御使いの聖歌隊

「さて、二人とも、どうですか?」

光が収まりステッキを両手で持ってじっとしていた二人に声をかけると二人はなんかすごい元気!と声を揃えて伝えた。

「おにーさん、これからどうするの?」
「ちいたちどこにいくの?」
「その前にこの世界とさよならをしましょう。貴女たちを傷つけたこの世界を、貴女たちの手で終わらせるんです」
「このせかいを」
「おわらせる?」
「そう。この世界は貴女たちを沢山、沢山傷つけました。天使様の御使いと持て囃しておきながら、その役割が果たせないと知ると貴女たちを捨てた。こんな世界、終わらせてしまった方がいいでしょう?」
「そっか……。すいたちもうここにはいらない子なんだね」
「ちいたち、もういらない子?」

悲しそうな顔をする二人に目線を合わせるように膝をつくと残念ながらと小さく頷き、二人の力で終わらせましょうと声をかける。
二人はお互いに顔を見合わせると一緒に頷き手を繋ぐと行こうと教会の外へ飛び出した。
外には大勢の人間たちがいて、二人の姿を見るや否や悪魔の御使いだと罵り、各々手にした武器を向けてくる。
二人は知る。
本当にこの世界には自分たちの居場所はなくなってしまったんだと。
周りの人間から向けられる明らかな負の感情。
嫌悪。
殺意。
憎悪。
その他無数の冷たい感情。
それらは二人を絶望させるには十分な要素だった。

「ほんとにすいたち、いらないんだね」
「ちいたち、もういらないんだ……」
「悲しいね、ちいちゃん」
「つらいね、すいちゃん」

それなら……と水華と千夏はお互いのステッキを重ね、そのまま上に掲げるとキーンという甲高い音とともに黒い光が発生し、一気に周りを覆いつくすように広がった。
瞬間、その場にいたほとんどの人間がその場に倒れ、もう二度と動かなくなり、それを見た残った人間は悲しみに暮れ武器を持って二人に襲い掛かってくる。

「すいちゃん!」
「まっかせてー! えいっ!」

そう言って水華は月のステッキを一振りし水のナイフを無数に作り出すといけー!とそれらを一気に放つ。
鋭い水のナイフは襲い掛かってくる人間をいとも簡単に貫き、その数を減らしていく。

「ちいちゃん! そっち!」
「はーい!」

元気よく返事した千夏は掲げたステッキをえいっと振り下ろす。
するとそこから一気に地面が割れ、その割れ目に人間が吸い込まれるように落ちていく。
その光景に千夏がこれがちいの力?と隣の水華に聞くもよくわかんないけどすごい!と言われ、彼女はそれに共感するようにすごいすごいと飛び跳ねた。

「すいたちすごい!」
「ちいたちすごいすごい!」

大量の死体の前で二人は手を繋ぎすごいすごいと回る。
楽しそうな二人に聖はよくできましたと声をかけ歩み寄ると最後の仕上げをしましょうと二人の背を押す。

「なにするのー?」
「ちいたち、ほかにすることあるー?」
「ええ。あと一つ。貴女たちの一番得意なことですよ」
「すいたちの得意なこと……」
「あ! すいちゃん! おうた!」
「あ! お歌を歌えばいいんだね!」
「うん! ちい、すいちゃんとまたおうた歌えるの嬉しい!」
「すいも!」

歌おう歌おうと二人は跳ねて教会の扉の前へと向かう。
するとそこには目を覚ました愛美と彼女を抱いたシスターがいて。
目の前の光景に唖然としている彼女たちに二人はにこにこ笑ってもうおしまいなの!と一言告げた。

「水華……千夏……」
「あんたたち、こんなことしてただで済むと思ってるの!?」
「もうおしまい。ぜんぶぜんぶおしまい」
「すいはね、ちいちゃんとずーっとずーっと一緒にいられる世界へおにーさんに連れてってもらうの!」
「だからおしまい。このせかいを終わらせて、ちいはすいちゃんと一緒にいられるとこにいくの」

だからと千夏と水華は手を繋ぎいくよと声を掛け合うと深く息を吸い込み、そしていつものように奏でる。
何処までも響くような高い声で水華が、それにハモるように少し低い声で千夏が。
そこ声はどこまでも、どこまでも響く。
彼女たちの歌声と共鳴するように町が、国が、世界が軋む。
彼女たちが奏でるのはこの世界の破滅を願う歌。
この世界を終わらせるための歌。
自分たちを捨てた世界を捨てるための歌。

そしてもう二度と離れ離れにならない世界へ行くための歌。

歌声は響く。
どこまでも。
どこまでも遠く。

こうして二人は自分たちがいた世界を壊し、代わりに聖とともにずっと一緒にいられる世界へと彼に導かれていった。
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