短編集

どっちにする?

赤い月が昇る国、魔都レグルス。
俺はこの国の王だ。
でも王様、とか言われるのは可愛くないからみんなには姫様って呼ばせてる。
今日は週に一回の処刑の日。
このレグルスでは俺の気に食わない人間とか、ちゃんと言うこと聞けない人間とか、仕事ができない人間を週1で見せしめに処刑してる。
これもセンチェルスに言われたこと。
そしたら人間は逆らわなくなるからって。

「今日の候補はいち、にー、さん、しー……六人! てことはえーと……」
「12個ですよ、ウィード」
「あ! センチェルスー!」

数を数えていると俺の大好きな人が玉座の後ろから出てきた。
俺は彼に駆け寄ってぎゅーっと抱きつくとキスをねだる。
そしたらセンチェルスは触れるだけのキスをくれて俺の腰を抱き寄せて今日の候補者のとこに連れて行ってくれた。

「さて、今日は六人ですか。少し多いですね」
「うん! あのね! あの子たちの親なの! だから殺すの!」
「なるほど。貴方の寵愛を受けた愛らしい子供たちの肉親なのですね。では、とびきり素敵な処刑にしましょう」
「うん!」

じゃあ、始めるね!と俺は杖を一振り。
すると一人一人の前に黒と白の箱が一つずつ現れた。
人間たちはそれと俺達を交互に見てこれは……と凄くびくびくした様子で聞いてきた。
人間の質問に答えるのは嫌だけどこれも俺のお仕事。
だから答えてあげる。
どっちかを選んで?と。

「どっちかって……何が入ってるかわからないのに選べるわけ……」
「選ぶの」
「ひ、姫様、ど、どうか、いのちだけは……っ」
「だぁめ」
「どうか慈悲を……!」
「やぁだ」
「こんなとこであんなガキのために死にたくねぇよ!」
「死ぬの」
「私のお腹には新しい命がいるんです……! 姫様……!」
「だから?」
「養わなきゃならない家族だっているんだ!」
「知らないよ」

早く選んで?とそいつらに冷たく言い放つ。
けれどなかなか選ばない人間たち。
選ばなきゃ自分たちは助かるなんて思ってるのかな?
仕方ないと俺はセンチェルスにお願いと笑いかけた。
センチェルスは仰せのままにと恭しく頭を下げて杖をとんとすると金色の砂時計を出現させた。

「いい? この砂が落ちきるまでに決めるの。じゃないと俺が勝手に決めちゃうからね」

砂はさらさらと下に落ちていく。
それを見て人間たちは俺に命乞いを続ける。
でも俺はそれを聞いてあげない。
だってこれは俺たちが昔されたことだから。
人間も聞いてくれなかったから。
だから聞いてあげない。

「さぁ、選んで?」

ただそう言うだけ。
でも誰も選ばない。
それならと俺はセンチェルスに目配せして許可をもらうと小さく頷き人間たちに向き直ってこう告げる。

「どちらかは君たちが助かるかもしれない選択だよ」と。

人間たちはハッと顔を上げ箱を交互に見つめる。
思ったとおり。
助かるかもっていえばこいつらは選ぶんだ。
……入ってるのは処刑方法の選択だというのに。
馬鹿だなぁと思いながら俺は人間たちを見下ろす。
これはお前たちに対しての罰。
俺たちを苦しめた罰。
そして俺の可愛い可愛い愛し子たちを悲しませた罰。
そしたら人間たちはせめて子どもたちに謝罪をと言ってきた。
だから俺はこう言ってやるの。

「あんたたちが捨てた可愛い可愛い子供たちは俺のとこで今も幸せに暮らしてるよ。あんたたちのことなんて忘れてね」と。

「悲しい過去は消してしまえばいい、苦しい過去は壊してしまえばいい。穴が空いたとこは幸せな記憶に塗り替えてしまえばいい。そうだよね? センチェルス?」
「ええ、仰る通りですよ。我が愛しき姫」
「だからあんたたちには会わせてあげない。少しも見せてあげない。せいぜいあの子らを捨てたことを後悔しながら箱を選びなよ」

ね?と笑いかけてあげると人間たちは悔しそうに顔を歪ませ自分たちの前の箱をじっと見つめる。
砂時計の砂はあと少し。
選べなければ俺が選べる。
俺が選んでも、こいつらが選んでも待つのは死、のみ。
さくっと死ねるか、じわじわ死ぬか、ただそれだけ。
俺はただ笑って人間を見下ろしこう続ける。

「さぁ、好きな運命を選んで?」
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