001.~
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この小説の夢小説設定簡易的な夢主設定
夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
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今日は蟬ヶ沢と蝶はお互い休日で、出かける場所を考えていた。蟬ヶ沢から「私の家に来ない?」と提案があったので、蟬ヶ沢の家に行くことになった。
****
郊外にあるマンションの上階。外装なら蝶も見たことがあるが入ったことは無い。
この部屋はもともと統和機構から宛がわれていた部屋だ。誰も来ることが無い部屋。
他の合成人間ならが何度か入ったことがあるが、一般人は一人も入ったことが無い。彼女を除いて。
蝶は知らないが、任務に連れて行かなくてもいい時、蝶をなんとしてでも任務に行かせない為に、気絶させていた。気絶後、彼女を保護する為に部屋で寝かせていたのだ。蟬ヶ沢の車に乗せて任務に行ってもいいが、身の安全では部屋にいてもらった方がいい。彼女の能力がいくら探知と回避させるのに優れても、それは彼女の意識があってのもの。こんなことをしているとレインに聞かれでもすれば、きっと「過保護ね」と苦笑いするであろう。
****
蟬ヶ沢の部屋の扉の前に立ち、
「初めて来た」
と蝶がぼそりと零す。
部屋に入り、客間に通す。マンションの入り口からずっと彼女は興味津々を隠さずきょろきょろとあたりを見ている。蟬ヶ沢が許可を出したなら今すぐにでも客間を隅々まで見て回りそうな勢いである。
座椅子に蝶を座らせ、蟬ヶ沢は飲み物の準備をしようと台所に行く。
「待ってて。さて飲み物…どれにする?」
「どれって、なに置いてんの?」
「ああそうだったわね。忘れていたわ。蝶はこの部屋に意識がある状態で入ったのは初めてね」
“意識がある状態”に蝶が怪訝な顔を浮かべる。
「意識がある状態って、何その意味深発言。変なことしてないわよね?」
蟬ヶ沢は固まる。
「……なにも……していないわよ」
歯切れの悪い蟬ヶ沢の言葉に蝶が突っ込む。
「その間はなによ」
「…なにもしてないわよ」
「してないならいいけど。……何かあったら責任取ってよ」
「……そうね…責任を取るなら、今のうちに貰うのもアリわね」
蟬ヶ沢の冗談に蝶は本気で焦り始める。
「う、嘘でしょ」
「冗談、冗談よ」
蝶の疑いの目つきが怖いので話題を変えた。
「ところで、飲み物は?紅茶もあるんだけど、フレーバーがありすぎてね。ちょっと見に来てよ」
(寝ている間に頭を撫でているとかは言わない様がいいわね)
蟬ヶ沢はこっそり陰で苦笑いをした。
やれやれと蝶は蟬ヶ沢がいるキッチンに向かう。
紅茶のフレーバーは何種類もある。蟬ヶ沢個人で買ったものはほとんどなく、多くは自ら監修したものを見本として貰っている。何も紅茶のフレーバーばかりデザインしているわけではないが、色を変えただけなどで一度に貰う量が多いのだ。中には蝶も見たことがあるものもある。
「こんなに溜めているの?どうせ自分でデザインした物を貰ったんでしょ。こんなに溜めているなら誰かにあげればいいのに。私には買っているから貰う余裕はないけど」
そういいながら、蝶は目に入ったものそのままで決めたかと思う位の即決で選び、蟬ヶ沢にティーバックを渡す。フレーバーは##NAME2##だ。この紅茶の中では一番人気があった商品であった。
蝶はティーカップもすぐに見つけて、二人分用意する。
意識上では初めて来たはずなのに、蝶はすぐにティーカップを見つけた。さも自宅にいるかのような振る舞いで、どちらが家主なのかわからない。
