【GL】Fox Maiden-狐巫女の洗礼-
石階段を登り切り、一行は本殿へと足を踏み入れる。
彼女らが進む道の両側には狐面をつけた人たちが正座しずらりと並んでいた。
その道の最奥。
そこには彼女らが会いたがっていた巫女本人が笑って待っていた。
「みこさま、ばれました」
「まぁそうだろうよ。だから愛想よく笑えと言ったではないか」
巫女の姿が見えると花月はたかたかっと駆け寄り第一声でそれを報告する。
巫女は笑みを崩すことなくそう答えると長い爪を生やした指をぱちんと鳴らす。
すると花月の姿が幼い少女から少し大人びた姿へと代わり、花月はやっと元に戻ったと息をついた。
「さて、ようこそ。我が社へ。ここまでの長旅大変ご苦労であったな」
「狐巫女……っ! 私達はあんたを倒しに来たんだ! これまでの悪行の数々、その身で償ってもらう!」
「威勢がよいなぁ。花月にも勝てなかった貴様らが妾に勝てると? これは傑作だな!」
ははっ!と高笑いが本殿に響き渡る。
巫女は依然としてその場から立つこともなくただ一行を見下ろすだけ。
完全に舐めきっているその態度に美月と樹は激昂し、襲い掛かっていく。
けれどその刃は見えない何かに阻まれ巫女どころか傍にいる花月にさえ届かない。
一体何?と一歩退いた二人に律が物理攻撃ではあの壁は壊せないと助言を出し、彼女たちに強化魔法をかけた。
「いいですか、リーダー、樹。それにエルラも。一点集中で押せばぼくたちなら壊せるはずです」
「わかった」
「律、お前の言うとおりにしてやるよ」
「やるしか、ないのよね……」
わかったと一同は能力を解放すると各々の武器にそれを纏わせ巫女の前にある見えない壁に攻撃を開始する。
それでも巫女の余裕の笑みは変わらず愉快だなと鼻で笑い傍にいた花月を自分の膝の上に座らせ髪を、頬を撫で、親指で彼女の唇を一撫でするとゆっくりと自らの唇を重ねた。
花月は目を閉じ、ただ巫女にされるがままで。
まるで襲いかかる彼女らの音をBGMかなにかだと思っているように気にもかけていない巫女に美月はさらに怒りを顕にする。
「花月の蜜はやはり美味だな。さすがは妾の洗礼を一番に受けさせたかいはある」
「お褒めに、預かり、光栄です、巫女様」
唇が離れると浅い呼吸を繰り返す花月にそう告げ立ち上がるとそろそろ飽きたなと彼女は指をぱちんと鳴らす。
瞬間、あれだけ攻撃しても壊れなかった壁が意図も簡単に壊れ、一瞬呆気にとられた美月たちがいまだと言わんばかりに襲い掛かってくる。
けれど美月たちの刃は巫女に届くことはなく、花月が持つ薙刀がその刃を一手に受け止めていた。
花月はそれをぐいっと押し返し、美月たちを段の下へと突き落とした。
「弱い、弱すぎるぞ! まさか貴様ら、そんな貧弱な力で妾を倒そうなどと考えてはおらぬだらうな? 実に滑稽極まりない! 花月にすら勝てぬ貴様らが妾と同じ土俵に立てると軽々しく思うなよ!」
「く、そ……ぉっ、おい! リーダー! どうすんだよ!」
「一旦引きましょう、リーダー。態勢を立て直すべきです。今のぼくたちに到底勝てる相手じゃない……!」
「引かない……! 私はあいつを殺す! あいつがいるから私の幼馴染も、村のみんなも死んだ!
