御使いの聖歌隊

そんな平穏な日々が続いたある日。
いつものように歌の練習も終わって自由時間を噴水広場で満喫していたころ。
教会に里親候補の人たちが集まっていた。
候補者たちはその場にいる子供たちの中から選んで審査をしてから受け入れをしていく。
けれどいつも水華と千夏はその場におらず、また、訪れた候補者も誰も二人をもらおうとはしない。
なぜなら、彼女たちは天使の御使いとしてこの教会になくてはならない存在だから。
そのために彼女たちには多めに自由時間を取らせ、毎日教会の外へ遊びに行ってくるように仕向けているから。
だから今日も二人は里親候補の人たちとの顔合わせの場にいない。
何も知らず二人は今日も噴水広場のベンチで寄り添いあって周りをみている。

「みんな元気だねー」
「ちいたちも元気だよー?」
「でもねむたいねぇ」
「うーん……すいちゃんがねむねむだと、ちいもねむねむになっちゃうぅ……」

眠いねぇ……と二人は手を繋ぎお互い寄りかかるようにしていつものように眠りに落ちていった。

そうしてしばらくして二人は教会に戻るとシスターたちは今回もタイミングが悪かったですねと変わりなく接する。
二人は残念だったねーと笑いあうと自分たちの部屋に戻っていった。

「ちいたちいっつも新しいお母さんたちに会えないねー」
「そうだねー。すいたちどうして会えないのかなぁ」
「ねー、どうしてなんだろー」

ねーと顔を見合わせるとお絵描きをスタートさせようとしたときだった。
ばたばたと教会内が騒がしくなり、乱暴に開かれたその先にいたのは大勢の大人たち。
二人は互いを守るようにぎゅっと抱きしめ、大人たちを見据える。

「いた! 天使の御使いたち! 団長! こっちにいました! 懸賞金の御使いこっちです!」
「そっちか!」
「なになに……!? すいたちになんのごよう?」
「すいちゃん! ちいこわいよう……!」

怖くないからねーと後からやってきた大人が二人に手を差し伸べるけど二人は怖い怖いと泣き始めてしまう。
知らない大人たち。
響くほかの子供たちや大人たちの悲鳴。
いくら待っても助けに来てくれないシスターたち。
二人はどうして来てくれないんだろうと思いながらじっと座り込んでしまったまま動かない。

「水華ちゃんと千夏ちゃんだよね? この教会に閉じ込められていた天使の御使いたちっていうのは」
「おにーさんたち、だぁれ……っ? すいは水華だよ」
「ちいも千夏だよ……っ。こわいおにいさんたちはだぁれ……っ?」
「僕たちは君たちを助けに来たんだ。さ、行こう? 大丈夫。なにも怖くないからね」

そう言われても突然知らない人に怖くない人と言われても信用性がない。
二人は自分たち以外信じることができず怖い怖いと泣きじゃくるだけ。
その場にいた大人たちは仕方ないと頷き合うと一人ずつ担ぎ上げて部屋を出ていく。

「ちいちゃん!!」
「すいちゃん!!」

お互いに担がれながら手を伸ばし、必死に名前を呼び合う。
けれど大人たちはそんな二人を担いだままボロボロになった教会を走り抜け、外に止めてあった馬車まで行くとその荷台に彼女たちを乗せ、出発した。
5/22ページ
スキ