【GL】Fox Maiden-狐巫女の洗礼-

その道中、そういえば葉月に添い寝してもらうのわすれたと思い出し自分の部屋にいたら可哀想かと思った花月はまずは自分に用意された部屋へと向かった。

「……ここ、花月の部屋なのですが」

そこには自分のベッドで眠る桜月と葉月の姿があった。
抱き合い眠っている桜月たちを起こそうとかけていた布団をえいっと剥がした。
するとそこには一糸纏わぬ姿があって花月はあーと剥がした布団を雑に戻し二人が起きるのを待った。
暫くしてやっと起きた二人に花月はここは花月の部屋ですがと告げた。

「ご、ごめんね!! 花月ちゃん!」
「ほらー、桜月が無理矢理来るから花月ちゃん怒ったじゃんー」
「は、葉月だってあたしを引きずり込んだくせに!」
「どうでもいいですが、二人ともそんな格好で寒くないですか?」
「「え?」」

花月に言われ二人は自分たちがどんな格好をしていたかを思い出し慌ててベッドの下に落ちている服を身に着け、彼女の前に座った。

「ご、ごめんね? びっくりしたよね?」
「別に驚きませんけど、花月も巫女様にされましたし」
「あ、花月ちゃん巫女様の洗礼受けてたんだ! 道理でこないわけだ」
「えーん! 言ってよおお! 私ずっと待ってたんだよー!」
「すみません。葉月。それと桜月。花月に薙刀の使い方を教えてください。巫女様から桜月に教われと言われました」
「え? あたしに? じゃあ花月ちゃんも薙刀なんだ!」

も?と小首を傾げていると桜月がスッと立ち上がり出てきて!と叫ぶと彼女の手元に桜の花がついた薙刀が出てくる。
それを見て葉月はいいなぁと落胆した様子を見せた。

「葉月はどれなのですか?」
「私は弓なの。いいなぁー桜月ばっかずるーい」
「仕方ないでしょ? こればっかりは素質によるんだから。じゃあ花月ちゃん! 薙刀の使い方教えてあげるからお庭にいこっか!」
「はい。……葉月も来ますか?」
「もちろん! 桜月にばっか花月ちゃん独占させないもん!」

行こう行こうと二人に引っ張られ花月は社の裏庭に向かう。
そうして花月は桜月に薙刀の使い方を見せてもらいながら教わる。
縁側で葉月ががんばれがんばれーと茶々を入れているが花月は至って真剣で。
小さな体で何度も何度も身の丈ほどある薙刀を振るう。
けれど体力のない花月は数振りでバテてしまいまずは体力づくりからかなと桜月に言われてしまう。

「花月ちゃんはちっちゃいからねぇ。腕も細いし」
「全体的に細いもんねー。とりあえずこれ以上は厳しそうだし、お部屋行こっか?」
「そーねー。私達今日見周り当番だし」
「見周りとは、なんですか?」
「あー、そっか。花月ちゃんは巫女様の巫女使いだから役割ないんだっけ? 何日かに一回、この社の周りの見周り当番が来るの。今日はあたしと葉月が当番ってわけ」

仲の良さそうな二人を目の前に花月は少しムッとしてくるっと背を向けると一人で帰れますと歩き出す。
その様子に驚いた二人は慌てて駆け寄ってくるとどうしたの?と声をかけてきた。
それでも花月はすたすたと足早に自分の部屋に戻るとばたんと扉を締め、鍵をかけた。

「花月ちゃん! 花月ちゃん! ねぇ、どうしたの!?」
「葉月も桜月ももう知らないです。花月は一人で全部できます。二人は二人でどこへでも行けばいいです」

扉越しに聞こえる二人の声に花月はそう答えると部屋の布団の中にひきこもった。
暫くして扉の外が静かになったころを見計らってゆっくりと布団から出てくるとふぅ……と深く息をつく。
そして両手を握ったり開いたりしながら花月は考える。
自分はここに“いる”だけで、何も知らないと。
みんな自分を巫女様の巫女使いだと言う。
けれど、巫女使いの役目のことなんて誰も教えてくれない。
せっかく手に入れた力も使い方がわからない。
何もかも、わからない。
それがとても悔しかった。
悔しくて、悔しくて、何でも知ってる二人が妬ましかった。
花月の心にふっと生まれた感情はそういったもので、どうしたらいいかなんて花月自身にわかるはずもなく。
とりあえず手に入れた力をまずは使いこなそうと立ち上がると部屋を出て裏庭へと向かう。

「巫女使い花月の名の元顕現せよ」

右手を前に突き出してそう唱えると先程のように薙刀が出てくる。
花月はそれをしっかりと握り桜月に言われた通り振るい始める。
何度も何度も、自分の体力のことなど気にすることもなく。
昼夜も問わず振り続ける。
心配して声をかけてくる桜月と葉月には目もくれず。
強くなればきっと、自分にも色々教えてくれる日がくるはず。
教えてくれないのは自分が弱いから。
そう考え、花月は休むことなく鍛錬を続けた。
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