【GL】Fox Maiden-狐巫女の洗礼-
それから数日経ってやっと美月が目を覚まし、花月は今までの事、これからの事を話した。
巫女のこと、美月の身体のこと、そしてこれからどうしなくてはならないのかということ。
その全てを聞いても美月はなんであたしがと態度を改めることはなかった。
「ここは巫女様が治める土地。巫女様がいなくてはこの土地は滅びます」
「いいじゃない。こんな場所さっさと滅びればいいのよ」
「ダメです。ここは花月たちの居場所なのです」
「ここに執着する意味はないでしょ? 作ろうと思えばどこにだって居場所は作れるわ」
「いいえ。巫女様から洗礼を受けた花月たちはここ以外に居場所を作れません」
「どうしてよ」
「桜月たちはこの社があるからこの場所にいられるの」
どういうこと?と怪訝そうな顔をする美月に桜月は一呼吸おいて花月と風月以外の社の住人は社がなくなれば存在できないと話す。
「花月ちゃんと風月ちゃんはまだここに来たばかりだし、そんなに年月も経ってない。だから多分この社を出ても、この社がなくなってもきっと生きていける。でも桜月たちはここに長く居すぎた。だからこの社がなくなれば桜月たちは存在できないの」
「どうしますか、美月。貴女は巫女様を心底恨んでいた。憎んでいた。この社を壊すことなど今の美月からしたら造作もないこと。しかし壊せば皆死んでしまう。皆を死なせるか、この社で巫女様が目覚められるまでいてもらうか、選んでください」
花月は知っている。
美月が冷たそうに見えてもとても優しい人だということを。
目の前の罪もない人たちを見捨てることができないと。
だから選べると言っても彼女にはなにも選択肢はなかった。
美月は花月の思った通り後者を選ぶ。
巫女に恨みはあるが、ここにいる住人には恨みもなければ死なせていい理由にもならんないからと。
「それで? あたしになにしろっていうわけ?」
「美月には巫女様がそうしてきたように、巫女らしく振舞ってもらいます。花月と桜月はその手伝いをします」
「あたしにあんな悪趣味な役を演じろっていうの?」
「そうです。貴女にはその道しかありません。まぁ最悪しゃべらなくても花月たちが勝手に言います」
「そう。助かるわ。花月。それと、桜月っていったかしら」
「はい。桜月は桜月といいます。花月ちゃんのお世話係を主にさせてもらってます」
そう言って桜月は狐面を被ったまま美月に頭を下げる。
そんな桜月に美月は面を取って顔を見せてと命じ、彼女は巫女様が仰るならと恐る恐る狐面を外した。
「そういえば桜月たちはみんなどうして狐面を被っているのですか?」
「え? あー、なんでって言われたら確かに。みんな被ってるから流れで何となく、かな?」
「桜月は可愛いのにもったいないです」
「そうね。思ったより可愛らしい顔立ちじゃない。決めたわ。全員今日から面を外しなさい。どんな顔してんのかわからないんじゃ薄気味悪くてやってられないわ」
「巫女様がそう仰るのでしたら……」
「そうね。そうしてちょうだい」
嫌々ながらも美月は巫女としてここにいてくれるようでそれらしく振る舞い出す。
まずは面を外すように皆に通達をと花月は桜月に告げ手元に大量の紙を出現させる。
それは?と指差す美月に最初のお仕事ですと告げると手元の紙に先程の命令を念写してほしいと告げる。
念写の方法は簡単。
美月がこの紙の束に手を翳し、先程の命令をただ念じればいいと伝えると彼女はわかったと言われたとおりにする。
するとただの紙が勝手に宙を舞い、彼女の命令が勝手に書き込まれていきそれが再び花月の手元に纏まっていった。
「便利ね……」
「このくらい巫女様なら出来て当然です。桜月、これを皆に配ってくるですよ」
「りょーかいっ」
行ってきまーすと紙束を抱え出ていく桜月を見送り、二人きりになると扉を閉め、美月と向い合せになるように座る。
「美月、聞いてもいいですか」
「あたしで答えられれば」
「……エルラたちは逃げ延びてるんですか?」
「ええ、そうね。あたしははぐれたけど」
そうして美月は巫女に捕まるまでの事を掻い摘んで話してくれた。
最初はみんなで逃げていた美月たち。
けれど、今まで自分たちは力に頼って生きていたことを痛感し、次第にその関係はぎくしゃくしだしてしまったという。
そして、美月はみんなにあんたたちとは違うと言い放ち離れたところを巫女の刺客に捕らえられ現在に至るという。
「そうですか。妹の胡桃もエルラたちと一緒ですか?」
「ええ。あたし一人で抜けてきたから。でもまさかあたしがあの気色悪い狐巫女の娘とはね……。びっくりよ」
「美月は巫女様とどうして一緒じゃなかったですか?」
「知らない。物心ついたときからあたしは人間として育てられてきたんだもの」
「そうなんですね」
「あたしの子の姿見たら胡桃のやつ、びっくりするだろうな……」
「胡桃は巫女様の子供ではないのですか?」
「あの子は父の連れ子。あたしの父、再婚してるのよ」
