001.~
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この小説の夢小説設定簡易的な夢主設定
夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
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蝶がベッドで寝ている。スクイーズの強化された目で見てもただ寝ているようにしか見えない。寝ているだけのはずだ。
さらりと頬に触れる。
「早く起きなさいよ」
スクイーズの声掛けに蝶は起きない。起きられないことを知っている。それでも目が覚める事を願って声を掛け続けているのだ。
ここは病院。入院患者として彼女はここで寝かされているのだ。
スクイーズは見舞いとしてここに来ている。
蝶がいる病室は個室。部屋の扉のプレートには関係者以外面会謝絶と書かれている。スタッフにもナースコールの呼び出しが無い限りは来させないようにもしている。
スクイーズはベッドの隣に置いた椅子に座り、猫背気味になる。
スクイーズは自問する。蝶がこのように昏睡した瞬間を繰り返し思いだす。
何故、敵の攻撃に気付けなかったのか。手が届けば、引き寄せることも出来たはずだ。手を引かずとも自分が庇えばよかったのではないか。
今回の任務は“蝶がMPLSの攻撃を受ける”のが目的だというのに、スクイーズは反逆行為に等しいことを考えていたことに気づいていない。
****
以前、十助からアイスクリームの好みを当てられた時のことを思い出した。
商品として売りに出すアイスを選考した後の片づけの時のことだ。
「ねえねえ卓、ちょっと来てよ」
「はいはい、何よ。片づけはさっさと済ませないと駄目よ」
蟬ヶ沢の注意に十助は聞く耳を持たず何かを探している。今日選考に出されたアイスのどれかを探しているようだ。
「卓の好みは……ええとね、これだ!」
十助の持ってきたアイスには見覚えがある。選考する前に蝶が食べたがっていたアイスなのだ。
「……どうしてそれなのかしら?」
「まあ、食べてみてよ」
「うっ…」
任務対象のアイスを食べるのは抵抗がある。
食べるのに躊躇しているが、蟬ヶ沢は知っている。今差し出されているアイスは、あくまでも十助が試作品として作ったものであることを。そのままではアイスは廃棄される。一個だけではあるが、折角作られたアイスがちゃんと食べてもらえると思うと食べてあげるのがよいのではないかと。
「そうね……」
少し迷ったが食べてみる。
蟬ヶ沢は十助が作ったアイスを食べた人間がどのような反応を取るのか知っていた。
一口食べれば気が付くともうすでに二口目を口にしているのだ。美味しいと言うだけならいくらでも言えるが、このアイスではそれだけでは言葉が足りない。
同じクリエイターとして、彼がここにいるのが哀れだと思った。
アイスを完食すると十助がとんでもない質問を掛けてきた。
「卓は蝶が好きなの?」
まだ口の中にあったアイスを吹き出しそうになった。
「あ、貴方ね」
十助の無邪気に爆弾を投げるような質問に驚き、胸をさすり、肺の調子を整える。
「蝶の好みと同じ」
「アイスの好みが一緒だと相思相愛とでも言うんじゃないでしょうね」
「卓はそのほうがいいの?」
「そうじゃなくって!」
パニックにせいか蟬ヶ沢は顔を赤くし、大人げなく声を荒げてしまった。
「僕は“そうしそうあい”はよくわからないけど、卓が彼女を大切にしているように、あの子も卓を大切にしているよ」
十助はきっぱりと言い切った。
蟬ヶ沢は焦った。一瞬、十助は自分が彼女に関してひた隠しにしてきたことがばれたのかと思った。良くも悪くも十助はアイス以外には一切の興味がないのだ。分かるはずがないのに半分当てられた。もう半分は蟬ヶ沢も解らない彼女のこと。
(蝶も大切にしている…?)
十助の言葉を真に受けるつもりはないが、彼女も自分に関して何かをさせてしまっているのだろうか。そう思うと体に痛みが走った。
「このアイスが好きな人は…そうだな」
痛む。体の中心あたりが痛む。
「痛いはずなんだけど、痛みをないと言い聞かせているような」
痛い。
*****
いくら待ったのか分からない。長くいたのだろう。
「起きなさいよ。チェックして欲しい仕事もあるし、任務は終わってない。…早く起きてよ」
扉越しに面会時間の終了を告げられた。
「また来るわ 」
****
足取りは重い。彼女の能力で相手の能力は無効化されていると言われても目覚めていない状態ではそれが信じられない。
能力の持ち主をどうするのかは上に任せるにしても、今の最大の問題は蝶だ。
このまま目覚めなかったら?そう思うと目の前が真っ暗になりそうだ。
ずっと昔、蝶が 統和機構に入らざる得なかった時よりも何年も前。MPLSと知っても、報告しなかった。機構には知られたくなかったのだ。後々、自分のせいで入ることになってしまったが、せめて日常は普通に過ごさせたかったのに。
後ろから慌てて走る音が聞こえてきた。
「セミさん!」
スクイーズが振り向くと息を切らした蝶が立っている。
スクイーズは視界が揺らいだ気がした。
「なんかもう起きたならさっさと出ろって言われてね。セミさんが去った直後に私起きたっぽくって、ちょうどいいから一緒に帰ろうって思ったってワケなんだけど…」
蝶を包む。蝶が驚いて離れようと抵抗するが、合成人間の腕力には敵うわけない。
「心配、したじゃない」
蝶に自分が鼻声になって明らかに泣いているのを悟られても、スクイーズは放そうとはしない。
「うう、ごめんなさい。…それよりさ、ここ病院。病院だから。見られるよ?」
「今くらい能力使って散らしてよ」
「無茶いうなあもう」
蝶はそう言いつつ能力を展開する。見られる可能性は完全に無くすことは出来ないが、近隣に合成人間の類はいないので、まず見られてはないはずである。
****
無事に意識が戻った蝶を家に帰す。
病院でのスクイーズの様子がよほど変だったのか蝶は車に乗っていた間、何度も自分は平気だと言ってきて、苦笑いしてしまった。
蝶の家の前に着いてもなお念を押して言ってきた。
「だーかーら、もう大丈夫なんだって!明日システムの方で検査でも確認させられるけど、もう毒素も要因もないから!そもそもそんなにヤバイ奴じゃあなかったし。そんなにしょげなくてもいいの」
「はいはい、分かったわよ」
蝶は疑わしそうにスクイーズを睨むが、溜め息を付く。
「セミさんに心配かけさせたなら……その、ごめんなさい」
いつもの彼女らしくなく気落ちしている。
“卓が彼女を大切にしているように、あの子も卓を大切にしているよ”
十助が言っていた言葉を思い出す。
「ねえ、蝶」
「なに?」
「私が今日の蝶みたいなことになったらどうする?」
下らない期待と下心で意地悪なことを聞きたくなった。
蝶はひょうひょうと答える。
「そりゃあ、そもそもそんな目に遭わせないようにする。何が何でもね」
「任務で私が攻撃を受けないとしてもかしら?」
「勿論」
蝶が手を鋏の形にし、空を切る仕草をする。ここから先はスクイーズにしか聞かせない、見せないと言っているのだ。
「私はセミさんを守れるなら構わないわ。それこそ、 統和機構を裏切ってでもね」
顔こそいつものとぼけた顔だったが、声音は真剣そのものだった。
「軌川君もあなどれないわね……」
この心臓の痛みがなんなのか十助に聞きたかった。