短編集

願い事を聞かせて

今日は七夕。
ある晴れた昼下がり。
まだ梅雨明けは先だというのにむしむしとした暑い外。
恋人との待ち合わせのために我は今、涼しいショッピングモールのエントランスにいて、一枚の紙を手に悩んでいた。
長方形に切られた紫色の紙。
人間たちはこれに自分の願いを書いて目の前の笹に飾りつけているようだ。
よければどうぞと言われ手渡された紙を両手で持ち我は悩む。
どんな願いを書けばいい?と。
ミーウェルとは結ばれたし、何か欲しいものがあればミーウェルが手に入れてくる。
我は今、十分幸せで満たされており、願いなど特になかった。
困ったなと近くのベンチに座りうーんうーんと悩んでいると何してるのー?と聞きなれた声が聞こえ顔を上げる。
そこにいたのは水色を基調とした和風ロリータのウィードと同じく水色の浴衣を着たセンチェルスで。
いつも長い髪を上にまとめてお団子になったところへ折り鶴の簪が何本か刺さっていて可愛いウィードは我の手元にある紙を指さし何書くの?と問いかけてくる。

「我は特に願いがないから……」
「お願いないの? なんで?」
「我は今、満たされてるから、特に書く願いがない……。何を願えばいいのか、我にはわからない……」
「なるほどねー」

困ったと俯く我の隣にぴょんと座るとウィードはセンチェルスに紙もらってきて―!と言い、持ってきて貰う。
ウィードの手元には我と同じように水色の紙と紫のペンが握られており何を書くんだろうと見ている前ですらすと願い事を書いて見せた。

【ずっとずーっと幸せが続きますように】

可愛らしい文字で書かれたウィードの短冊。
彼はそれを我に見せてこういうことでいいんだよと笑った。

「難しく考えなくてもいいんだよ。満たされてるならそれがずっと続くようにって書けばいい。だってその日がずっと続いた方が幸せでしょ?」
「確かに……」
「センチェルスはなんて書いたのー?」
「私はいつも通りですよ」

そう言って見せてくれた紫の紙には【私の愛しいお姫様がずっと笑顔でいられますように】と綺麗な字で書かれていた。
どっちの短冊も二人らしいなと思い我は再び自分の短冊を見る。
何も書かれていないまっさらな紙を撫でながら我は何を書こうか少し悩む。

「ミーウェルってエルザークの為ならどんな危険なとこにでも行っちゃうよね」
「確かに。無能のくせにエルザーク様の事になると無理しますからね」
「そうなんだ。あいつは我に関わることになるとすぐ無茶をして、傷だらけになって……」

そこまで話してハッと気づく。
我がここに書かなきゃいけない願い事はこれしかないと。
そうと決まれば紙にさらっと思いついた願い事を記す。

【大好きな人が健康でいられますように】と。

それを見た二人はよかったよかったと顔を見合わせ笑い、我の手を取ると一緒に飾り付けいこ!と笹まで走っていった。

「俺、あそこがいいー! センチェルスー! 俺のもつけてー!」
「はいはい。隣同士でつけましょうね」

あそこあそこ!と上の方を指さしぴょんぴょん跳ねるウィードの手から短冊を取るとセンチェルスは自分のつけた短冊の隣に彼の短冊を括り付けた。
我は……ときょろきょろしてから少し低い場所を見つけるとここにすると自分の短冊を括り付けた。

「せっかくなら上の方につければいいのに」
「エルザーク様は控えめな性格なんですね」
「いや……ミーウェルに見られたくないだけ……」

恥ずかしいと熱くなる頬を隠すように俯きぼそぼそ呟く我に二人は何やらそわそわしてて。
何だろうと思っているとどれどれー?と我を押しのけて割り込んできたのはミーウェル本人で。
あわあわと慌てる我を横目に甚平姿のミーウェルは我がつけた短冊を見てへぇ……とにやりと笑うとオレも書いてくるわとテーブルのとこに向かう。

「よし、書けた!」

これでいいと赤い短冊を手に戻ってくると我の隣に括り付けた。
そこには【オレの恋人がもっと素直になりますように】と書かれていて。
ニッと笑うとミーウェルは我の手を握り待たせてわりぃなと言ってきた。

「では、私達はそろそろ行きましょうか?」
「うん! じゃあね! エルザーク! ミーウェル!」

ばいばーい!と手を振ってそう言うとウィードはセンチェルスの腕に自分の腕を絡ませて去っていった。
我はその背中を見送りながらちらっとミーウェルの方を見る。
我より少し身長が低いミーウェル。
ウィードのように腕を組んだりしたら不格好になってしまう。
ウィードくらい低くて可愛かったらあーやってしてもよかったのにと俯いているとミーウェルがなんて顔してんだよと覗き込んできた。

「我はウィードみたいになれないなって……」
「はぁ? 当たり前だろうが。お前はお前だろ?」
「そうだが……我はあやつのように小柄ではないからあやつのように甘えたりは出来ないなって」
「ったく……お前ほんっと素直じゃねぇな! ほら!」

そう言ってミーウェルは手を離すとそのまま自分の腕に我の腕を絡ませるとこれで同じじゃねぇかと笑いかけてくる。

「ミーウェル……」
「ほら行くぞ! 祭りの時間までこんなか見て回ろうぜ! エル!」

行くぞー!と歩き出すミーウェルに引っ張られるように我は歩き出す。
周りの視線が気になって動揺する我にミーウェルは堂々としてりゃいいんだよとそのまま歩く。

「汝はほんとに強引だな……ミーウェル」
「こうでもしなきゃお前は素直になってくれねぇからな」
「……ばか」

ニッと笑い見上げてくるミーウェルに我は少し恥ずかしさを感じながらも笑うと小さな声でそんな汝が好きと呟く。
するとミーウェルもオレも好きだぞと返してきて恥ずかしくなった我は熱くなる顔をぷいっと背け、ばか……と呟きながら久々のデートを楽しむことにした。
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