短編集

真夏の誘惑

夏。暑い暑い夏。
暑くて、暑くて溶けちゃいそうな日。
俺は今年の水着を買いに来ていた。
いつも買い物はセンチェルスと一緒に来てあーでもないこーでもないって選びながらお買い物をする。
けれど今日は違う。
今度の海で着る水着をどれにするか選ぶためにセンチェルスに内緒でここに来た。
ここには可愛い水着がいっぱい並んでる。
フリルがいっぱいついてるセパレートの水着、白いワンピース型の水着。
パーカーとジーンズのホットパンツ、白いチューブトップの水着。
見れば見るほど可愛い水着がたくさん!
肌着の上からなら試着もできるらしいからいろんなのを着て試したい!

「どーれーにーしーよーうーかーなー」

迷っちゃうなーと手に取っては姿見の前に立って合わせてみる。
それも可愛い女の子用の水着。
だから胸のとこにパッドも入ってる。
パッドはいらないんだけどなぁと思うけどこれは女の子用だからしかたない。
男の子用のは可愛いの売ってないからパッド付きを買ってパッドを抜く方法を毎年やってるけどなかなかめんどくさい。
けれど今は俺も女の子と同じ洋服を着てるから周りから見たら完璧で可愛い女の子に見えるらしいから男の子用の水着を見るのはちょっと変な目で見られそう。
俺は男の子なのにな。
可愛い男の子。
俺みたいな子は男の娘って書いて男の娘っていうらしいけど。

「うーん、こっちもかわいいし、こっちもかわいい……」

悩むなぁと自分にあてがっては戻してを繰り返す。
こんな時センチェルスがいれば俺に似合う水着を一発で選んでくれるのに。
でも今は一人。
自分で選ばなきゃと何個も何個も見るうちに何がいいのかわからなくなってくる。
困ったと沢山可愛い水着が並んだラックの前で立ちすくんでいるとウィード様?と声を掛けられた。
振り返るとそこいたのは可愛らしい黒ゴシック服のヴァイスと紙袋を沢山持たされている白いジャケット服のヴァルツがいた。
どうやら二人は兄妹でショッピングに来たみたいで、水着の前で悩んでいる俺を見て声をかけてくれたらしい。

「ウィード様、水着でお悩みですの?」
「うん……。センチェルスと一緒に来ると肌が出る服はどれもダメって言われるから水着なんて選んでもらえないから……」
「相変わらずの過保護具合ですわね」
「でも気持ちはわかるな。ボクだってヴァイスの肌を晒すのはあまりいい気分じゃないし」
「もうー、ヴァルツにぃったら! それで? ウィード様はどんな水着がお好みですの?」
「うーん……それが、可愛いのいっぱいで悩んじゃって……」

わかんなくなっちゃったと困った顔をする俺にそれならとヴァイスたちが一緒に選んでくれることになった。

「ウィード様はフリル系の方がお似合いですから、胸元などにフリルがあるものを選んだ方がいいですわ。色は白一択! 純粋無垢を体現するような水着が最ッ高にお似合いですわ!」
「そうかな……?」
「ウィードくんは肌も白いからね。きっと似合うと思うよ」
「ささ! こちらとこちら、それにこちらも試着しに行きましょう! ウィード様!」

試着室はこっちですわー!と水着を持ち、俺の手を引っ張ると試着室へ連れていかれた。
空いている試着室へ入るとかけられた水着を手に取る。
どれも胸元に大きなフリルがついた可愛らしい水着。
ほんとは女の子が着るやつ。

「女の子、か……」

こんな見た目してるけど俺は男。
試着してみたいけど、この中から一つ選ぶってことは二つは戻さなきゃいけない。
男の俺が試着した水着を女の子が試着するのはきっと嫌だろうなと思ってじっと手に取った水着を見つめる。
少しして着れました?とカーテンを少し開け覗いてきたヴァイスに俺はやっぱり試着するのやめると告げた。

「俺、やっぱり男だから……」
「困りましたわね……。あ! そうですわ! 髪の長さはヴァイスと同じですし、お肌もヴァイスと同じ色白ですから、ヴァイスが代わりに試着しますわ! 」
「いいの……?」
「もちろん! さ! お外で待っててくださいまし!」
「ありがと、ヴァイス……」

