【GL】Fox Maiden-狐巫女の洗礼-

「これを聞いても貴女は私の誘いを断りますか?」
「一つ、聞いてもいいですか?」
「なんでしょう?」
「……桜月は元に戻りますか? 桜月はほんとはもっと喧しくて、鬱陶しいくらいで……。そんな、前の桜月に戻りますか?」
「貴女がそれを望むなら叶います」
「……わかりました。貴方の申し出、受け入れます」

好きにしてくださいと告げる花月にセンチェルスは羽ペンを取り出すとそこに“ラミール・フルール”と書き記すとそれを彼女に取り込まさせた。
特に彼女の何かが変わることもなくこれで終わりですか?と拍子抜けしたようにセンチェルスを見ていて。
彼はこれで終わりですと告げると姫契約の仕方を彼女に伝える。
それに従い花月は桜月を目の前に座らせると触れるだけのキスをする。
すると桜月の胸元にネモフィラの花を象った紋章が現れ、徐々に彼女の瞳に光りが戻り始めた。

「桜月……?」
「か、げつ……ちゃん……、あた、し……」
「桜月……!」

ぎゅっと抱き着くと桜月は徐々にその表情を変え、とても驚いたように花月を横目に見るとほんとに花月ちゃんなの!?と声を上げた。

「花月ちゃん!? え!? ほんとに花月ちゃん!? え!?」
「確かに喧しいですね……」
「え!? だれ!?」
「元に戻ってよかったです……、桜月……っ」
「え? あ、え? あたしどうにかなってたの?」

動揺する桜月にセンチェルスは自分の事と、花月自身がどうなったのかを説明する。
すると桜月はそっか……と落ち着いた様子を取り戻し、やっと彼に向き直った。

「それでえーっと、あたし、花月ちゃんの姫ってやつになったってこと?」
「はい。ついでに言うと彼女を時を得て貴女は生きています」
「え? それって花月ちゃんは大丈夫なの……?」
「大丈夫です。魔王となった花月は無敵ですから」
「そっか……」
「……あの、センチェルスさん。もう一つお願いしてもいいですか?」
「なんでしょうか?」
「……巫女様も……結月様もどうにかできませんか?」

そう言って花月は眠る狐をセンチェルスにそっと差し出す。
彼女の腕の中で安らかに眠る狐をそっと受け取るとその額に手を翳す。
微かに残る力にセンチェルスはすぐには無理そうですねと告げると羽ペンを手にし、空中にセイティ・ルナと記すと狐に取り込ませ彼女に返した。

「巫女様……」
「大丈夫ですよ。3日程度休ませておけば彼女も聖帝せいていとして目醒めるはずですから。そしたら貴女が教えてあげなさい。魔王としての役割を」
「わかりました。ありがとうございます、センチェルスさん」
「いいえ。では、その時が来たらお呼びしますので。それまではどうぞ、自由にお過ごしください」

失礼、とセンチェルスはぱちんと指を鳴らしその場から姿を消す。
残された花月はふぅと一息ついてから桜月に向き直り、もう大丈夫ですからと微笑みかける。
変わり果てたその姿を目にした桜月はなにかあったの……?と不安げに尋ねてきて。
花月はこの社で何があったのかを掻い摘んで話した。

「そっか……。それで花月ちゃんがこの社の巫女様になったんだね。あたしたちを守るために……」
「ここが花月の居場所ですから。それに花月が守れたのは結月様と桜月だけ。ほかの人達は守れませんでした。みんな、みんな消えてしまいました」
「花月ちゃん……」
「葉月も風月も守れませんでした。花月がもっと早く巫女になっていれば……」
「花月ちゃん、自分を責めないで? それに花月ちゃんはあたしを守ってくれた。ありがとう、花月ちゃん」

ありがとう、と抱きしめられて花月は桜月だけでも守れてよかったと呟く。
しばらくこれで平穏な日々が続けばいいと二人は静かな社の中、互いにそう願う他なかった。
23/24ページ
スキ