【GL】Fox Maiden-狐巫女の洗礼-

次の日、一行は花月の道案内のもと、巫女の社に向かっていた。

「でも花月ちゃんが道覚えててくれたからさくっと辿り着きそうね!」
「そうね。本当に社に向かってくれているなら」
「ちょっとー! あたしの妹を信用できないっていうのー!?」
「しかたないです。かげつはまだしんじんですから」
「もー! 花月ちゃんがあたしたちを裏切るわけないじゃない! こんなにも幼気な女の子なのにー!」
「まぁまぁ、エルラ。リーダーは少し疑い深いだけですから」
「でもぉ……」
「きにしないでください、えるらおねぇちゃん。かげつはそういうことになれてます」

だから大丈夫、と話すとエルラがそんなのことになれちゃだめだよぉ!と抱きついてくる。
そんな様子を見て美月と手を繋いでいた胡桃も花月ちゃんは大丈夫だよと笑いかけていて。
美月は彼女を見てもその警戒心を解くことはなく。
後ろをついてきていた律と樹も暫く時間がかかりそうだなと互いに顔を見合わせ肩を竦めていた。

「そういえば、花月ちゃんはどうして狐巫女の社にいたの? ご両親とかは?」
「しりません。かげつはきづいたらあそこにいました」
「捨てられたってことか。お前も随分ひでぇ過去の持ち主だな」
「ということはあの狐巫女に育てられたと言うことですよね? それなのに……」
「かのじょはかげつにいいました。じぶんにさからうひとをしまつせよと。でも、うまくできなくて、かげつはようずみになりました」

それからは……と苦しそうな顔をしてみせるとエルラがもういいから!と泣きながら彼女の頭を撫でて辛かったねと同情してくれた。
ちょろいなと思いながら花月は道案内を続ける。
森を抜けて、社へ続く石階段を登る。
何の邪魔も入らずに。
美月を始め、律や樹もなにかおかしいと感づいたのか各々の武器を構え辺りを警戒し始める。

「静かすぎる……」
「そうですね……」
「まさか既に敵の術中にハマってんじゃねぇだろうな……」
「まさか……。それじゃあまるで花月ちゃんがあたしたちを騙してるみたいじゃない……!」
「花月」
「かげつはしりません。でもみちはこっちであってます。たしかにしずかだとおもいますが、いつもやしろのなかはこのくらいしずかでした」

明らかな警戒心を向けられても花月は淡々と答え、歩くだけ。
風の音、葉が擦れる音、自分たちの足音。
敵のいる範囲にいるはずなのに一切その敵意が見つからない。
疑心暗鬼になる一行に視線を向けるとエルラを除いた全員が自分に警戒の目を向けていることに気づく。
美月の警戒はその中でも異常だった。
片手に繋いだ妹を守るためか、花月をもはや信用している様子はなく。
その赤く鋭い眼光が背中に突き刺さる。

(このままみこさまのもとにいくべきか、それとも……)

一旦引くべきか。
悩みながらも花月は歩みを進める。

「一つ聞きたかったんだけど、いいかしら」
「……なんですか?」
「あんた、どうやってこの社から逃げてきたの?」
「はしってにげてきました」
「昔こう聞いたことがあるのよ。狐巫女の洗礼を受けたものは狐巫女の許可なく社を出る事は出来ない、てね」
「だからなんだというのですか?」
「あんた、狐巫女に育てられたってことは洗礼を受けているはずよね。なのにどうして狐巫女の許可なく社を逃げ出せたのかしら?」
「……」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 美月! あんたが何言いたいのか全然わかんないんだけど!? あんたまさか花月ちゃんがあたしたちの仲間になって日が浅いから信用に値しないって言いたいの!?」

歩みを止めエルラは花月と美月の間に入り必死に花月を庇ってくれる。
けれど美月はそんなエルラ越しに花月を睨みつけ、あんたは元からここに誘き寄せる役なんじゃないの?とつきつけてきた。

「最初からおかしいのよ、そいつ。タイミングといい、なんといい。まるで私達をここにつれて来いと言わんばかりに誘導してる。あそこので倒れていたのも演技かなにかだったとしたら説明がつく」
「だ、だけど……! 花月ちゃん、本当に怪我してたじゃない……! ね、律!! あんたが治してたよね!?」
「ええ、まぁ……」
「だけどよ、あんまりにも出来過ぎてる。そう言いたいんだろう? リーダー」
「そうよ。ねぇ、花月。あんた、何者?」

そう問われ花月は仕方ないですねとひと息つくと石段を2、3段上がり一行に振り返る。

「だからかげつにはむりだといったのに」
「花月、ちゃん……?」

やれやれとため息をつくと花月はその場でくるりと一回転しその姿を巫女に仕えていた時のものへと変え、身の丈ほどの薙刀を出現させると一行にむけて突きつけた。

「かげつはかげつ。みこさまのせんれいをいちばんにうけた、みこつかい。あなたたちをむきずでつれていくのがかげつのにんむ。だからだまってついてきて」
「テンプレ的な展開だな、リーダー」
「ええ、そうね」
「どうして、花月ちゃん……」
「エルラさん、あれはもう貴女の妹だった花月さんではありません。もうわかったでしょう?」
「さからわずについてきてください。みこさまにあいたいのでしょう。かげつがつれていってあげます。どうせ“せんれい”をうけていないにんげんは“つよいねがい”がないかぎり、みこさまのごぜんにはいけないのですから。かげつがあんないしてあげます。かんしゃしてください」
「結構よ。あの巫女のもとにはあんたを倒して自立でたどり着く。敵に案内されるなんてごめんよ!」
「どうしても、たたかうというのですか。しかたありません。すこしだけ、かげつがあいてをしてあげます」

ぎゅっと薙刀を握り直した花月の周りには水色の光が発生しており、次第にそれが複数のネモフィラの花の塊へと姿を変えていく。
美月たちはそれを敵意と捉え各々の武器を構え直し、能力を解放すると一斉に花月に襲いかかる。
前衛に美月、樹、後衛にエルラ、そして補助役に律が充てがわれているようで胡桃は律の傍でじっとしていた。
美月と樹が切りかかり、エルラが後ろから援護をする。
その力を律が己の武器であるハープを鳴らし強化していく。
炎と雷、視界を遮るように花の嵐が吹き荒れる。
それでも花月は動じずその一つ一つを確実に薙ぎ払っていく。
小さなその体のどこにそんな力があるのか疑問に思うほど豪快に振り回される薙刀が彼女たちをじわじわと追い詰めていく。

「なん、だっ、こいつ……!」
「全然歯が立たない……っ」
「美月……! 樹……!」
「おねーちゃん……!」
「胡桃はそこにいて! 出てきちゃだめ……!」
「……こうしたほうがはやそうですね」

ぱちんと花月が指を鳴らすと律の結界にいたはずの胡桃が彼女のもとへ転送されてくる。
花月は彼女の首に青い数珠を掛け、ぱんと両手を叩く。
するとソレは青く光だし彼女の首を締め上げ始めた。
美月がその光景にやめて……!と悲痛な表情を浮かべていて、花月はそんな彼女に助けたければ黙ってついてきてくださいと取引を持ちかけた。

「わかった……っ! わかったから……っ! 胡桃を離して!!」
「さいしょからそうすればいいんです」

返しますと術を解くと花月は彼女の首から数珠を外しついてきてくださいと再び歩き出した。
一行は咳き込む胡桃を守りながら彼女についていくしかなかった。
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