あいつがいるから……!」
「おねーちゃん……!」
「私は絶対にあいつをしとめる……!!」
うおー!!っと雄叫びをあげ美月は単身で突っ込んでくる。
その刃を受け止めようと身構えた花月を制し巫女は一歩前に出ると振り下げされたそれをいとも簡単に片手で掴み受け止めた。
引いてもなにをしても動かないその力に美月は驚きながらもその柄から手を離すことはなくて。
巫女はその様子を見てにやりと笑い彼女の耳元でこう囁く。
「昔の妾によく似ておるわ」と。
その言葉に美月は何のことだと怒鳴り散らし、剣をどうにか引き抜こうとする。
巫女は愉快だなと笑い剣ごと美月を一同のもとへ投げ飛ばした。
「妾は物では殺せぬ。妾が与えた力でのみ妾を殺せる。だが、花月から報告を聞くに貴様らはその力をいらぬときた。その願い、叶えてやろう。妾はなんて優しい巫女なのだろうか、感謝してもいいぞ?」
「一体なにを……っ」
「花月、あれを」
「はい、巫女様」
袖口から水晶玉を取り出すとそれを巫女にそっと渡すと彼女の後ろに隠れた。
美月たちはそれが何を意味するのかわからず呆然としていると巫女は水晶を片手に返してもらうぞと唱える。
すると美月たちから光の靄が現れそれが水晶に吸収されてしまい、その力を全て奪い去ってしまった。
「これで貴様らの願いは叶えてやったぞ? 妾が与えた力を根こそぎ奪ってやったのだからなァ?」
「巫女様、花月はもう出てもいいですか」
「ああ、いいぞ」
ひょこっと出てきた花月はそのまま美月たちに歩み寄ると願いが叶ってよかったですねと一つの表情も変えず告げた。
ようやく立ち上がった美月たちは自分たちの中に何の力も残されていないことに気づいたようで物凄い剣幕で巫女を睨みつけた。
巫女は楽しげに高笑いその様子をただ見ているだけ。
美月はそんな巫女を脅迫でもするかのように花月を人質にとり、こいつを殺されたくなければ元に戻せと怒鳴りつけた。
「美月……! 花月ちゃんを離してあげて……! 花月ちゃんはなにも悪くない! あたしたちが倒すべきなのはあの狐巫女でしょ!?」
「あんたは黙ってて! さぁ!はやく戻せ!! 狐巫女!!」
「力を寄越せと言ったりいらぬと言ったり、人間は勝手よな。よいぞ、殺すなら殺せ」
「あんた、私が本当に殺さないとでも思ってるわけ? 私はやるわよ」
「ならさっさと花月を殺せ。妾のために死ねるなら本望だろう? なぁ? 花月」
「はい。巫女様のために死ねるなら花月は本望です」
その言葉の通り抵抗もしない花月に美月は逆上し彼女を一度離すと自らの剣でその胸を背中から貫いた。
凄惨な光景にエルラは悲鳴をあげその場に座り込んで花月の名を叫び、そんな彼女を支えるように律がしゃがみこんで樹が彼女の視界を遮るように前に立った。
心臓を一刺しにされた花月はその場に倒れ微動だにしない。
巫女は花月の姿を見てやれやれと肩を竦めると右手をゆっくりと上げ人差し指を彼女にむけた。
すると巫女の周りを舞っていた青い狐火が花月の周りをぐるぐると回りその身をゆっくり浮かせ始める。
「あんた、一体何をするつもり……?」
「なぁに少し弄るだけさ」
美月の質問に巫女は笑みを絶やさずそう答えぱちんと指を鳴らす。
それを合図に花月の周りを回っていた狐火が彼女の胸の傷を癒やし、中へと吸い込まれていった。
花月はゆっくりと目を覚まし何事もなかったかのようにその場に降りてくるとまたですかと巫女を振り返った。
「巫女様、また反魂の術を使いましたね」
「ああ。花月は大事な大事な妾の巫女使いだからなァ」
「はぁ……」
まったく……と呆れたようにため息をつき巫女の元に戻ると驚いている一同を見下ろし、花月はこの通りですと元気な姿を見せた。
「花月は死ねないのですよ。こうして巫女様が喚び戻してしまうので」
「そうだぞ。コレは妾のものだ。妾の許可なく死ぬことは許さない」
「だそうです。これで何度目か……。花月は何度巫女様のために殺されたらいいのですか? そのたびに痛いのは花月なんです」
「そう文句を言うでない。こうして傷もなく蘇らせてやっているではないか」
