【ルミ敵堕ち編】絶望の果てに、世界で一番甘い奇跡を

薄暗い部屋の片隅、滴り落ちる水滴の音だけが、不規則に時を刻んでいた。
どれほどの時間が流れたのか、今のルミにはもう分からなかった。
数日なのか、あるいは数週間が経ってしまったのか。
窓のない地下室の冷気は、彼の体温だけでなく、時間の手応えすらも奪い去っていく。
カラン、と無機質な金属音が響き、再び重い扉が開いた。

「さあ、今日の『調整』を始めようか」

白衣をまとった男――オズワルドが、歪んだ笑みを浮かべて現れる。
彼はかつて他国で禁忌とされた生体魔導研究の第一人者であり、レイストール王国への復讐と、自らの研究の完成のために今回の計画を企てた張本人だった。
ルミの身体は、幾重もの太い鎖で魔導式の実践台に拘束されていた。
オズワルドが狙っているのは、ルミをただの人質として扱うことだけではない。
ルミの体内に眠る、世界を更地にするほどの純粋で強大な「闇魔法」の出力を強制的に引き上げ、自らの手で制御できる絶大なる兵器へと作り変えるための実験を繰り返していた。

「ひ、ぐ……っ、あ、……ぁあああっ!」

オズワルドが制御盤のレバーを引くと、ルミの首輪を通じて、精神を直接抉るような忌まわしい魔力が体内に流し込まれる。
それは、ルミの奥底に眠る闇の魔力を無理やり呼び覚まし、暴走させるための引き金だった。
体内の魔力が悲鳴を上げ、神経を一本ずつ焼き切るような激痛がルミを襲う。
水色の髪が狂ったように揺れ、可憐な顔が苦痛に歪んだ。

「素晴らしい……! 実に素晴らしいぞ! 人為的に恐怖と苦痛を植え付けることで、これほどまでに闇の純度が高まるとは!」

オズワルドは、実践台の傍らに設置された魔力測定器の数値が跳ね上がるのを見て、狂喜乱舞した。
苦しむルミの姿など、彼の目にはただの極上のデータにしか映っていない。

「もっとだ、もっと絶望しろ! お前の中の闇をすべて引きずり出し、我が最高傑作の兵器となれ! そうすれば、あの傲慢なアルヴィーノ・レイストールとやらも、自らの伴侶の手によって無残に滅びることになるのだからな!」
「あ、あ、……アル、ヴィーノ……、助け……て……」

狂った笑い声と激痛の嵐の中で、ルミはただ、心の奥底にある唯一の光を消さないよう、必死にその名を呼び続けていた。
しかし、その声は掠れた吐息となって、冷たい空間に虚しく消えていくのだった。
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