蟬ヶ沢さんは心配性
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夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
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001.建前と本音
蟬ヶ沢卓のデザイン事務所。ある一室に二人が部屋で作業をしていた。蟬ヶ沢卓と蝶である。蝶は女子高生の身分ながらも、ひょんなことから彼の事務所を手伝っている。表向き、二人はデザイナーと手伝いの関係である。
蟬ヶ沢卓とは、人間として紛れ込むための身分であり、コードネームはスクイーズという。
普段、彼は女性のような言葉づかいをするが、スクイーズとしてはその言葉を使うことはしない。蝶が統和機構の構成として入ってからもそのスタイルは変えなかった。そのつもりだ。
今、彼はスクイーズとしての振る舞いの為、女性のような言葉を使わずに話している。女性のような言葉づかいで言われているのに慣れているので、違いに戸惑っている。手伝いで何か叱るときは女性の言葉なのに、スクイーズとしては言葉使いを明確に変えている。蝶は少し彼の行動に違和感を覚えている。まるで無理矢理切り替えている様なのだ。
「おねえ口調」
「ん?」
「やらないの?」
「必要ない」
「おねえ口調の方が指示を聞き取りやすいので、おねえ口調で仰って下さい」
蝶の要望にスクイーズは眉間の皺を寄せて、額を押さえる。気のせいか頭痛が起きたような気がしてならない。
「上司に対する言葉とは思えないな」
「実際、言うほど上司って立場でもないでしょう?ただの私の処理役ですし」
蟬ヶ沢卓としての立場でも上司と部下の関係ではなく、行っている部門が違う上、蝶 はこの事務所の正式に雇っている者ですらない。それはスクイーズも知っている。このお手伝いとしてもスクイーズが個人的に頼んでいるので、関係図としては実の所スクイーズの方が下と言うのが正しい。
「あのな……」
「今の口調でいわれていると念仏でも唱えられているみたいで、どうにも眠くなってしまうんですよ」
蝶はわざとらしく、あくびの真似をする。
「要はつまらないと」
「そ」
スクイーズは視線で見まわし、気配も全て感じ取れるだけ察知し、少なくともこの場にイほかの構成員がいないことを確かめる。
どうせ他の者はいないし、間違いなく聞かれなくない人物には聞かれることがなければ、今回だけは話してもいいだろう。心の中で今だけだと言い聞かせ、諦めて蟬ヶ沢としての口調で話し始める。
「……仕方ないわね」
まるで目当てのアイドルを発見したかのように蝶の目が輝いた。スクイーズは蝶を睨むが、効果は雀の涙ほども効いていない様だ。続けて指示の内容を話す。
「これから私たちが向かうのはアイスクリーム店のイベントよ」
「ああ、蟬ヶ沢卓としての仕事か」
「そうよ。でも、それは表向きね。指令は教えられないけど、あなたは私の助手として来てもらうの。正直いなくてもいいわ。来たい?」
「アイス食べたい」
「正直でよろしい。でも、そのアイスはスプーキー・Eが実験で入れているのが入っているから駄目よ。食べてはいけない指示はきていないけども、食べてもいいと言う許可もないもの」
蝶が統和機構としての構成員で指令らしい指令は実の所一つしかない。スクイーズの付添いなのだ。彼の付添いということはつまり、
「……実験者の始末が今回の指令なのね」
ただ、彼が始末しているのを見ていろと言うのだ。
苦笑いする蝶に、心苦しそうに肯定する。
「そうだ」
「おねえ」
指摘され、スクイーズは眉間に皺を寄せていたが、すぐに戻した。
「………そうよ。だから来なくてもいい指令なのよ」
「ふふっ」
「なんで笑うのよ」
「いや?ふふっ。いいよ、来なくてもいい指令なら私は行かないで、仕事してるから」
指令で、蝶がスクイーズに付き添うか否かは指令しだいで変わる。今回は付添いの必要は選べるようだ。今回の様に選べるときだと、必ずスクイーズは蝶 を連れて行きたがらない。何が何でも連れて行かない。最初のころは気絶させてまで止めたのだ。
「やらなくてもいいわよ。帰りにアイスでも買ってくるから、大人しく待ってなさい」
