短編集

悪い男には用心

「~~♪」

今日は俺とセンチェルスの誕生日!
毎年何するか当日に決めることが多い俺たち。
けれど今回はセンチェルスが行きたいとこがあるということで駅前の噴水広場で待ち合わせ。
今日のために買ったかわいい洋服を着て俺は噴水前で待っていた。
水色のフィッシュテールのスカートに白のレースのエプロン。
上は紫のブラウス着てるけど寒いからその上に今流行りの天使っぽいショートコート。
髪型は最近動画によく流れてくるツインテールハート。
セットが大変だったけど大好きなセンチェルスとデートだもん。張り切って早起きして頑張った俺は今日も可愛い。
早く来ないかなぁと俺はセンチェルスにここで待ってるねーと自撮り付きでメッセージを送る。
するとすぐに今向かってますと簡素なメッセージが返ってきた。

「もう……俺が送ったスタンプ使ってくれればいいのに……。うさちゃんのスタンプ可愛いのになぁ」

そんなことをぼやきながら俺はセンチェルスにもプレゼントした白兎と黒兎のスタンプをポンポンと送っていく。
すぐに既読がつくからたぶんメッセージ見て笑ってるのかな。
早く会いたいなぁと思っていると何人かの男の人が前に現れた。
俺が顔を上げるとかわいいね?なんて声をかけてくる。
まただ。
また俺はナンパされてる。
今の俺はすごくかわいいから仕方ないんだけど、お前たちに見せるために着てるわけじゃないよーだ。
話すだけ無駄だから俺はそっと無視して噴水前を離れる。
けれどその男たちはしつこく俺を追ってきて声をかけてくる。

「ねぇねぇ、君! めっちゃかわいいね! こんなとこでなにしてるの?」
「暇ならさ、オレたちと遊ばない?」
「あ、もしかしてお友達待ってるとか? ならそのお友達も一緒でいいからさ、ね!?」
「うるさいなぁ……。お兄さんたち勘違いしてるようだけど俺は男だから! それに俺が待ってるのは恋人! だからあんたたちに興味なんてないの!」

いちいち相手するのが面倒くさくてそう怒って叫ぶと男たちは少し驚いたあと大笑いしてそんな格好して男?って馬鹿にしてきた。
ムッとして怒って俺は言い返そうとしたその時だった。

「おい、俺の恋人にちょっかい出してんじゃねぇよ」

聞き慣れた声なのにいつもと違う声。
まさかと思って視線を男たちの奥に向けるとそこにいたのはいつもとは違うセンチェルスだった。
黒のタートルネックに二連のシルバーネックレスをして、黒のロングコートを着た姿。
それより驚いたのはそれより上。
片方をかきあげた髪型にそこから見える耳にカフスがいくつかついててその一つにチェーンがついてる。
水色のレンズが入った丸いサングラスをかけたその姿はセンチェルスなのにどこか別の人にも見えて。

「センチェルス……? どしたの……? その姿……」
「え、こいつが君の恋人っていう……?」
「やべぇじゃん、こいつ絶対……」
「あ゙? じろじろ見てんなカス。さっさとどけ。俺とウィードの邪魔をするなら消すぞ」
「やべぇって……! 逃げるぞ……!」

そう言って男たちは引き攣った顔をして逃げていった。
俺はといえば全然違う雰囲気のセンチェルスに呆然と見ているしかなくて。
男たちが遠くに行ったのを確認してからセンチェルスは俺に向き怖がらせてしまいましたねといつもの優しい声色で話しかけてくれた。

「センチェルスどしちゃったの……? なんかミーウェルみたい……」
「みたい、ではなくてアレにこうされたんですよ。貴方が可愛い格好で来るなら変な虫がつかないようにこれで行けと」
「虫? 虫なんて冬で寒いからいないよ?」
「今のような男たちのことを言うんですよ。まぁでもたしかにこの格好でいると誰も貴方に近寄って来ませんね。一応アレのいうこも一理あったと……」
「そっか。すごくびっくりしちゃった。センチェルスがいつもと全然違うんだもん」
「驚かせてすみません」
「ううん。でもなんか新鮮でドキドキしちゃった」

素直にそう言うとセンチェルスは少し考え込んだあとなにかを思いついたかのように俺を抱き寄せて至近距離で見つめてくる。
その目はさっきみたいな獣みたいな目で。

「せ、センチェルス……?」
「いつもの私と今の俺、どっちがいいんだ? ウィード?」
「ふぁ、あっ………」

不敵に笑い聞いてくるセンチェルスに俺は早くもたじたじで。
どっちかなんて選べるわけないのに。
どっちも俺にとっては大好きな人だもん。
なのにセンチェルスは早く選べよって急かしてくる。
俺はぎゅっと抱きついて選べないよぉと答えた。

「欲張りだな、ウィードは」
「へへ……。欲張りな俺は嫌い? センチェルス」
「いや、最高だ。どっちのウィードも俺は好きだ」
「えへへ」

そろそろ行こっかと離れるとセンチェルスはまたいつもの優しい雰囲気に戻ってた。
けれどそこに少し悪い雰囲気も混ざってて、俺はずっとドキドキしっぱなしだった。
そんなセンチェルスと俺は誕生日デートを開始するのだった。
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