「頼んでません」
「相変わらず辛辣なやつだな。信仰心の欠片も感じぬ。まぁそれが妾を飽きさせないものとはなってはおるがな」
「はぁ……。それで、あの敵意剥き出しの彼女たちをどうしますか?」
ため息混じりに巫女に尋ねると彼女はそうさな……と考える素振りを見せ、いいことを思いついたとにやりと口端をつりあげた。
「妾と貴様らとでゲームをしよう。貴様らが勝てたら奪ったこの力をかえしてやってもいいぞ? ああ、なんて優しい妾。なぁ? 花月」
「そうですね、すごく悪趣味です」
「どうしてお前はそう素直に妾を褒めぬのか。照れ隠しか?」
「早く続けてください、巫女様。じゃないと花月はまたあの人に殺されます」
「わかったわかった。花月の機嫌を損ねぬ前に始めよう。なぁに簡単なゲームだ。妾の駒たちから1週間逃げ果せればよい。鬼ごっことかくれんぼを合体した新しいゲームだ! おもしろそうだろう?」
「なんであんたなんかとそんなことしなきゃなんないのよ!」
「よいのか? 美月。力がない今貴様らは地べたを這いずりまわる蟻と同じ。妾が少し力を入れれば全員まとめて始末できるのだぞ? それでは妾がつまらん。逃げて、隠れて、見つけて、捕らえて、それからじっくりと料理をしたほうが楽しいではないか」
「あんたの退屈しのぎに私たちを巻き込まないで!」
「これは貴様らにも得なことだというのに? 妾が負ければ貴様らに力を返して、また妾に立ち向かうことが出来るだろう? そうしてまた相見えたとき、妾は貴様らをまた別の形で絶望へと落としてやろう。それを断ちたくば妾に勝利し、力を取り戻し、妾を殺せ! さもなくば貴様らに明るい未来などやってこないのだからなぁ!」
高笑う巫女に花月は本当に悪趣味ですねとため息をつき、ぱんっと柏手を打つと大きな砂時計を出現させた。
金色のきらきらとした砂が入った大きな砂時計。
それを花月はぱちんと指を鳴らし砂の入った方を上にひっくり返した。
まるでそれがゲーム開始の合図だとでも言うように。
両側にいた狐面の人たちも一斉に立ち上がり各々の武器を手に美月たちが動き出すのを舞っていた。
「さぁ、始めよう! 貴様らと妾の愉快なゲームを!」
「ふざけないで……! 誰があんたと……!」
「花月、ハンデをあげるといい」
「社から逃せばいいですか?」
「ああ、そうしてやれ。貴様らもこやつらが社を出、花月が帰ってくるまで追うことは許さぬぞ!」
そう高らかに宣言した巫女を横目に花月は一同に行きますよと声をかけて強制的に本殿から社の階段下まで転移した。
彼女らが進む道の両側には狐面をつけた人たちが正座しずらりと並んでいた。
その道の最奥。
そこには彼女らが会いたがっていた巫女本人が笑って待っていた。
「みこさま、ばれました」
「まぁそうだろうよ。だから愛想よく笑えと言ったではないか」
巫女の姿が見えると花月はたかたかっと駆け寄り第一声でそれを報告する。
巫女は笑みを崩すことなくそう答えると長い爪を生やした指をぱちんと鳴らす。
すると花月の姿が幼い少女から少し大人びた姿へと代わり、花月はやっと元に戻ったと息をついた。
「さて、ようこそ。我が社へ。ここまでの長旅大変ご苦労であったな」
「狐巫女……っ! 私達はあんたを倒しに来たんだ! これまでの悪行の数々、その身で償ってもらう!」
「威勢がよいなぁ。花月にも勝てなかった貴様らが妾に勝てると? これは傑作だな!」
ははっ!と高笑いが本殿に響き渡る。
巫女は依然としてその場から立つこともなくただ一行を見下ろすだけ。
完全に舐めきっているその態度に美月と樹は激昂し、襲い掛かっていく。
けれどその刃は見えない何かに阻まれ巫女どころか傍にいる花月にさえ届かない。
一体何?と一歩退いた二人に律が物理攻撃ではあの壁は壊せないと助言を出し、彼女たちに強化魔法をかけた。
「いいですか、リーダー、樹。それにエルラも。一点集中で押せばぼくたちなら壊せるはずです」
「わかった」
「律、お前の言うとおりにしてやるよ」
「やるしか、ないのよね……」
わかったと一同は能力を解放すると各々の武器にそれを纏わせ巫女の前にある見えない壁に攻撃を開始する。
