忘れたわけじゃない。
忘れられるわけがない。
私がここにいる理由も、私が死んだ理由も、多分私もどちらも受け入れられてないんだとーーー...



「ーーー夢の中ならずっと一緒にいられるのに、どうしてお姉さんはイヤなの？」


不意に幼い女の子の声が耳に届き、意識が戻されれば真っ暗な空間の中、目の前に同じようなチャイナ服をまとった女の子が一人、顔を覗き込む仕草をしている。


「......誰？」
「私のお母さんが連れてきたんでしょ？」
「............」


女の子の言葉に眉を潜めつつ、身体を起き上がらせて女の子の前にしゃがみこみ同じ位置まで視線を交わらせた。


｢.....私はこんなこと望んでない。.....他の人の体なんか借りて生きても嬉しくなんかない.........｣
｢.....名前、聞かせてくれる？｣
｢.........悠然（ゆうらん）｣


悠然は俯きながら答えるが、名前はニコッと笑顔で悠然の頭を撫でながら答えた。


｢私ね、1度死んでるの.....死んだというか、それを私が.........望んだーーー.....｣
｢でも、お姉さん1度死んだのに生きる事を望んだ.....どうして？｣
｢ずっと一緒に、守りたいって思える人ができたから。悠然（ゆうらん）ちゃんもそうなんじゃない？｣


問いかけに悠然（ゆうらん）が一瞬俯くがすぐに名前を見据える。
その瞳にはさっきまであった疑問と迷いがなくなったかのように見えた。


「.....私、生き返りなんて望んでない。お母さんと離れるのは寂しいけど..........ずっとお母さんの心の中にいるって.....傍にいるって伝えて欲しいの.....」
「.....わかった。必ず伝えるね」


そう呟けば悠然（ゆうらん）の体から光が放ち眩しさを覚える。一瞬だけではあったが名前が目にした悠然（ゆうらん）の頬には涙が伝っていたのがわかったーーーー.....


ーーーーーーーーーーー


「.....ーーーーっ」


意識が一気に体に戻ったかのように、横たわっていた名前が大きく息を吸い込み一気に起きあがる。
その様子にその場の全員が目を向け、八戒が駆け寄り体を支えた。


「名前さん！」
「.....はぁっ.....あ.....あた、し.........」


刹那、目の前の悠然の体が灰のように崩れ落ちて風と共に消えてゆくーーー.....
それを目の当たりにした紅花がグッと威嚇の体勢を取りすかさず三蔵が経文を読み上げようとした時.....。


「!!.........待って三蔵っ!!」
「.....っ！？」


体を起きあがらせた名前が必死に叫べば、三蔵がピタリとそれを辞めて皆が目線を向ける。言うまでもなく、その表情は不機嫌極まりない。


「なぜ止める？」
「.....悠然ちゃんから、伝言を預かってきたの。それを母親に伝えてって」