「感覚的には初めて来たって、その割にはすんなりティーカップを見つけたわね」
蟬ヶ沢がお湯を沸かしている間、蝶はティーカップをプレートに置いた。
蝶は肩をすくめて言う。
「すんなりも何も、目の前にあったもの。よほどのおとぼけでない限り分かるよ。配置も見たらどこに入れているのかも予想が出来るしね」
感性を把握されているということなのか、蝶の観察眼が優れているのか。どちらにせよ、よく見てくれているには違いないので蟬ヶ沢は喜ぶ。
湯を沸かしている間にお菓子の準備もする。部屋に来る前に、スーパーに寄って買ってきたお菓子を開ける。紅茶のお供としてスタンダードなクッキーである。
お盆にお菓子を乗せながらパッケージを眺める。
「蝶も新商品には目ざといわね。このパッケージが出たのはつい最近よ」
「あれ?そうなの?見たことないなって思ったから商売相手のサンプルとして欲しいなって思っただけなんだけど」
蝶は見たことが無い商品に興味が向くことが多い。新商品に限らず、その店で初めて出された物にも興味を示す。
「その流行に興味が無い癖に、変化に気付く鋭さと速さは昔から凄いわね」
蝶の感性の鋭さを買ってバイトとして雇っている。同じようなデザインであっても微妙な差で売り上げが変わる。デザインした本人でさえ迷う時は彼女に聞くことになっている。勿論最終的な判断は蟬ヶ沢だが、蝶の意見はとても参考にしている。
「お褒めの言葉有難くチョウダイシマス」
「いっそこのままこっちに就職してくれたら助かるくらいよ」
これは蟬ヶ沢にとっては任務とは無関係に本心である。
「またそれ」
「いいじゃない。任務の連絡とか楽になるわ」
実際、作業中は二人っきりでいることが多い上、用があるときは蝶の能力で人払いをして、デスクワークをしながら任務の話をしている時がある。蝶がまだ学校にいる時は来てもらって任務の話をするようにしている。
「人の将来を決めないでよ」
「じゃあ、ちゃんと自分で決めなさいよ。自分で決められるものは決めないと、どんどん流されるわよ」
統和機構に所属している限り自分の意思と言うのは在って、無いものである。表向きの姿が好きでいられるのは限られている。
蝶は蟬ヶ沢を見ると、大げさに溜め息を付いた。
「……はあ」
その溜め息は何かに呆れているようだ。
「ちょっと何よそれ」
「なんでも。お湯湧いたから入れるよ。危ないから、セミさんどいて」
****
蝶には将来というのが実感がわかない。常に今の為に動いているせいか、あまり未来に興味が持てないのだ。今を生き、未来も同じように過ごす。平穏無事にいることが将来の夢らしい夢だ。 統和機構に所属してからはその平穏も失われるかと思いきや、何も起きなければ案外日常と変わらない。平穏な時間はだいぶ限られてしまったが。
全てが自分の意思のみで決まっているなんて自惚れはないが、それでも存在していた選択肢は自分で選んだつもりである。
統和機構に入ることになったときも、即決で入った。この能力ならば逃げることも可能だったであろう。そうしなかったのは、今、蝶の隣にいる人物が主な要因である。少なくとも彼がそこに在籍していなければ蝶は入る気がさらさらなかったのだ。
そう隣にいる人物がいるから。
憧れとも言える師匠であり、目標で、友人、戦友、そしてちょっと気になる人物。
どうせこの世界にいるならこの人の近くにいたいと思っているのだ。
この人はきっと小娘の戯れだと思っているであろうが。
そう思っていて欲しい。
仕事に必要な買い出しを終えて、蟬ヶ沢がとんでもないことを言ってきた。
「私の家に来ない?」
その顔は何かを期待している。
