甘酸っぱい気持ち
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吉原から見える月は閉鎖空間と相俟 って異様に大きく見える。渡り廊下を歩き、ふと思ったことを日輪に問いかけた。
「あの、幕府の上客って主にどういう方が来るんですか?」
「大体は幕府の大老や老中、家臣なんかが半数かねぇ....。まぁ、ここは今となっては外との関わりはあるけれど、この屋根が開く前は遊女たちは籠の鳥状態で幕府の密談場にもなってたから」
「密談場.....」
幕府の密会現場か....
政治家の密会現場、見るような感覚で刑事としてはちょっと複雑だな。
遠くを見て目を細める日輪に名前はふと目を逸らして、日輪が不意にある部屋の前で車椅子を止める。
「名前ちゃん。名前ちゃんはお酌だけしてれば大丈夫だから。幕府のお役人って言ってもすぐに斬りかかるなんて事はしないから安心しな」
「は、.....はぁ.....」
ニコッと微笑みながらとんでもない事を口にする日輪に名前が苦笑いで答え、一歩と部屋に足を踏み入れ、正座した状態で頭を下げれば日輪が横で呟く。
「お久しゅう、久我様。新しい遊女の名前ちゃんです」
「名前です。以後、お見知りおきを」
顔を上げれば、一番に目についたのは上座に座るいかにも幕府の老中らしき人物。そしてそれを囲うように家臣らしき人物たちが座るのが見えた。そして座敷の入り口を横目で見れば、なぜか真選組の隊服を着た一人の男性が腰を下ろしていたーーー。
真選組の隊士?
隊服見る限り局長や副長クラスではない、かーーー....
でもなんで普通の隊士が....
普通ならば、幕府の役人の席なら局長や副長がいるはずの空間に名前が一瞬だけ眉を潜めて元の表情に戻す。
「さぁ、緊張なさらずともこちらへ来なさい」
「はい。では失礼致します」
久我と呼ばれた男の隣に座ると、当初、日輪に教えられたようにお猪口にお酒を淹れて注ぎ込む。
どのくらい経ったのだろうかーーー。しばらくしてから久我が日輪に声をかけた。
「ーーー日輪、少し席を外してはくれないかい?」
「あら。また私たち除者ですか?」
「大事な話があるんだ。すまないね」
そう言うと日輪が「仕方ないですね」と言って名前と目を合わせて立ち上がり、それと同時に名前も立ち上がろうとした瞬間、不意に久我に手首を掴まれその場に留まる。
「!」
「お主はここにいても構わん。何より酌をするのは女子 の方が良かろう」
名前がチラリと日輪を見れば、日輪がコクリと頷きそのまま久我の隣に再び腰を下ろす。そして日輪が心配そうな表情を少し見せつつも部屋を出て行くと、久我の目の前に座る少し若い男性が口を開いた。
「久我様、宜しいのですか?この場に遊女を置いてーーー...」
「構わんよ。所詮、ここの者たちはここから一生出る事はできん。元々、幕府の密会はここだと決まっておる。嵯峨 殿も心得ておろう」
「いかにも。申し訳ありませぬ」
この人たち、私が本物の遊女だって思い込んでる....
内容によってはマズイ事になりそうな予感ーーー....
ただならぬ会話に"刑事の勘"というものが素早く反応して、周りを気にしつつ耳を傾けた。すると久我が今までずっと黙っていた真選組の隊士に問いかける。その反面、名前の背筋に冷やりと変な汗が伝う感覚に陥り、気が気ではないのも確かで...。
「それより、そちらの様子はどうだ?」
「....計画は順調です。今のところ大きな動きもありません。ただこの計画を成功させるためには、いささか厄介な事がございまして...」
「河原、あの三人の事は何も心配はいらん。あの装置を手に入れればこっちの物だ。余計な真似はするでない」
「....承知いたしました」
嵯峨の言葉にすぐさま久我が鋭い視線を巡らせ、嵯峨が肩を竦 めて目線を下に向けて軽く会釈を交わす。
あの装置....?何のこと....?
これって真選組の人たちに伝えた方がいいんじゃーーー....
