シェアハウスの中は綺麗な廊下と、アンティークが目に入り目を瞬きさせるーーー。


「家の中もすごい....」
「家具もそのまま使っていいって言ってたから、そのまま使わせてもらってる。こっちだ」


廊下を通ってリビングのある部屋のドアをタク兄が開ければ、男女4人が思い思いに過ごしているのが見えた。


「ただいま。ちょっといいか？」
「お帰りなさい。近所の火事ーーー....って、拓海くん。その子は？」


長髪の綺麗な女性が声をかけると、他の人たちも私に注目し始めて思わず俯きながら小さく挨拶を済ませる。



すごい変な目で見られてるようなーーー....



「ぁ.....こ、こんばんは....夜分、遅くにすみません」
「俺の従妹の名字名前。近所の火事で部屋がなくなって、少しの間ここに住まわせる事にした」
「「「「え....」」」」
「待って。確か....拓海くんの従妹ちゃんって、大学生、よね？」
「は、はい....今年、大学生になったばかりでーーー....」


すると一人の男性が読んでいた本を静かに閉じて、ソファーの背もたれに肘をついて振り返り見据えた。



ん？
あれ....あの人、どこかで見たことある気が.....



「あのさ、いくら拓海さんの従妹だからって何でわざわざ家になんか.....契約では社会人だけって話だろ」
「蓮....仕方ないだろ。行く当てがないんだ」


蓮ーーー...？
あ！蓮って、あのモデルの椎名蓮！？



「行く当てがないって....実家にでも帰ればいいんじゃない？」
「！」
「蓮、ちょっとそれは言いすぎ」


長髪の綺麗な女性がフォローを入れるも、蓮さんの冷たい視線と言葉に私は言葉を詰まらせてぎゅっと拳を握り締める。その様子にタク兄が軽く溜息をついて、私の頭に手を乗せて言葉を続けた。


「......こいつの両親はもういないんだ。引き取った祖父母もいないから、こいつには俺しか身寄りがいない」


一瞬だけ沈黙が走り、それぞれが顔を見合わせるーーー。


「俺の我儘だって十分承知だ。だけど住む所がないのは放っておけないだろ.....雫、お前の意見は？」
「私はーーー....」


長髪の女性の雫さんが考える仕草をしながら呟き始めた。


「....賛成だけど、蓮の言い分もわかる」
「さっきから聞いてれば、酷いはなしじゃない。どんな理由があろうと女の子を追い出すなんて....」
「そうですよ。俺も志信（しのぶ）さんの言いたい事と同じです」


ダイニングチェアに座る男性二人が眉を下げて心配そうにこちらを見つめるが、蓮さんに至っては逆にイラついた様子で眉を潜める。その様子に私は何も口にすることが出来ず、ただ立ち尽くすばかりで....。


「さすが女には甘いな、志信も慶介も。特に志信は尚更だろ」
「ちょっと！黙って聞いてれば、それどういう意味よ！？」


音を立てて立ち上がる志信さんに向かい合わせに座っていた慶介さんが近寄り必死で宥めるが、蓮さんは前に向きを直して背中を見せる。その様子にたまらずタク兄が口を開こうとするが、私はその腕を掴み首を横に振った。


「....無理に押しかけてご迷惑をかけてすみません。しばらくの間、友達の家にでもいさせてもらうので大丈夫です」
「名前っ....」
「いいの。一人でも反対してる人がいるなら、無理に住まわせてもらうのは申し訳ないから....。ありがとう、タク兄」
「おい、待てっーーー....」


「失礼します」とタク兄が止める腕をそっと離して、顔を見られたくなくて俯き、鼻の奥がツンとするがグッと堪えて足早にその場を去るーーー。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



「.....っ.....！」


外に出た瞬間、身体に寒気を感じて両手に自分の腕を抱く。そして歩き始めると同時に、カバンからスマホを取り出して千尋の番号を呼び出し、耳に当てようとたーーー。
すると不意に腕を掴まれ、身体が後ろに傾き咄嗟に顔を上げる。


「！」
「お前、バカか？」
「なんでーーー....」


私が言うより早く渋い表情を浮かべ、持っていたバスタオルを頭から被せて無理やりシェアハウスへと足を進めて行く。何が起きたのか時間差で理解するが、何も聞くことが出来ず。


「............」


無言の蓮さんの背中を見つめながらシェアハウスの前まで戻れば、険しい表情のタク兄がこちらに慌てて駆け寄り、蓮さんがそれと同時に腕を放した。


「遠くまで行かなくて良かった」
「ちゃんと連れて来たから。これでいいだろ？明日、撮影で早いから寝るわ」
「おう。ありがとな、蓮」


一瞬、私の方に視線を向けるがすぐに逸らしてダルそうにシェアハウスの中に入って行くと、タク兄が不意にタオル越しに頭の上に手を乗せて俯き深い溜息を漏らす。


「はぁ～.....マジで焦った.....」
「.....ごめん.....」



本気で心配してたんだーーー....
でも、何で蓮さんが.....



目を合わせられず俯く私の気持ちを察したのか、タク兄が乗せていた手を下ろして顔を覗き込んだ。


「蓮が来たからビックリしただろ」
「うん.....」
「アイツ、自分で言ったこと少し気にしてたみたいでさ」
「え......」
「雫と志信がアイツ説教してさ、迎えに行かせたんだよ。でも行ったのはあくまで蓮の意思だけどな。だからもう心配するな」
「タク兄.....ごめん.....」
「そういう時はありがとう、だろ？」
「......ありがとう」
「よし！」


涙を流しながら言う私にタク兄が微笑みながらわしゃわしゃと頭を撫でて、シェアハウスの中へと戻って行くーーー。
すると玄関先には心配そうな表情で四人が駆け寄り、雫さんが私を強く抱きしめる。


「わっ.....」
「無事でよかった～.....追い出すみたいな風になってごめんね」
「.....いえ.....私が勝手に出て行っちゃったので......」
「まぁ、とりあえず一件落着ね。蓮も少しだけ焦ってたみたいだし？」
「"仕方ねぇ"って言って出て行くまで早かったですよね」



それなりに心配してくれた、ってこと....？



雫さんが泣きそうな表情で身体を話せば、志信さんと慶介さんが苦笑いを浮かべつつ顔を見合わせながら言う。その様子を安堵したように見ながらタク兄が声をかけた。


「ほら。風呂に入って温まれ。服はこっちで用意しといてやったからゆっくり入って来い」
「お湯も張っておいたから、この札下げておくの忘れないでね」
「ありがとうございます」


そう言って雫さんから紐の付いた「入浴中」と書かれた札を受け取り、深く頭を下げればみんなが笑顔で見送っていたーーー。
脱衣所に入り、お風呂場に足を踏み入れると猫足のバスタブに思わず溜息がこぼれ、笑顔もこぼれる。


「わ.....可愛いーーー.....」


お湯につかり高い天井を見上げて身体の力を抜き、暖かさにやっと身体の熱が包まれるーーー。


「.....私....ここで上手くやっていけるかな.....」


ボソッと本音が漏れて小声がお風呂場に響き、顔の半分までお湯につかりブクブクと息を漏らす。考えても答えは見つかるはずもなく、のぼせる前にお湯から上がればタク兄が用意してくれたパジャマを着て洋服も手にした。
さすがアパレル社長と言うだけあり、用意された服は女の子らしい可愛らしい洋服で....。


「さすがタク兄....でもコレ似合う....？」


それでもその行動が嬉しくて、自然と笑みがこぼれるのであったーーー。