構いませんわと笑ってくれるヴァイスにお礼を言って俺は試着室を出た。

「ウィードくん、ヴァイスは?」
「俺の代わりに試着してくれるって……」
「そっか。じゃあボクもここにいようかな」

よいしょとヴァルツは大量の紙袋を床に置くと試着室から出てくるヴァイスを待つ。
暫くしてカーテンを開けて出てきたのは胸元が大きな三段フリルで飾られたチューブトップの白い水着姿のヴァイス。
服の下に隠れていた素肌が晒され俺は息を飲んだ。

「どうかしら? ウィード様?」
「ヴァイスっておっきいんだね……」
「ちょっとウィードくん、どこ見てんの?」
「あっ、ごめんっ」

一際目立ったのはとても大きな胸。
いつも黒い服を着ているせいで着痩せして見えていただけなのか、晒された体はなかなかに肉付きのいい女の人って感じの姿だった。

「ヴァイスの胸、そんなに大きいんですの? 自分ではそんな感じしませんけど」
「まぁ、ウィードくんの傍って男の人が多いもんね……」
「大きくても邪魔なだけですのよ? 肩だって凝りますし……」
「そうなの……? ましまろみたいにふかふかな感じするのに……」

白くてふわふわと見ていると触ってみます?と手を掴まれた。
俺はだめだめ!とヴァイスの手を振り払うと女の子に触っちゃダメだからと伝える。

「ふふ、ヴァイスになら触ってもいいんですのよ?」
「ダメだよ、ヴァイス。にぃが許さないからね」
「もー、ヴァルツにぃってばほんとお堅いんですから。それで? ウィード様。この水着はどうですかしら?」

なかなか可愛いと思いますけどとその場で回って見せるヴァイス。
胸の事は置いておいて、確かに今ヴァイスが着てる水着はとても可愛い。
胸元の大きなフリルが俺の胸も隠してくれそう。
下も両サイドにいっぱいフリルがついててすごく可愛い。
でも前にフリルがついてなくて少し心もとない。
それをわかってかいつの間にかヴァルツが上にこれを履いたらどうかなと同じく白いフレアスカートみたいなのを持ってきてくれた。

「これならウィードくんの心配も少しはなくなるんじゃない?」
「ヴァルツ……。ありがとう……」
「これにします? ウィード様?」
「うん、これにする」
「じゃあ脱いできますわね」

ありがとうと告げるとヴァイスはお役に立てて光栄ですわと笑って試着室へ戻っていく。
良かったねとヴァルツと二人で話していると着替え終わったヴァイスが着ていない水着を戻してきますと買う水着を俺に預けて去っていった。
手元の水着を見て可愛いの見つけたなと思いながら待っていると行きましょうと声を掛けられて俺たちはレジへと並ぶ。
カップルで並んでいる人がすごく多い中三人で並ぶ俺は二人に今度三人で海に行くんだと話す。

「楽しみですわね。センチェルス様の事ですからきっとプライベートビーチでも用意されているんでしょうね」
「うん。隔離されたとこで作ったって言ってた。ほんと、過保護なんだよなぁ」
「それくらい大事にされてるってことだよ、ウィードくん」
「ウィード様はセンチェルス様にとってたった一人の愛する大事な大事なお姫様なんですもの」
「そうだね。ウィードくんは大切なお姫様だからね」
「まぁそうなんだけどね」

そうやって話しているうちに自分たちの順番が来て俺は手元の水着をレジに出す。
店員さんはそれをもって裏手に行くと新品を持ってきてくれた。
俺が白いお財布を出してお金を払おうとしたらボクが払うよとヴァルツが支払いをしてしまった。
お金……と困惑する俺に気にしないでと水着の入った白い紙袋を渡されてしまう。

「さてと、ヴァイス。ウィードくんを拾えたしそろそろ帰ろうか」
「はい、ヴァルツにぃ。任務は完了ですわね!」
「任務?」

なんのこと?と首を傾げる俺に二人は内緒だよと告げるとお家に帰ろうと手を引かれてショッピングセンターをあとにした。
任務のことは気になったけど二人とお買い物できて楽しかった俺は楽しかったねと話しながら帰路につく。
このあと家についた瞬間、センチェルスに物凄く物凄く怒られることなど全く知る由もなく……。
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