「お主らも余計な真似は控えろ。今、下手に動けば勘付かれるのも早まろう....あの人もそれを望んではおらん」
「久我様の仰る通り....」
「あの人の計画に従うだけですな」
他の家臣たちが口々にする"あの人"の存在とただならぬ空気に名前は終始、緊張の糸を張り巡らせていたーーー。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
何事もなくようやく開放された名前は神妙な面持ちで日輪たちのいる"ひのやに戻ると、なぜかお猪口でお酒を煽る銀時の姿があり目を細める。
「........何してんの?」
「何してるって見りゃわかんだろ」
お猪口を軽く上げて答える銀時の横で、日輪が自ら車椅子を押しながら苦笑いを浮かべて縁台に熱燗を置く。
「銀さんね、名前ちゃんが心配だからってここでずっと待ってたんだよ」
「てめぇっ......余計な事言ってんじゃねぇぞ!俺ァ、タダ酒飲めるってんでここにいただけだっつーの」
「あら。さっきから"まだ帰ってこねぇ"って文句言ってたのはどこの誰だい」
え....?
何気に心配してる、よね....?
「うるせー」と言いながら目を合わせることなく熱燗の入ったお猪口を口につける銀時に名前も目線を下に逸らす。
「そう言えばどうだった?大丈夫だったかい?」
「大丈夫は大丈夫だったんですけどーーー....」
日輪の問いかけに不意に言葉を詰まらせる名前を見て、銀時と日輪がお互いに眉を潜め、銀時がお猪口を置いて再び問いかけた。
「何かあったのか?」
「.....日輪さん、さっきここでは幕府の密会に使われる事があるって言ってたでしょ?....さっきのお客さん、真選組の話をしててーーー...多分、真選組を潰そうと、してる....かも?」
「.....は?」
「そりゃ、....どういう事だい?」
確信が持てずにいるものの、二人にその場で交わされた会話の内容を話すと銀時が熱燗を飲みながら考え込み、日輪が眉を下げて同じく考え込むーーー。
「装置、って何のことだい?」
「....ターミナルの事じゃねぇのか?」
「ターミナル?」
「あぁ。ババアのとこからも見えんだろ?あのでけぇ塔みたいな建てモン....あれで宇宙のどこへでも行き来できんだよ。あそこのエネルギーを何かに使おうとしてるとか」
名前がその会話を聞いて少し考え込み、顔を上げて遊女姿のままひのやを出て行こうとするとすかさず銀時が立ち上がり腕を掴みとめた。
「おい。その格好でどこ行くつもりだ?」
「どこってっ.....真選組の人たちに伝えに行かなきゃ!何が目的か知らないけど伝えに行ってーーー....」
「てめぇがそこまでする事はねぇだろ?アイツらの厄介事はアイツらが何とかする。てめぇが首突っ込む必要はねぇ」
どこか怒っている様な銀時の言い草に名前は軽く銀時を睨みつけてその腕を振り解く。その様子に日輪が心配そうな表情を浮かべて二人を交互に見据える。
「違うよっ....突っ込む突っ込まないの問題じゃないっ....話を聞いた時点で、自分は巻き込まれてるのと同じだよ!だから伝えに行く....。それに、同じ警察としても、.....放っておけない」
「...........」
「......銀さん......?」
しばらくの間その場に沈黙が続き、堪らず日輪が口を開けば銀時が空いた手でイラついた様子で頭を掻いて掴んでいた手を離す。
「......勝手にしろ。俺ァ、真選組を助ける義理なんて持ち合わせてねぇ。てめぇのその正義感が仇にならねぇよう気をつけるんだな」
「銀さんっーーー...!」
「いいんです、日輪さん。私が勝手にすることなので.....」
目を合わせる事のない銀時を横目に名前が不意に懐からひとつの飴玉を取り出して握りしめて日輪に向き直った。
「少ししかお手伝い出来なくてすみません.....着物は明日にでも返しに来ます。月詠さんにも宜しく伝えてください」
「名前ちゃん、ーーー....」
日輪の言葉を待たずに名前が頭を下げて足早にひのやを出て行き、熱燗を煽る銀時に向き直る。
「銀さん、.....本当にいいのかい?」
「ほっとけ。アイツが勝手に首突っ込んだんだ」
「.....本当はそうは思ってないんだろ?特に、名前ちゃんが関わるなら尚更じゃないかい....?」
「..............」
銀時が黙ってお猪口を縁台に置き、立ち上がって木刀を腰に差すとようやく口を開く。
「.....勘違いしてんじゃねぇよ。あんな気の強ぇ女、こっちから願い下げだっつーの」
「吉原の女、見くびっちゃ困るよ。アンタも大概、素直じゃないねぇ」
「はいはい。勝手に言ってろ。俺ァ、帰るぜ」
銀時が手を軽く上げながらひのやを出て行くと、日輪が深い溜息を漏らしてその背中を見送ったーーー。
「あの、幕府の上客って主にどういう方が来るんですか?」
「大体は幕府の大老や老中、家臣なんかが半数かねぇ....。まぁ、ここは今となっては外との関わりはあるけれど、この屋根が開く前は遊女たちは籠の鳥状態で幕府の密談場にもなってたから」
「密談場.....」
幕府の密会現場か....