「はいはい。行ってらっしゃい」
スクイーズの帰りを待つ間、画像をチェックする。手伝いの一つで、完成品として出来上がった者を第三者の視点で確認してするというのがある。自分では完成と思いきや思わぬところで粗が見つかりクライアントに苦情が来ることがあるのだ。特に、巨大なものに印刷するとなると、粗が見つかってはいけない。
画面とにらめっこをすること三十分、目の休憩の為に作業を中断すると、通信に九連内朱巳から連絡が来た。
出ると、彼女は今事務所の入り口におり、開けて欲しいとのこと。出迎え、さきほどまで作業をしていた部屋に連れてくる。
朱巳は部屋にスクイーズがいないのを見ると、溜め息を付いた。
「あれ?あいつって蝶の監視役になったのよね。監視役がいなくなって大丈夫なの?」
蝶はデスクの上にあるピエロの写真を指で指して言う。
「アイス買ってくるだって」
「私ならそのアイスは食べないわ」
「私が頼んだのは食べても大丈夫なもの」
「蝶もえげつないわね。しばらくはアイスが食べなくなくなりそうなものを見た後で、アイスを買わせるとか」
「アイスに罪はないからいいの。食べる人間の責任だもの」
「それって、あのアイスを作っている奴への皮肉?」
「いいえ、違うわ。でも本音を話せば、その実験としてばらまかれる前のアイスを食べたかったな。特殊な効果があるとっていっても、作っている本人は好きで作っているんでしょう?」
「そうらしいわね。リピーターがいたから、ばらまくには丁度いいってことで入れられたそうよ」
「アイス全部にそのばらまきのアレが入っているかな?」
そこまでしてアイスを食べたいのかと朱巳は呆れる。
「スクイーズに止められるわよ」
「散々来なくてもいいって言われたから行かないよ。その代わりに入ってないアイスを頼んだけどね」
「羨ましいわ。あとで克己と食べに行こうかな」
「じゃあ、おすすめのアイス屋さん教える」
「それ、スクイーズと行ったことある店?」
「ない。連れて行くと、通報されるから止めた」
けらけらと朱巳は笑う。冗談ではないのにとつぶやき、蝶は口を尖らせる。
一度、彼がプロデュースしている女性がターゲットのお店に来たことがある。スクイーズと暫く話していたら、見回りをしていた警察官に職質にあったことがあるのだ。あれは大笑いしたくなるほどのことだが、当の職質を受けた本人は酷くショックを受けたそうで、それを思い出すと、連れだせるところは吟味して選んでいる。
ふと思い出し、朱巳に聞いてみる。
「そういえば、スクイーズの口調って、蟬ヶ沢卓としてだけあの口調なの?」
「そうね。私は基本的にそっちの口調のときは知らないから解らない。あんたは構成員前から知り合いだから、そっちがデフォだっけ?」
「そ。それで、あのスクイーズとしての口調がどうにも慣れなくって、さっき指令を言う時でもおねえ口調で言ってお願いした」
「その光景是非とも生で見てみたかったわ」
彼女もスクイーズを以前から知っているが、蟬ヶ沢卓としての彼を見たことが無いのだ。ましてやおねえ口調の彼など考えれられない為、俄然興味が強くなる。
「たぶん、このまま待てば見れるんじゃない?」
****
「ただいま。ちょっと時間が掛かってアイスは近くのコンビニから買ってきたものだけど、アイスってだけ言っていたんだもの、何を買ってきたとしても文句を言われる筋合いはないわよ。買ってきたのはあなたが前にこれが食べたいって言っていたストロベリーよ。私も同じのにしたから、交換とか半分とかはなしよ…って…………」
スクイーズは部屋に入るなり、まくし立ててきた。そして、目の前にいるのが蝶ではなく目を丸くする朱巳だということに気が付いて固まった。
「あ…」
「あっははははははは!スクイーズ!スクイーズあははははははは!」
九連内は大声で笑った。
「もうひとつアイスを買ってくる!」
ひょっこりと隠れた蝶が出てくる。スクイーズが真っ赤になっているのを見つつ、彼にさらに追い打ちを掛ける。
「いいよ。私のを半分あげるから」
「買ってくる!」
激しく扉を閉めてスクイーズは出て行った。朱巳と蝶は窓を見てみると、本当にすぐそこにあるコンビニに駆け込んで行くのが見えたので、二人は更に笑った。