御使いの聖歌隊

そうして数日後。
シスターに連れてこられたのは赤い髪をサイドテールにした、青い瞳の気の強そうな女の子で。
今度からこの子と歌うのよと紹介された。

「あたし、愛美まなみっていうの! よろしく!」
「……」

よろしくと差し伸べられた手を握り小さくお辞儀をするとシスターは仲良くするんですよと告げ部屋を出て行った。
残された千夏は新しい相方に困惑している様子で、どうしようと目を泳がせていると愛美の方から声をかけてくる。
どうして声が出ないの?
どうしておしゃべりしないの?
どうして歌いたくないの?
どうしてどうしてと質問攻めされ千夏は頭を抱えその場にしゃがみこんでしまった。

「ねー! どうしてー!? ねーってばー!」
「……っ」
「つまんなーい!」

つまんないと拗ねる愛美を見ることもなく千夏はその場でじっと動かなくて。
次第に興味が薄れたのか千夏から離れた愛美はベッドにドカッと座ると、まぁあたしの邪魔だけはしないでよねと突然言い放つ。
なんのこと……と恐る恐る顔を上げるとベッドに足を組んで座っている愛美が見えた。
愛美は続ける。
自分は最高の歌姫になることが夢だと。
そのためにこの教会で聖歌を披露し、地位を築き上げていくと。
天使様も神様も信じてなんかいない、ただ自分が有名になるために利用するだけだと。
醜い表情でそう話すと千夏の髪を掴み、だから邪魔だけはしないでと凄んできた。

「あんたが歌えようが歌えまいがどうでもいい。邪魔したら容赦しないから」

そう吐き捨て愛美は千夏の髪から手を離すとさっさと部屋を出て行ってしまった。
そうして、それから千夏はシスターに言われた通り愛美と舞台に上がるようになった。
けれど声の出ない千夏は歌を奏でることはできなくて、仕方ないと愛美が聖歌を奏でている間、膝をつき祈るように伝えた。
歌わなくていいならそれでいいと千夏はそれを受け入れそれ以来愛美の後ろでじっと祈り続けた。
こんな地獄が早く終わりますようにと。
早く水華が見つかりますようにと。
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