それでも巫女の余裕の笑みは変わらず愉快だなと鼻で笑い傍にいた花月を自分の膝の上に座らせ髪を、頬を撫で、親指で彼女の唇を一撫でするとゆっくりと自らの唇を重ねた。
花月は目を閉じ、ただ巫女にされるがままで。
まるで襲いかかる彼女らの音をBGMかなにかだと思っているように気にもかけていない巫女に美月はさらに怒りを顕にする。
「花月の蜜はやはり美味だな。さすがは妾の洗礼を一番に受けさせたかいはある」
「お褒めに、預かり、光栄です、巫女様」
唇が離れると浅い呼吸を繰り返す花月にそう告げ立ち上がるとそろそろ飽きたなと彼女は指をぱちんと鳴らす。
瞬間、あれだけ攻撃しても壊れなかった壁が意図も簡単に壊れ、一瞬呆気にとられた美月たちがいまだと言わんばかりに襲い掛かってくる。
けれど美月たちの刃は巫女に届くことはなく、花月が持つ薙刀がその刃を一手に受け止めていた。
花月はそれをぐいっと押し返し、美月たちを段の下へと突き落とした。
「弱い、弱すぎるぞ! まさか貴様ら、そんな貧弱な力で妾を倒そうなどと考えてはおらぬだらうな? 実に滑稽極まりない! 花月にすら勝てぬ貴様らが妾と同じ土俵に立てると軽々しく思うなよ!」
「く、そ……ぉっ、おい! リーダー! どうすんだよ!」
「一旦引きましょう、リーダー。態勢を立て直すべきです。今のぼくたちに到底勝てる相手じゃない……!」
「引かない……! 私はあいつを殺す! あいつがいるから私の幼馴染も、村のみんなも死んだ!
あいつがいるから……!」
「おねーちゃん……!」
「私は絶対にあいつをしとめる……!!」
うおー!!っと雄叫びをあげ美月は単身で突っ込んでくる。
その刃を受け止めようと身構えた花月を制し巫女は一歩前に出ると振り下げされたそれをいとも簡単に片手で掴み受け止めた。
引いてもなにをしても動かないその力に美月は驚きながらもその柄から手を離すことはなくて。
巫女はその様子を見てにやりと笑い彼女の耳元でこう囁く。
「昔の妾によく似ておるわ」と。
その言葉に美月は何のことだと怒鳴り散らし、剣をどうにか引き抜こうとする。
巫女は愉快だなと笑い剣ごと美月を一同のもとへ投げ飛ばした。
「妾は物では殺せぬ。妾が与えた力でのみ妾を殺せる。だが、花月から報告を聞くに貴様らはその力をいらぬときた。その願い、叶えてやろう。妾はなんて優しい巫女なのだろうか、感謝してもいいぞ?」
「一体なにを……っ」
「花月、あれを」
「はい、巫女様」
袖口から水晶玉を取り出すとそれを巫女にそっと渡すと彼女の後ろに隠れた。
美月たちはそれが何を意味するのかわからず呆然としていると巫女は水晶を片手に返してもらうぞと唱える。
すると美月たちから光の靄が現れそれが水晶に吸収されてしまい、その力を全て奪い去ってしまった。
「これで貴様らの願いは叶えてやったぞ? 妾が与えた力を根こそぎ奪ってやったのだからなァ?」
「巫女様、花月はもう出てもいいですか」
「ああ、いいぞ」
ひょこっと出てきた花月はそのまま美月たちに歩み寄ると願いが叶ってよかったですねと一つの表情も変えず告げた。
ようやく立ち上がった美月たちは自分たちの中に何の力も残されていないことに気づいたようで物凄い剣幕で巫女を睨みつけた。
巫女は楽しげに高笑いその様子をただ見ているだけ。
美月はそんな巫女を脅迫でもするかのように花月を人質にとり、こいつを殺されたくなければ元に戻せと怒鳴りつけた。
「美月……! 花月ちゃんを離してあげて……! 花月ちゃんはなにも悪くない! あたしたちが倒すべきなのはあの狐巫女でしょ!?」
「あんたは黙ってて! さぁ!はやく戻せ!! 狐巫女!!」
「力を寄越せと言ったりいらぬと言ったり、人間は勝手よな。よいぞ、殺すなら殺せ」
「あんた、私が本当に殺さないとでも思ってるわけ? 私はやるわよ」
「ならさっさと花月を殺せ。妾のために死ねるなら本望だろう? なぁ? 花月」
「はい。巫女様のために死ねるなら花月は本望です」
その言葉の通り抵抗もしない花月に美月は逆上し彼女を一度離すと自らの剣でその胸を背中から貫いた。
