良いじゃない」
「今は任務中だ」
蝶は軽く溜め息を付く。
「言葉遣いといい、徹底しているわね」
「形だけだ」
公園を通り抜け、立体駐車場前の入り口に着く。
何年か前、二人の上司たるレインが受けた任務で起きた現象の場所だ。殺意に反応し、向けた対象を攻撃する動物がいたのだ。その動物を作り替えた者は既に処理はされたが、残党の確認及び処理を任されたのだ。
何年も前の事件を掘り起こしたのにも理由はある、今二人が追っているもの――ドッペルゲンガーと呼んでいる者と、作り替えられた動物に共通のものがあるのではないかと言われたのだ。
立体駐車場は公園と同様に人気も無く、それどころか車もろく駐車されていない。車の下などに潜んでいることを想定し、車から離れて探索をしていく。
蝶はわずかに能力で探知をしつつ車に近づいて探そうとするが、スクイーズが制止し、先に見てくる。
「一応言っておくけど、そこの車には生き物はいないよ」
「ゾンビのようなものなら貴女だって相手が動いていない限り分からないだろう?私が先に見た方がいい」
蝶はスクイーズのジャケットの裾を引っ張る。
「MPLSだったらセミさんは一発でアウトでしょ。ほらどいて、なんか危なくなったら私を引っ張ればいいじゃない」
飄々を言う蝶の言葉にスクイーズは眉間を押さえた。
「あのな……大根じゃないんだぞ」
上階へ上ると、レインが遭遇したゾンビ犬の現場に着いた。現場に着いてもこれまで来た道と同じように無人で車もない。ホームレスが使っていたのか、空の段ボールが転がっているくらいだ。
「以前レインが報告したゾンビ犬みたいなのが発見されたのはここってわけね」
「その犬、ペットだとしたら飼い主が悲しむだろうな」
犬がいたと思しき場所を見て、彼は目を細める。
「悲観的なのは良くないよ。セミさん」
「“スクイーズ”」
「……はいはい。ま、こんなところで犠牲になっていると思うよりも、どこかで生き延びていると思っておいた方がいいよ」
どこかで生き延びているのところでスクイーズは蝶を見る。
「……飼ったことがあるのか」
「昔、ね」
「……生き延びているさ。君が飼っていたペットならきっと強い」
スクイーズの根拠のない自信に蝶はくすくす笑う。
「そうね。そう思っているわ」
結局、駐車場には何もゾンビ犬なんてものはおらず、残党もいないと判断した。
駐車場を後にし、公園に戻る。自動販売機のあるベンチで休むことにした。
二人は自販機で飲み物を選ぶ。彼が自動販売機から出したのはブラックコーヒーだった。
蝶は首をかしげた。普段の彼ならばブラックを好んで飲むことはしないのだ。
「今日はブラックなの?」
「今は、だな」
スクイーズは缶を開けると一気に飲む。あからさまに苦いと顔に出ていた。あまりにも素直すぎる反応に蝶は苦笑いする。
「苦いのが苦手ならいつもみたいにミルク入りを選べばよかったじゃない」
「後でそっちを飲むさ」
蝶はいつもと同じようにカフェオレを選ぶ。
「それもまたスクイーズとしての行動?」
「かもな。もう昔からやっていることだから何でそれをしているのかも忘れてしまったさ」
「ブラックスクイーズに、ミルクセミさんって感じね」
「ちょっと!変な名前つけないでちょうだい!」
(あーあ、いつもの喋りが戻ってきちゃった)
今がスクイーズであることに固執する割にはあっさりと蟬ヶ沢としての振る舞いが出ていることに蝶は頬を緩める。
「不味そう」
「そんなことないわよ」
スクイーズはムキになって答える。
蝶は くくっと笑いを堪えながら、言う。
「”今“なら、ブラックよりもミルクじゃない、“セミさん”?」
私は自動販売機から取り出したカフェオレを彼に渡す。
彼は口調が戻ってしまったことに気づいて、悔しそうに呻く。
「今だけミルクスクイーズになるってのはどう?」
「そんな名前だとミスを犯しそうだな」
「いっつもブラックだと胃を痛めてしまうから、たまには」
スクイーズはようやく蝶が渡したカフェオレを貰う。
「気のせいか貴女といるときは、いつもミルクみたいに手緩くなる気がするわ」
「さしずめ私はコーヒー?」
「むしろ砂糖よ。馬鹿みたいに甘ったるい」
****
休憩を終えて、公園ももう一度見ていくことになった。行とは違うルートで、道が細く、雑草も多い、パッと見では道に見えないところだ。
足元を何かが引っかかった。
スクイーズが「ん?」と足元を見ようとするとざさりと茂みから何かが出てきた。
「………――――!」
スクイーズはタックルに近い勢いで抱き付かれ、勢いに負けて倒れる。