彼のこの言葉に蝶は酷く驚いた。彼との付き合いは長い。ただの知り合いというよりも、友人と言ってもいいくらいの分類には入っていそうな仲だ。事務所こそ何度も足を運んだことはあれども、彼は家に入れることは決してなかった。行きたいと言ったことは無いが、誘われたこともなかった。友人関係でもあるとはいえ、彼が親子ほどの年の差に見えるせいもあるのだろうと思っていたが、これは一体どういう風の吹き回しなのだろうか。
「それ、本気?」
嬉しさもあるが、今までにないことに戸惑いも隠せず、疑ってしまう。
さりげなく蟬ヶ沢の手に触れようとするが止めた。こんなことに能力を使いたくないのだ。どうせ触れても解ることは私に流れを向けているかどうかだ。
蝶が不信感を抱いていることに気付いて、蟬ヶ沢は不満げに口を尖らせる。
「本気ってなによ。どうせこのあとどこかに行く予定もないんでしょう?」
「それもそうだけど…来ていいの?」
「来て欲しくないなら誘ったりしないわ」
少し怒ったように言う。
「それもそうだね…うん」
「……やっぱり、トリスタンのアイスがいい?」
なんだか寂しそうな表情を浮かべる。蟬ヶ沢の顔を見ると、蝶はその瞬間戸惑いも疑問も吹き飛んだ。
「や、やだ!それは嫌!」
つい声を荒げて否定してしまった。
「それじゃあ決まりね」
蝶の大声に蟬ヶ沢は驚いたが、すぐに嬉しそうににっこりと笑った。
以前からこの部屋には入ったことがあるそうだが、その時、蝶の意識が失われていたらしい。どうやら意識が無い間に何かしていたようだが、それは後々問い詰めよう。
紅茶の準備の時、少しだけ将来に関して話をした。
蝶の将来に関して蟬ヶ沢が忠告をした。
「自分で決められるものは決めないとどんどん流されるわよ」
そういったこの人の顔はなんだか申し訳なさそうで、私が 統和機構に入らせることになったことにまだ後悔があるらしい。
困ったことにこの人物は鈍感なのだ、とても。そう、とても。
何かに流されているとしたら、きっと貴方に。
****
紅茶を入れて、クッキーも一緒に食べながら雑談をしていると、蟬ヶ沢が
「はいこれ」
と短冊と渡してきた。
蝶は短冊を受け取り、裏と表を交互に見る。どこからどう見ても七夕に使われる短冊である。丁度すぐそばに注文で引き取った竹も一本立て掛けられている。余った竹をどうするつもりなのかと思ってはいたが、今日が七夕であることも考えると、この短冊に願いを書けと言う事なのだろう。
「ここに入れたのって、もしかしてこれを書くため?」
「そうだけど?ああ、はい、ペンはこれを使ってね」
蟬ヶ沢はうきうきと楽しそうにペンを渡す。
「なんか残念」
「何でかしら?」
「なんでも」
「半分は次の任務の話ね。今すぐ話すことではないから、それは後ね」
「さいですか」
書きながら二人は雑談を続ける。短冊に願いを書くだけではなく、飾りも作ることになった。二人ともデザインに携わる仕事をしている為か、飾りも本格的な物が出来上がった。
「短冊に願いを書くなんて何年ぶりかな」
「あら、蝶の家では七夕をしないの?」
「家ではね。学校でも短冊に願いを書くなんて小学生の頃だけだわ。自分から書こうとも思わなかったし」
「お願い事とかないの?」
「あると言えばあるけど…そういうのって自分で叶えたいと思わない?」
「それはそうだけど、こういうのはあえて宣言として言うものなのよ」
「宣言…ねえ。流れ星じゃないんだから」
「願い事をしっかり言って自分に叶えようと鼓舞するなら流れ星でも七夕でもいいのよ。自分の願いを自覚するのが重要なんだから。ねえ、ところで、何のお願い書いたの?」
「見なくてもいいでしょう」
「そう言われると、なおさら見たくなるわね。見せなさい」
蟬ヶ沢は強引に蝶が書いた短冊を見ようと迫ってきた。
「嫌だよ!」
にやりと蟬ヶ沢が笑う。
やばい、と危険を察知した。蟬ヶ沢だけ能力が上手く働かないが、これに限っては長い付き合いから分かる。“向かって”来る!
