御使いの聖歌隊

白い聖堂。
この場所は何よりも天使信仰が根深い地域で、みんなが毎週この聖堂に集まってお祈りをする。
神父様が天使降臨のありがたい本を読み聞かせて、その後この聖堂にいる聖歌隊の幼い少年少女たちが賛美歌を奏でる。
その聖歌隊の中心。
そこにいるのは青い髪をツーサイドアップに結いた青い瞳の少女と茶色のボブヘアに青い瞳の少女。
彼女たちは他の聖歌隊の子たちより少しの豪華な服を身に纏い、背中に白い翼の飾りを背負いその時を手を繋いで待っていた。

「ちいちゃんがんばろね!」
「うん! すいちゃん!」

二人で顔を見合わせ笑い合うと聖歌隊を連れてみんなの前に歩いていく。
青い髪の少女は水華すいか、茶色の髪の子は千夏ちなつ
二人はこの教会に同時期に拾われ姉妹のように、双子のように育ってきた。
二人はいつも一緒。
ずーっと、ずーっと一緒。
今日もお互いの手を離さないように固く繋ぎ、みんなの前に姿を現す。
その場に来ていた人が今日も天使様の御使いさんたちは可愛いわねと口々に囁く。
二人はにこにこ笑って呼吸を揃えると歌を奏でる。
どこまでも澄み渡り、響くような高い声の水華。
そんな彼女にハモるように少し低めの声で歌声を響かせる千夏。
そしてその後ろで彼女たちをサポートするように歌声を奏でる聖歌隊の子たち。
皆そのハーモニーに聴き入っていた。
そうして歌が終わるとみんなで来てくれた人たちにの中で子供だけにお菓子を配る。

「今日もとても愛らしいねぇ、天使様の御使いさんたちは」
「ありがと! おばあさんもいつも来てくれてありがとー! すいは今日も元気なおばあさんの顔が見れてうれしー!」
「ちいもー!」
「おやおや、嬉しいねぇ」

明日も元気な顔見せてね!と声を揃えて伝えると二人はたかたかっと他の信者のもとへと向かう。
愛らしい姿に透き通るような声。
二人につけれた愛称は天使様の御使い。
二人はその愛称に恥じぬよう今日も元気ににこにこ笑顔を振りまき信者たちを出迎えて、送り出していく。

「水華、千夏、今日もお疲れ様でした。疲れたでしょう? 着替えてから奥でゆっくり朝食をとってきなさい」
「はーい!」
「はぁい!」

いこー!と二人は手を繋いだまま教会の奥へと進んでいき、長い廊下を越えた先にある扉を開く。
そこはシスターたちが用意してくれた千夏と水華の部屋で。
二人は聖歌隊服を脱ぎ私服の白いワンピースに着替えてから用意されていた食事に手を付ける。

「ねぇ、ちいちゃん。いつかすいたちも誰かにもらわれてくのかなぁ」
「えー! すいちゃんもらわれてくなら、ちいもつれてってー!」
「もちろん! だってすいとちいちゃんはずーっと一緒だもん!」
「いっしょ! いっしょ!」

ねー!と笑い合う二人は今日も何不自由ない生活を送る。
天使様を賛える歌を奏でて、信者と交流をして、美味しいご飯を食べて。
そうして自分たちが養子として貰われていく時を待つ。
けれど彼女たちはこの街で天使様の御使いとして地位を得てしまっている以上、おいそれと迎えてくれる家族は現れず。
そうしているうちに彼女たちは12歳になっていた。
食事が終わればシスターたちを先生に迎えお勉強がスタートする。
一般的な教養も大事だと言い聞かされ二人は苦手な勉強にも取り組んだ。

「じゃあこの式の答えは? 水華」
「んーと、たぶん3!」
「水華、ちゃんと計算をしなさい」
「えー! だぁって、わかんないんだもん! だからたぶん3!」
「千夏は?」
「んーとね、たぶん3!」
「わーい! ちいちゃんといっしょー!」
「いっしょいっしょ!」
「水華、千夏。ちゃんとお勉強しないならおやつを抜きますよ」

今日はカステラですと目の前に出されたふわふわのカステラに目を輝かせる二人。
シスターはこれはおあずけですねと告げるとカステラを持って部屋を出ていこうとしていて、それを見た二人はちゃんとやる!とシスターが出した問題を必死に解き始めた。

「はい! シスター! 答えは5です!」
「すいちゃんはやーい! ちいもとけた!5だよ!! シスター!」
「はい、正解です」
「シスター! シスター! すい、カステラたべたーい!」
「ちいもー!」
「はいはい」

わかりましたからとシスターは戻ってくるとカステラが乗ったお皿を二人の前に置いた。
二人はぴょんぴょん跳ねて喜び、カステラを一切れずっと取ると食べ、美味しいねと笑いあった。

「ねー、シスター。すいたちはいつお迎えくるの?」
「ちいたちね! 一緒にお迎えしてくれる人のとこ行きたーい!」
「そうですね……。二人はこのユークレストに降り立った天使様の御使いと言われていますから、そう簡単には見つからないでしょう」
「そっかぁ。ま、でもちいちゃんと一緒にいれればべつにいっか!」
「ちいもー! すいちゃんと一緒にいられればいいー!」

ねー!と変わらない笑顔に先生役のシスターはほんとに仲良しですね、と微笑むと部屋を出ていった。
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