怠さが残ったまま教室へ戻ると、雄太が名前の机の前の席で額をつけてダラける姿が目に入った。


「お前...何してんの？」
「今、傷心気味なんだからほっといてくれー」
「あーそう。つか、名字は？」
「何、そのつれない感じー。名字なら帰ったよー」
「は？帰った？」


机に目をやれば確かに鞄がなく、その様子に頭を抱える。


「名字、なんかスゲー落ち込んでたけど何かしたの？」
「...は？何もしてねーよ」
「いや...なんかさ、勇人が名字に対して"遊び"だって拗ねてたぞ」
「......"遊び"？おい、それどういうーーー...」
「はーやーと～～～！！」


ガクっと体重をかけてきた千明に勇人が不機嫌そうに振り返り眉を寄せ、千明がその表情に苦笑いをした。


「え、何？どうしたの？」
「名字がいないから拗ねてんのー」
「はぁ！？何それ？」
「拗ねてねーよっ...。俺も早退するわ」
「は？ちょっとーーー...」


勇人が千明を押し退け、自分の鞄を手に取り教室を出て行くが、千明が机に蹲る雄太の顔を上げさせ睨む。


「お、お怒りデスね...千明サン...」
「だって面白くないじゃん！いきなり名字さんにちょっかい出して！」
「別にいいんじゃねーの？アイツ、意外と本気かもよ？」
「なっ...本気なワケないじゃん！あんな地味な女っ...」


バンッと机を叩きながら言う千明に雄太は呆れた表情で頬杖をつく。


「つーか、千明...。お前、勇人の彼女でも何でもねーだろ。なんでそこまで熱くなるワケ？......あ、もしかしてまだ勇人のっーーー...」
「もういいっ！！！」


ズカズカと教室を出て行く千明の後ろ姿を見て、雄太が再び机に額をつけて深い溜息をついた。



ーーーーーーーーーーー



アパートの近くの公園でベンチに座りボーっと曇り空を見上げる。
今にも雨が降り出しそうな空に、鞄から一眼レフを出してファインダーを覗くーーー...


「......！？」


ファインダー越しに勇人の不機嫌な顔が見え、思わず一眼レフを下ろして後ずさる。


「お前...なに逃げてんだよ」
「逃げてなんかっ......」
「俺が"遊び"ってどういう事だ？」
「それはっ......私に関わるって事は遊びだからでしょ？」
「は？なんでそうなるんだよ」


勇人が隣に座り、俯く名前の表情を横目に見ながら前を見据え問いかけた。


「もしかしてさ、誰かに何か言われたか？」
「.........」
「安心しろ。お前が言ったこと誰にも言わねーよ。......つってもまだ信用ならねぇか...」
「......千明さんに、長内くんが私と仲良くしてるのは..."遊び"だって言ってた」
「で、お前はそんなくだらねー噂と本人が言った事、どっち信じるわけ？」
「......分かんない......」


勇人がはぁーと深い溜息を漏らした後に、冷たい空を仰いで名前を見据えて手を差し伸べる。何のことかわからず首を傾げると目を細め微笑む。


「あの時、少しでも信じたんだろ？俺のこと。信用してないけど、少し信じる気にはなったって事だろ？だったら悩む事はねぇだろ」
「......確かに、...信用はしてないよ。でも信じないとも言ってない。...だから...」


差し出された手をぎゅっと握りしめ真剣な眼差しを向ければ、勇人も握り返してもう片方の指で名前の眉間をグリグリと押さえニカッと笑う。


「なっ......！！」
「渋い顔してんじゃねーよ。だから心配することねぇよ」


名前がコクリと小さく頷き、納得した様子で眉間から指を放した。