ずいと蝶に覆い被さってきた。腕を伸ばし、蝶が書いた短冊を無理矢理見ようとしている。
「ふ、ふざけるな!おっさん!」
蟬ヶ沢が覆い被さる為に必然的に密着することになる。蟬ヶ沢から逃れようととっさに反るが、反りすぎて座椅子が蝶ごとひっくり返った。
「隠されると見たくなるものよ」
何が彼をそうさせているのか、何がなんでも見ようとしてくる。この中年の悪い所だ。からかい癖がある。
蟬ヶ沢は短冊を取ることに集中しすぎて気が付いていないが、かなり顔が近い、蝶の顔の真上にある。このまま下を向いてしまえば…と思うと蝶は焦る。
(この鈍感ゼミ!)
蟬ヶ沢の足を蹴って抵抗するが、肉体が強化された人間に効く訳がない。この密着した状態ならば蟬ヶ沢にも能力が効く。しかし、使いたくない。蟬ヶ沢も蝶が能力を使うことはないと解っている。
「重い!」
「重くないわよ。のしかかってないもの」
そう、確かにのしかかってはない。のしかかってはいないが、重なっているのだ。上半身はほぼ重なって鼓動さえ聞こえそうな程に密着している。
「重いっていうか、その…重いのよ!どいて!」
蟬ヶ沢は更に腕を伸ばして、人が描いた短冊を取ろうとしている。
「その短冊見せてくれるまではどけないわね」
「そこの竹に掛けるから、私が帰った後で見なさいよ」
「しょうがないわね」
「じゃあもういいでしょう。さっさとどいて」
「なんで?」
そう言ってのしかかってきた。若干肺が潰されて、ぐえと声なのかよく分からない音が出てきた。
「このセクハラオヤジ!ふざけんじゃねえわよ!」
「さっきから御期待があるように見えた気がしたけど」
「ドセクハラミンミンゼミ!木に帰って!」
「言っておくけど、合成人間には交配能力は無いわよ。そういう実験がされていると聞くけど、成功した例はないって」
しれっと蟬ヶ沢は言ったが、身も蓋もない言葉にげんなりと蝶が少し引く。
「どストレートにどうも…」
「安心して、正直襲うなんて気持ちはさらさらないわ」
現状が既に襲われ中だというのにそれを仰るかこの人は。
「ところで、もうどいてくれない?お・も・い」
蝶が怒っても蟬ヶ沢は意地悪そうな笑みで、どこうとはしない。
「やっぱり、教えてくれるまでどけないわね」
「せえぇい!」
容赦なく振り上げた膝は蟬ヶ沢の肺を強打した。
****
二人は寝転がったまま話を続けた。蟬ヶ沢は思わぬ攻撃に遭い胸の辺りをさすっている。
「私ってさ、気絶した時に何回くらいこの部屋に連れ込まれたの?」
眉間に皺を寄せて、言いずらそうに答える。
「全部…と言いたいけど、全部プラス数回ね」
「プラス数回?」
蟬ヶ沢は部屋をぐるりと見回す。この部屋に盗聴器具がないか潜っているのだ。
蝶もすぐに盗聴の疑いを悟り、探る。
「盗聴の件なら部屋にはその類の機械はないわ。ま、メロー・イエローなみの耳の良さでない限り聞かれない。本当にセミさんは心配性ね。禿げるんじゃない?中年なんだし、禿げてもおかしくないわよね」
「私は禿ないし、あのメロー・イエローは聴力がいい訳ではなくって…いや、いいわ。聞かれてないならいいわ。システムに入ることになる前、蝶、貴女何度か危ない目に遭っているわね?」
蝶の眉がぴくりと動く。
「何をしているのかはわからないけど、迎えの途中で気絶することがあったわ。そのまま親御さんに引き渡してもよかったけど、親に心配させたなくと思う貴女のことだもの。意識が戻るまで部屋で寝かせたことがあるわ」
「…………」
「こういった能力を持った者がシステムに入る前、何をしていたのか調査が入るものだけど、遡れないくらい前。貴女と会って間もないときもあったわね」
「…………」
「何をしていたのかは聞かないわ。でも、これだけは守ってほしい。私の目が届かないところで危ない目には遭わないで。もっと言うと、危険な目には遭わないで」
