御使いの聖歌隊

そうして自由時間になった二人は教会を飛び出しユークレストの街を散歩する。
白を基調色にして作られた建物の数々。
街の中心部の大広場にはレンガ造りの大きな噴水がある。
二人はそこにあるベンチでのんびりするのが好きで。
行き交う人たちを見ながら暖かく降り注ぐ太陽の光を浴びて二人はのんびりと過ごす。

「あったかいねぇ、ちいちゃんー」
「あったかいねぇ、すいちゃんー」

眠くなってきちゃうねと言いながら二人はうとうととするとそのまま眠ってしまう。
そうしてしばらくして二人が目を覚ますと周りはオレンジ色に染まっていて、いつの間にか夕方になっていた。
ぐーっと伸びをして一息つくと眠っちゃったねと笑いあう。

「そろそろ帰ろっか! ちいちゃん!」
「そだね! シスターたちも心配してるだろうし。はやくかえろー!」

かえろーかえろーと二人は仲良く手を繋ぎその場を後にすると教会の自室へと帰っていった。
夜になり二人は他の聖歌隊の子たちと一緒に大きなテーブルを囲んで夕飯をとっていた。
天使様に、神様に、感謝をささげ、食事を頂く。
賑やかな食卓にみんなで食べると楽しいねなんて笑って夕飯に手を付ける。
シスターたちは子供たちの面倒を見ながらやってくる料理を手分けしてみんなの前に置いていく。
野菜やお肉、お魚。
様々な食材を残さずに食べていく。
残したら天使様に怒られてしまうから。
天使様はいつも自分たちを高い空の上から見守っていているから。
だから天使様の加護がいっぱい注がれた食材を無駄にすることは許されない。
それがこのユークレストに根強くある信仰。
遠い昔、とある魔王とその姫によりこの町は一度滅びた。
その際、食材も飲む物もなく、人々は飢えに苦しみ、そして何人もの人が死んでいったという。
そしてユークレスト再興後、一番貢献したこの教会の司教様がみんなに告げた。

“天使様を称える我らが、天使様の加護を受けた食材を無駄にしてはならない。全て天使様に感謝を捧げ、頂かなくてはならない”

そう町の大広場で宣言し、今のユークレストがある。
残すことは最大の禁忌とされているこの街で料理を少しでも残せば重い罰が下る。
それは子供も大人も問わずで。

詩華しいか。残さず食べなさい」
「で、でもっ、シスター……! これ食べるとすごく痒くなるの……! お願い! 許して!」
「いけません。天使様からの加護を無碍にするのですか?」
「ち、ちがうっ……! 信じて! シスター!」

こちらへ来なさいと腕を掴まれた少女は顔を引き攣らせごめんなさい!ごめんなさい!と泣き始めてしまう。
それを見た水華が彼女が残したパイナップルにフォークを刺し、そのまま自分の口の中へ運んで食べてしまった。

「ん~~! おいしー!」
「水華。これは詩華のぶんですよ」
「すい、これすきなんだもんー!」
「すいちゃん……っ、ありがと……っ 」
「どーいたしましてっ。シスター、これでしいちゃんの罰はなしだよねっ。残してないもんっ」
「水華。そうやって甘やかすから………」
「ちいもー! みいちゃんのトマトたべるー!」
「あっ! 千夏!」

えいっ!と千夏はみいちゃんと呼んだ隣の女の子のお皿にぽつんと残ったプチトマトにフォークを刺すとそのままぱくりと食べてしまう。
トマトを食べられてしまった彼女は泣きながら千夏にありがとうっとお礼を言っていて。
シスターはそんな二人の様子を見てため息をついた。

「水華、千夏」
「ちい、トマト好きなんだもん」
「すいもパイナップル好きなんだもん」
「二人とも、美愛みいなと詩華から取ったぶんを返しなさい」
「えー、じゃあしいちゃんに、にんじんさんあげるねー!」
「じゃあみいちゃんには、おいもさんあげるー!」

はい!と二人はお互い取った相手に渡すとこれでいいでしょ?とにこにこ笑って尋ねた。
シスターはまったくもうと半ば諦めたように頷き空いたお皿を片付け始めた。
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