これで合点がいったわ……とため息をつく美月に花月はみんなが無事だといいですねと告げるとその場を後にした。
巫女のこと、美月の身体のこと、そしてこれからどうしなくてはならないのかということ。
その全てを聞いても美月はなんであたしがと態度を改めることはなかった。
「ここは巫女様が治める土地。巫女様がいなくてはこの土地は滅びます」
「いいじゃない。こんな場所さっさと滅びればいいのよ」
「ダメです。ここは花月たちの居場所なのです」
「ここに執着する意味はないでしょ? 作ろうと思えばどこにだって居場所は作れるわ」
「いいえ。巫女様から洗礼を受けた花月たちはここ以外に居場所を作れません」
「どうしてよ」
「桜月たちはこの社があるからこの場所にいられるの」
どういうこと?と怪訝そうな顔をする美月に桜月は一呼吸おいて花月と風月以外の社の住人は社がなくなれば存在できないと話す。
「花月ちゃんと風月ちゃんはまだここに来たばかりだし、そんなに年月も経ってない。だから多分この社を出ても、この社がなくなってもきっと生きていける。でも桜月たちはここに長く居すぎた。だからこの社がなくなれば桜月たちは存在できないの」
「どうしますか、美月。貴女は巫女様を心底恨んでいた。憎んでいた。この社を壊すことなど今の美月からしたら造作もないこと。しかし壊せば皆死んでしまう。皆を死なせるか、この社で巫女様が目覚められるまでいてもらうか、選んでください」
花月は知っている。
美月が冷たそうに見えてもとても優しい人だということを。
目の前の罪もない人たちを見捨てることができないと。
だから選べると言っても彼女にはなにも選択肢はなかった。
美月は花月の思った通り後者を選ぶ。
巫女に恨みはあるが、ここにいる住人には恨みもなければ死なせていい理由にもならんないからと。
「それで? あたしになにしろっていうわけ?」
「美月には巫女様がそうしてきたように、巫女らしく振舞ってもらいます。花月と桜月はその手伝いをします」
「あたしにあんな悪趣味な役を演じろっていうの?」
「そうです。貴女にはその道しかありません。まぁ最悪しゃべらなくても花月たちが勝手に言います」
「そう。助かるわ。花月。それと、桜月っていったかしら」
「はい。桜月は桜月といいます。花月ちゃんのお世話係を主にさせてもらってます」
そう言って桜月は狐面を被ったまま美月に頭を下げる。
そんな桜月に美月は面を取って顔を見せてと命じ、彼女は巫女様が仰るならと恐る恐る狐面を外した。
「そういえば桜月たちはみんなどうして狐面を被っているのですか?」
「え? あー、なんでって言われたら確かに。みんな被ってるから流れで何となく、かな?」
「桜月は可愛いのにもったいないです」
「そうね。思ったより可愛らしい顔立ちじゃない。決めたわ。全員今日から面を外しなさい。どんな顔してんのかわからないんじゃ薄気味悪くてやってられないわ」
「巫女様がそう仰るのでしたら……」
「そうね。そうしてちょうだい」
嫌々ながらも美月は巫女としてここにいてくれるようでそれらしく振る舞い出す。
まずは面を外すように皆に通達をと花月は桜月に告げ手元に大量の紙を出現させる。
それは?と指差す美月に最初のお仕事ですと告げると手元の紙に先程の命令を念写してほしいと告げる。
念写の方法は簡単。
美月がこの紙の束に手を翳し、先程の命令をただ念じればいいと伝えると彼女はわかったと言われたとおりにする。
するとただの紙が勝手に宙を舞い、彼女の命令が勝手に書き込まれていきそれが再び花月の手元に纏まっていった。
「便利ね……」
「このくらい巫女様なら出来て当然です。桜月、これを皆に配ってくるですよ」
「りょーかいっ」
行ってきまーすと紙束を抱え出ていく桜月を見送り、二人きりになると扉を閉め、美月と向い合せになるように座る。
「美月、聞いてもいいですか」
「あたしで答えられれば」
「……エルラたちは逃げ延びてるんですか?」
「ええ、そうね。あたしははぐれたけど」
そうして美月は巫女に捕まるまでの事を掻い摘んで話してくれた。
最初はみんなで逃げていた美月たち。
けれど、今まで自分たちは力に頼って生きていたことを痛感し、次第にその関係はぎくしゃくしだしてしまったという。
そして、美月はみんなにあんたたちとは違うと言い放ち離れたところを巫女の刺客に捕らえられ現在に至るという。
「そうですか。妹の胡桃もエルラたちと一緒ですか?」
「ええ。あたし一人で抜けてきたから。でもまさかあたしがあの気色悪い狐巫女の娘とはね……。びっくりよ」
「美月は巫女様とどうして一緒じゃなかったですか?」
「知らない。物心ついたときからあたしは人間として育てられてきたんだもの」
「そうなんですね」
「あたしの子の姿見たら胡桃のやつ、びっくりするだろうな……」
「胡桃は巫女様の子供ではないのですか?」
「あの子は父の連れ子。あたしの父、再婚してるのよ」
これで合点がいったわ……とため息をつく美月に花月はみんなが無事だといいですねと告げるとその場を後にした。