政治家の密会現場、見るような感覚で刑事としてはちょっと複雑だな。
遠くを見て目を細める日輪に名前はふと目を逸らして、日輪が不意にある部屋の前で車椅子を止める。
「名前ちゃん。名前ちゃんはお酌だけしてれば大丈夫だから。幕府のお役人って言ってもすぐに斬りかかるなんて事はしないから安心しな」
「は、.....はぁ.....」
ニコッと微笑みながらとんでもない事を口にする日輪に名前が苦笑いで答え、一歩と部屋に足を踏み入れ、正座した状態で頭を下げれば日輪が横で呟く。
「お久しゅう、久我様。新しい遊女の名前ちゃんです」
「名前です。以後、お見知りおきを」
顔を上げれば、一番に目についたのは上座に座るいかにも幕府の老中らしき人物。そしてそれを囲うように家臣らしき人物たちが座るのが見えた。そして座敷の入り口を横目で見れば、なぜか真選組の隊服を着た一人の男性が腰を下ろしていたーーー。
真選組の隊士?
隊服見る限り局長や副長クラスではない、かーーー....
でもなんで普通の隊士が....
普通ならば、幕府の役人の席なら局長や副長がいるはずの空間に名前が一瞬だけ眉を潜めて元の表情に戻す。
「さぁ、緊張なさらずともこちらへ来なさい」
「はい。では失礼致します」
久我と呼ばれた男の隣に座ると、当初、日輪に教えられたようにお猪口にお酒を淹れて注ぎ込む。
どのくらい経ったのだろうかーーー。しばらくしてから久我が日輪に声をかけた。
「ーーー日輪、少し席を外してはくれないかい?」
「あら。また私たち除者ですか?」
「大事な話があるんだ。すまないね」
そう言うと日輪が「仕方ないですね」と言って名前と目を合わせて立ち上がり、それと同時に名前も立ち上がろうとした瞬間、不意に久我に手首を掴まれその場に留まる。
「!」
「お主はここにいても構わん。何より酌をするのは
名前がチラリと日輪を見れば、日輪がコクリと頷きそのまま久我の隣に再び腰を下ろす。そして日輪が心配そうな表情を少し見せつつも部屋を出て行くと、久我の目の前に座る少し若い男性が口を開いた。
「久我様、宜しいのですか?この場に遊女を置いてーーー...」
「構わんよ。所詮、ここの者たちはここから一生出る事はできん。元々、幕府の密会はここだと決まっておる。
「いかにも。申し訳ありませぬ」
この人たち、私が本物の遊女だって思い込んでる....
内容によってはマズイ事になりそうな予感ーーー....
ただならぬ会話に"刑事の勘"というものが素早く反応して、周りを気にしつつ耳を傾けた。すると久我が今までずっと黙っていた真選組の隊士に問いかける。その反面、名前の背筋に冷やりと変な汗が伝う感覚に陥り、気が気ではないのも確かで...。
「それより、そちらの様子はどうだ?」
「....計画は順調です。今のところ大きな動きもありません。ただこの計画を成功させるためには、いささか厄介な事がございまして...」
「河原、あの三人の事は何も心配はいらん。あの装置を手に入れればこっちの物だ。余計な真似はするでない」
「....承知いたしました」
嵯峨の言葉にすぐさま久我が鋭い視線を巡らせ、嵯峨が肩を
あの装置....?何のこと....?
これって真選組の人たちに伝えた方がいいんじゃーーー....