茂みから飛び出してきたのは、猫だった。鳴き声はほぼなく、呼吸なのか肺からただ空気がもれているだけなのか、ひゅーひゅーとした音だけを出している。猫は倒れたスクイーズと蝶の一メートル手前でわずかに揺れつつ空中に止まっている。足をじたばたさせているので、空気による固定でも、空間操作による停止でもない様だ。
スクイーズの上に乗る彼女は震えている。
「スクイーズ……」
苦しそうに呻きながら呼ぶ。彼女が能力を使っているのだ。普段スクイーズの許可がない限りは使用を禁止させているのにもかかわらず。
「馬鹿!私が許可を出すまで、能力を使うなってあれほど」
「攻撃防げなかったようじゃあ、その指示には従えない。でさ、申し訳ないけど、能力使って吹っ飛ばしてくれないかな」
「生き物なら」
「私はこいつらを押さえることは出来ても、こいつらを倒せない。こいつらはただの物体になっている」
「分かった」
三秒ほど充填をする。充填の間、少しだけ目の前のこの猫たちについて考えた。この猫たちの中に蝶が飼っていた猫がいるのだろうかと。スクイーズを押し倒す瞬間、彼女は何かを叫んでいた。スクイーズの名でもない。聞いたことが無い名を。
充填が完了し、肺を発射の姿勢に変える。スクイーズの上に覆い被さった彼女にも今発射されるのが解ったのだろう。
発射の瞬間、彼女が何か言ったように聞こえた。
発射された衝撃波そのものは着弾するまで音はしない。モスキート音のような高音で、聞こえたとしたら相手にしか聞こえず、聞こえてもただでは済まない。
宙に浮かんだ猫たちは瞬時にばらばらになり、肉と骨と血をばらまく。猫たちの真下にいたスクイーズ達には一切掛からない。彼女が方向を変えているのだろう。自分たちの上空には透明な傘があるように血肉は脇を流れていく。
落ち終えるのには時間はかからなかった。周囲がばらばらの血肉なのに匂いがまったく感じられない。匂いも別の方向へ流しているらしい。
「終わったぞ」
「うん」
蝶はスクイーズに覆い被さったまま訊ねる。
「ねえ、ちょっと聞いてもいい?」
「……離れてからにしてくれないか。それか、遮断を……この状態は見られたらまずい」
女子が上に乗っている上に、抱きつかれている状況にスクイーズの心拍数が上がる。
彼女は淡々とスクイーズに尋ねる。
「振る舞いを分けているのはなんで?」
スクイーズは蝶の頭を撫でながら考える。
きっかけはなんだっただろう。蟬ヶ沢としての自分を持ってきながら任務を遂行してしまうと、相手が惜しく思えてしまった時だろうか。自分たちが狩る者が実の所、普通の人間と大差ないのではないかと思ってしまったときか。
重大任務を放棄して彼女を奴らから隠そうとしたときか。
「……なんでだろうな」
「……私も何か振り分けた方がいい?」
「どうして」
「その方が、気が楽になりそうじゃない」
「……」
「さっきは処理を任せてごめん。やろうと思えば倒せるといえば倒せるのよ」
「ああ」
「肉体の中に流れている液体、全て逆転させてしまえば、それこそスクイーズの能力みたいにばらばらになるわ」
「蝶」
「これはただの逃げだわ。あの動物は知らないものでも」
震えた声で答えを聞くと、胸がずぎりと痛む。
「蝶……」
「肉が細切れになるのが、気持ち悪いくらい見える」
「蝶……」
「似たようなのが崩れるのが」
だから彼女には能力を使って欲しくない。
「蝶……。もういい」
「“スクイーズ”、今は“ウェザー”だって」
「蝶は蝶よ」
声に笑いが混じる。
「セミさん、卑怯」
「卑怯で結構よ。蝶は蝶のままがいい。いて欲しいのよ」
任務から引き揚げて、蝶を送り届けた後、蟬ヶ沢は再び公園に来た。誰も来ないこの空間は一人で考えるには最適なのだ。
ベンチに腰掛けながら、自身の言葉を振り返る。
「蝶は蝶のままがいい。いて欲しいのよ」
蝶の前では本音でいるのが多い、ましてや接触していた時ならば嘘なんてすぐにばれてしまうだろう。しかし今回は本音が過ぎた。
自分というのを振り分けて、振る舞っている。本来の自分はどちらなのだろう。自問するまでもない。答えは分かっているのだ。分かってはいても、自分と言う人格は全て蟬ヶ沢だという訳では無い。スクイーズというには自分の行っていることに迷いがあるのも確かだ。
「私も我儘ね」
割り切ってしまえば楽だったろうに。割り切らせたくなかったのはきっと変わってしまう彼女を見たくなかったのかもしれない。淡々と敵を処理していくさまなんて見たくないと。汚れ仕事は自分だけでいい。
蟬ヶ沢は数時間前に蝶から貰ったカフェオレを飲む。ぬるめから冷えた状態になっていたが、蟬ヶ沢は構わずに飲み干す。やたら甘ったるくて、コーヒー特有の苦みが控えめ。こんな飲み物を任務中に飲んでは気が緩んでしまいそうだ。
「これ以上甘ったるくなったら困るわね」