「……それは監視役としての命令?」
「いいえ、私個人のお願いよ」
これは心からの本心なのだ。
****
蟬ヶ沢が何故蝶を自分の部屋に入れたのはいくらか理由がある。一つはこれまでは招待したくても出来なかった。システムの者以外を入れるのは怪しまれるからだ。彼女がシステムに入ったことは望まないことではあるが、密かに喜んだのはここだけの話だ。
もう一つは、蝶が未成年であること。未成年を連れ込む中年男性という絵面は、どうしても不純な付き合いがあるようにしか見えないのだ。統和機構に怪しまれたくない以前に、その手の誤解は恥ずかしい上、蝶にも迷惑が掛かる。
高校生を連れ込むのも充分危険な気がするが、身近な存在に高校生くらいの女の子がいるで、蟬ヶ沢は気にしないことにした。
任務の都合上、他の合成人間を入れることがあるが、人を招待するのは初めてで、そう、内心浮かれていた。客人を呼べる日が来るとは思ってもみなかったのだ。
注文していたものを買い取に行く途中、百貨店に大きな笹が掛けられて、枝には短冊が掛けられている。
「そうか、今日は七夕ね…」
二十代と思しき男性二人が楽しそうに短冊に書いている。一人は手足がとても長いちょっと顔立ちが整っている、もう一人はサングラスのようにレンズが黒い眼鏡をかけているヤクザのような強面だ。
(奇妙な二人組だな。いや、それを言ったら人の事は言えないか)
くすくす笑う。
蝶と自分の関係も正直なんと説明したらいいか難しい。同業者から始まり、雇い主とアルバイト、時折一緒に出掛けることも考えれば友人でもあるだろう。今は更に関係が追加されて、監視官と監視対象。戦友でもある。
あそこで短冊を書いている奇妙な二人組は友人だろうか。仕事仲間にしては仲が良すぎる気がする。
(こういのは一緒に書く方が楽しいでしょうね)
今彼女は台車を取りに行っている。
短冊の願いをしばらく見ながら待っていると彼女が戻ってきた。
「セミさーん!お待たせ!」
ガラガラと台車を押してきた。
蟬ヶ沢は台車に荷物を置く。荷物は竹である。仕事の都合上必要になったのだ。不足にならないように少しだけ余分に買ってある。
「ね、ねえ」
一呼吸置いて、勇気を出して言った。
「私の家に来ない?」
声が上ずってしまった。
****
腕に収まる彼女、以前車で助けに行った時に懐に入った時があるが、それとは状況がまるで違う。とっさに腕の中に入ることになったのは同じだが、このままでいるのが大きく異なる。
瞼を伏せて、寛いでいる。もしかするとこのままでいれば、彼女のことだ、寝るやもしれない。
仮にも蟬ヶ沢が蝶を監視しているのに、驚きの精神だ。
この子は警戒心が薄い。特殊な能力の持ち主の割には人に対して危機感というのを持たない。全体的に危機意識が薄いのだ。更に何か起きてもすぐに対処してしまうから注意してもあまり効果がない。
無敵とも言える能力を持っていても怪我もするし、攻撃も受けることがある。元々普段から能力を使うことがないらしいが、任務以外では能力を使うなという命令に真面目に従っているせいでもっと能力を使わなくなった。
身の安全の為にも任務外でも多少は能力を使って欲しい。以前不審者に追われていた時なんて能力を使わずに相手を対処しようとしていた。能力を使わなくても対処出来るようになりたいとか言っていたが、あまりにも体格差がある者も倒そうなんて平然と考える。無茶だ。
出来れば彼女に能力を使わせないで、自分が守れるのが一番なのだが……。
警戒心が薄い上、前向き過ぎるところがある。どんなことも、なるようになると楽観的な所がある。
(この子は何を考えているのだろう)
七夕に託けて呼んだのは、彼女の願い事に興味があったからだ。願いは自分で選び、叶えてしまうような子だ。願うほどのことはあるのか。尤も、願い事を見ようとしたら阻止されてしまったわけだが。
