御使いの聖歌隊

暗い暗い森の中。
二人は手を繋ぎ道なき道を進む。
白い影を追いかけて、静かな森の中をはぐれないように気を付けて。

「すいちゃーん、かえろーよー」
「だってこっちにいたんだもん! ちいちゃん、もうすこし頑張ろ?」
「むぅ……。すいちゃんが頑張るならちいもがんばる……」

ぎゅっと手を離さないように繋いで、長い長い道を進んでいく。
しばらく進むと少し開けた場所に出た。
どこだろう……と周りを見渡しているとさっきの白い影がその中心に現れ、二人はいたー!とその影に駆け寄った。

「こんにちは!」
「こんにちはー!」
「こんにちは」

真っ白な白衣に紫の癖のかかった髪の人は澄んだ声でそう返すと貴方たちは?と問いかけてくる。

「すいはね! 水華っていうよ!」
「ちいは千夏っていうよ!」

元気に自己紹介したあとおにーさんはー?と首を傾げる二人に彼はそうですね……と少し悩んだあとこう答えた。

「私は、ひじりと申します。とある子を助けてほしくてこの場所に来ました。貴方たちが連れ去られたという天使の御使いで間違いないですね?」
「うん! すいたちが天使様の御使いだよ!」
「おにーさん、だれか助けたいの?」
「ええ。私の大切な子を助けるために貴方たちの力が欲しいのです」
「すいたちの力? いいよー!」
「大切な子どこにいるのー?」
「ここにはいません。もっと遠くの世界にいるのです」

遠く?と首をかしげる二人に聖と名乗った青年は語りだす。
自分の大切な人は今、悪い人たちに連れ去られて、閉じ込められていると。
助けるために仲間を探していると。
その仲間の候補に水華と千夏が選ばれたと。
そして、最後に自分はこの世界の住人ではないと。
全てを話し終えた青年は二人に黒と白の石がはめ込まれた銀のブレスレットを手渡した。
これはなぁに?と問いかけに聖は二人がずっと一緒にいられる魔法のアイテムですよと小さく笑って答えた。

「こんなのなくてもすいたちずっと一緒にいるよ?」
「ちいたち離れ離れにならないもんっ」
「ええ、今は、ね。ですが、いずれもしかしたら抗えない力によってお別れをしなくてはならない時がやってくるかもしれません。絶対なんてことはあり得ないのです。……私とあの子が引き離されてしまったのと同じで」
「そんなやだ!! すいたちずっと一緒にいるもん!」
「やだやだぁ!」
「だから、そんな日が来たとしても二人が決して離れることのないように私が特別な“おまじない”をかけたブレスレットなんですよ」
「おにーさんってもしかして……」
「まほーつかい!?」

そうなんでしょ!?と目を輝かせる二人に聖は似たようなものですと笑って、内緒ですよと告げた。
水華と千夏はすごいすごいとはしゃぎ、もらったブレスレットをお互い握っている手の手首につけるとこれでいい?と聖に見せた。
聖は大丈夫ですと答えると二人の頭を優しく撫でて、何かあれば私を呼びなさいと告げると突然吹いてきた風と共に姿を消した。

「まほーつかいのおにーさんありがとー!」
「ありがとー!」

二人は風と共に消えた聖にお礼を言うと戻ろっか!と来た道を戻っていった。
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