「お主らも余計な真似は控えろ。今、下手に動けば勘付かれるのも早まろう....あの人もそれを望んではおらん」
「久我様の仰る通り....」
「あの人の計画に従うだけですな」
他の家臣たちが口々にする"あの人"の存在とただならぬ空気に名前は終始、緊張の糸を張り巡らせていたーーー。
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何事もなくようやく開放された名前は神妙な面持ちで日輪たちのいる"ひのやに戻ると、なぜかお猪口でお酒を煽る銀時の姿があり目を細める。
「........何してんの?」
「何してるって見りゃわかんだろ」
お猪口を軽く上げて答える銀時の横で、日輪が自ら車椅子を押しながら苦笑いを浮かべて縁台に熱燗を置く。
「銀さんね、名前ちゃんが心配だからってここでずっと待ってたんだよ」
「てめぇっ......余計な事言ってんじゃねぇぞ!俺ァ、タダ酒飲めるってんでここにいただけだっつーの」
「あら。さっきから"まだ帰ってこねぇ"って文句言ってたのはどこの誰だい」
え....?
何気に心配してる、よね....?
「うるせー」と言いながら目を合わせることなく熱燗の入ったお猪口を口につける銀時に名前も目線を下に逸らす。
「そう言えばどうだった?大丈夫だったかい?」
「大丈夫は大丈夫だったんですけどーーー....」
日輪の問いかけに不意に言葉を詰まらせる名前を見て、銀時と日輪がお互いに眉を潜め、銀時がお猪口を置いて再び問いかけた。
「何かあったのか?」
「.....日輪さん、さっきここでは幕府の密会に使われる事があるって言ってたでしょ?....さっきのお客さん、真選組の話をしててーーー...多分、真選組を潰そうと、してる....かも?」
「.....は?」
「そりゃ、....どういう事だい?」
確信が持てずにいるものの、二人にその場で交わされた会話の内容を話すと銀時が熱燗を飲みながら考え込み、日輪が眉を下げて同じく考え込むーーー。
「装置、って何のことだい?」
「....ターミナルの事じゃねぇのか?」
「ターミナル?」
「あぁ。ババアのとこからも見えんだろ?あのでけぇ塔みたいな建てモン....あれで宇宙のどこへでも行き来できんだよ。あそこのエネルギーを何かに使おうとしてるとか」
名前がその会話を聞いて少し考え込み、顔を上げて遊女姿のままひのやを出て行こうとするとすかさず銀時が立ち上がり腕を掴みとめた。
「おい。その格好でどこ行くつもりだ?」
「どこってっ.....真選組の人たちに伝えに行かなきゃ!何が目的か知らないけど伝えに行ってーーー....」
「てめぇがそこまでする事はねぇだろ?アイツらの厄介事はアイツらが何とかする。てめぇが首突っ込む必要はねぇ」
どこか怒っている様な銀時の言い草に名前は軽く銀時を睨みつけてその腕を振り解く。その様子に日輪が心配そうな表情を浮かべて二人を交互に見据える。
「違うよっ....突っ込む突っ込まないの問題じゃないっ....話を聞いた時点で、自分は巻き込まれてるのと同じだよ!だから伝えに行く....。それに、同じ警察としても、.....放っておけない」
「...........」
「......銀さん......?」
しばらくの間その場に沈黙が続き、堪らず日輪が口を開けば銀時が空いた手でイラついた様子で頭を掻いて掴んでいた手を離す。
「......勝手にしろ。俺ァ、真選組を助ける義理なんて持ち合わせてねぇ。てめぇのその正義感が仇にならねぇよう気をつけるんだな」
「銀さんっーーー...!」
「いいんです、日輪さん。私が勝手にすることなので.....」
目を合わせる事のない銀時を横目に名前が不意に懐からひとつの飴玉を取り出して握りしめて日輪に向き直った。
「少ししかお手伝い出来なくてすみません.....着物は明日にでも返しに来ます。月詠さんにも宜しく伝えてください」
「名前ちゃん、ーーー....」
日輪の言葉を待たずに名前が頭を下げて足早にひのやを出て行き、熱燗を煽る銀時に向き直る。
「銀さん、.....本当にいいのかい?」
「ほっとけ。アイツが勝手に首突っ込んだんだ」
「.....本当はそうは思ってないんだろ?特に、名前ちゃんが関わるなら尚更じゃないかい....?」
「..............」
銀時が黙ってお猪口を縁台に置き、立ち上がって木刀を腰に差すとようやく口を開く。
「.....勘違いしてんじゃねぇよ。あんな気の強ぇ女、こっちから願い下げだっつーの」
「吉原の女、見くびっちゃ困るよ。アンタも大概、素直じゃないねぇ」
「はいはい。勝手に言ってろ。俺ァ、帰るぜ」
銀時が手を軽く上げながらひのやを出て行くと、日輪が深い溜息を漏らしてその背中を見送ったーーー。