(後で見ていいって言っていたし)
「セミさんの願い事ってなに」
突然蝶が話だして、驚きのあまり心臓が止ったかと思った。
「そ、それは」
蟬ヶ沢は焦った。短冊に書いたのは文字ではない。イラストである。勿論ただのイラストではない。解る者には解るようになっている。
「ねえ、教えてよ。それとも見てもいいもの?」
「だ、だだだだ、駄目よ!!!!駄目ったら!!!」
動揺丸出しで拒否してしまった。
蟬ヶ沢の動揺が珍しいのか、蝶はきょとんとした顔になった。
「そんなに見られたくないの?」
「…う、うう」
「見せて」
「駄目よ」
蝶は顔を近づけて更に問う。
「本当に駄目?」
吐息が口に掛かる。さっき飲んだ紅茶の匂いがした。
「だから、…その」
困窮して天井を仰いでしまう。ああ、この子は警戒心が無さすぎる。
蝶は呆れたのか、怒りを鎮めようとしたのか、大げさに溜め息を付いて蟬ヶ沢の胸に顔を埋めた。
「ずるい。私は見せるのに」
「うう、ごめん」
「じゃあ、セミさんも“後で”教えてよ」
蟬ヶ沢が教えてくれるまで無理に聞かないと言っているのだ。
「…ごめん」
「ところで、もう一つ謝らせて」
「何」
「さっきはごめんなさい。悪ふざけが過ぎたわ」
「この状況が続いたままで言う?信用できないなあ」
蟬ヶ沢がのしかかってはいないものの、両腕はしっかりと蝶を抱えているのだ。
「だから…」
「あはは、ごめんごめん。セミさんのからかい癖は分かるから」
「……」
「次やったら殴るけどね」
「う!?」
ワントーン下げて言った言葉が本気で言っているのだと解り蟬ヶ沢は思わず自分の肺のあたりをさすった。
****
蟬ヶ沢は自分が書い短冊を蝶に渡す。
「いや、笹に付けなよ」
「もう一枚あるからいいわ」
「なんで二枚も書いたのよ」
「願掛けよ?どうせなら対象に付けてもらおうと思って」
ふむ、と蝶は蟬ヶ沢が渡した短冊を見ようとするが、蟬ヶ沢が止める。
「まだ見ちゃ駄目なの?」
「帰ってから見て」
「まさか、告白とかじゃないよね?」
「告白といえば告白ね」
「願い事書きなさいよ」
「ちゃんとした願い事よ」
****
蝶を家に帰し、帰宅して竹を見ると、蝶の短冊もさげられているのに気付いた。
蟬ヶ沢が帰宅したら見てくれと言っていたのを思い出す。
短冊を捲り、見る。
短冊には一切文字が書かれていおらず、絵が描かれていた。空いた場所に願い事を書くつもりだったのだろうか。
「鈴蘭……」
ただのイラストとしてなのか、花言葉なのか迷った。
「…まさか、ね?」
これはあくまでも予想が合っていればだが、もう一枚の自分の描いた短冊を見せなくてよかったと、本当に、本当に良かったと蟬ヶ沢は思った。同じような意味合いで花を描いたとすれば、間違いなく気付かれてしまうからだ。
蝶に渡した短冊には百日紅が描かれている。蟬ヶ沢なりの彼女へのメッセージでもある。
蝶が下げた短冊の近くに蟬ヶ沢も短冊もある。彼の短冊にも直物が、花が描かれている。
「千日紅なんて描かなきゃよかったかしら。ま、これはあの子に渡すものでないから別に見れらさえしなければ…」
待てよと、ふと自分の描いた短冊を見る。
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
蟬ヶ沢は自分が蝶に渡した短冊がなんだったのか。
部屋の中での会話が走馬灯のように走る。
「まさか、告白とかじゃないよね?」
「告白といえば告白ね」
「願い事書きなさいよ」
「ちゃんとした願い事よ」
半泣きだったり、真っ赤だったり今の自分の様子なんて気にしていられないほど急いで部屋から出る。手元の携帯端末の存在は部屋に置き忘れるほどに慌てている。
誤解であって誤解ではない、弁解をしに過去最高速度で車を走らせた。
短冊には百日紅が描かれた短冊が掛けられていた。