凄惨な光景にエルラは悲鳴をあげその場に座り込んで花月の名を叫び、そんな彼女を支えるように律がしゃがみこんで樹が彼女の視界を遮るように前に立った。
心臓を一刺しにされた花月はその場に倒れ微動だにしない。
巫女は花月の姿を見てやれやれと肩を竦めると右手をゆっくりと上げ人差し指を彼女にむけた。
すると巫女の周りを舞っていた青い狐火が花月の周りをぐるぐると回りその身をゆっくり浮かせ始める。
「あんた、一体何をするつもり……?」
「なぁに少し弄るだけさ」
美月の質問に巫女は笑みを絶やさずそう答えぱちんと指を鳴らす。
それを合図に花月の周りを回っていた狐火が彼女の胸の傷を癒やし、中へと吸い込まれていった。
花月はゆっくりと目を覚まし何事もなかったかのようにその場に降りてくるとまたですかと巫女を振り返った。
「巫女様、また反魂の術を使いましたね」
「ああ。花月は大事な大事な妾の巫女使いだからなァ」
「はぁ……」
まったく……と呆れたようにため息をつき巫女の元に戻ると驚いている一同を見下ろし、花月はこの通りですと元気な姿を見せた。
「花月は死ねないのですよ。こうして巫女様が喚び戻してしまうので」
「そうだぞ。コレは妾のものだ。妾の許可なく死ぬことは許さない」
「だそうです。これで何度目か……。花月は何度巫女様のために殺されたらいいのですか? そのたびに痛いのは花月なんです」
「そう文句を言うでない。こうして傷もなく蘇らせてやっているではないか」
「頼んでません」
「相変わらず辛辣なやつだな。信仰心の欠片も感じぬ。まぁそれが妾を飽きさせないものとはなってはおるがな」
「はぁ……。それで、あの敵意剥き出しの彼女たちをどうしますか?」
ため息混じりに巫女に尋ねると彼女はそうさな……と考える素振りを見せ、いいことを思いついたとにやりと口端をつりあげた。
「妾と貴様らとでゲームをしよう。貴様らが勝てたら奪ったこの力をかえしてやってもいいぞ? ああ、なんて優しい妾。なぁ? 花月」
「そうですね、すごく悪趣味です」
「どうしてお前はそう素直に妾を褒めぬのか。照れ隠しか?」
「早く続けてください、巫女様。じゃないと花月はまたあの人に殺されます」
「わかったわかった。花月の機嫌を損ねぬ前に始めよう。なぁに簡単なゲームだ。妾の駒たちから1週間逃げ果せればよい。鬼ごっことかくれんぼを合体した新しいゲームだ! おもしろそうだろう?」
「なんであんたなんかとそんなことしなきゃなんないのよ!」
「よいのか? 美月。力がない今貴様らは地べたを這いずりまわる蟻と同じ。妾が少し力を入れれば全員まとめて始末できるのだぞ? それでは妾がつまらん。逃げて、隠れて、見つけて、捕らえて、それからじっくりと料理をしたほうが楽しいではないか」
「あんたの退屈しのぎに私たちを巻き込まないで!」
「これは貴様らにも得なことだというのに? 妾が負ければ貴様らに力を返して、また妾に立ち向かうことが出来るだろう? そうしてまた相見えたとき、妾は貴様らをまた別の形で絶望へと落としてやろう。それを断ちたくば妾に勝利し、力を取り戻し、妾を殺せ! さもなくば貴様らに明るい未来などやってこないのだからなぁ!」
高笑う巫女に花月は本当に悪趣味ですねとため息をつき、ぱんっと柏手を打つと大きな砂時計を出現させた。
金色のきらきらとした砂が入った大きな砂時計。
それを花月はぱちんと指を鳴らし砂の入った方を上にひっくり返した。
まるでそれがゲーム開始の合図だとでも言うように。
両側にいた狐面の人たちも一斉に立ち上がり各々の武器を手に美月たちが動き出すのを舞っていた。
「さぁ、始めよう! 貴様らと妾の愉快なゲームを!」
「ふざけないで……! 誰があんたと……!」
「花月、ハンデをあげるといい」
「社から逃せばいいですか?」
「ああ、そうしてやれ。貴様らもこやつらが社を出、花月が帰ってくるまで追うことは許さぬぞ!」
そう高らかに宣言した巫女を横目に花月は一同に行きますよと声をかけて強制的に本殿から社の階段下まで転移した。