【GL】Fox Maiden-狐巫女の洗礼-

それから数年。

「ほう。これが聖帝としての力……。実に心地いい」

力を取り戻した結月は花月に教わりながらその力をいとも簡単に自分の物にしていた。
狐巫女だった時と変わらないその姿に花月も桜月も懐かしさを感じながら、彼女は姫にだれを選ぶのかと見守っていた。

「巫女様、あの……」
「妾はもう巫女ではないぞ、桜月。この社の主はこの花月だからなぁ」
「あ、そっか……」
「花月は花月のままでいいです」
「花月ちゃんは花月ちゃんのままね! おっけー! そしたら巫女様はなんとお呼びすればいいですか?」
「結月でよいぞ、桜月。それか、聖帝としての名でもよい」
「えっと……なんだっけ?」
「結月様は聖帝セイティ・ムーン。花月は光帝ラミール・フルール。センチェルスさん曰く、花月も結月様も元の名前が魂名ネームになるそうで。あまり人に知られるのはよくないそうです」
「そうか。まぁ妾達の中でなら呼んでもさほど問題なかろう」
「じゃあ、三人の時は花月ちゃん、結月さんにするね!」

そうだなと頷き合うと花月は結月に姫はどうするんですか?と尋ねる。
結月は少し悩んだ後、そのうち自分に見合った人が現れれば考えると答えた。

「そのコーキセリアの新王曰く、しばらくは平穏に暮らせそうではないか。ならそう焦って探す必要もなかろう」
「そうですか」
「それになにかあればそなたらが守ってくれるだろう? なぁ? 花月、桜月?」
「まぁできる限りは」

殺されることもないだろうしと息をつき、花月は小さく頷く。
第二次天魔対戦まであと数か月。
戦争が始まれば無事では済まない。
ならばそれまでの間、彼が言うように自由に、平穏に日々を過ごしていこう。
残ったこの三人で。
誰にも邪魔されないように。
誰にも侵されないように。
この聖域を封じ、誰にも見つからぬように。
それが花月のささやかな願い。
巫女となった花月はその力で社を外界から隔離し、二度と人間たちの前に出現しないようにしてしまった。
花月の行ったその行為を結月と桜月は無意識に感じ、特に反論も何もすることはなく。
ただ、限られたその短いその自由な時間を三人は穏やかに過ごそうとそう誓いあった。
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