【リリィ聖女編】祈りの果てに、聖女の葬送を
そして、最終的な判決を下す日。
王城の大広間に、連行されたヴェルナの住民たちが集められた。壇上には国王アルフレッドが、その傍らにはアルヴィーノが立ち、静寂が集まりを支配していた。
アルフレッドは静かに立ち上がり、眼下に集まる住民たちを見渡した。
「ヴェルナの民よ。君たちが犯した罪についての調査は、すべて完了した」
アルフレッドの声は温厚であったが、そこには揺らぎない国王としての威厳が満ちていた。
「君たちが置かれていた環境の過酷さ、飢えと不作による絶望は理解している。しかし、一人の無垢な少女を拐い、その尊厳と心を奪い、虚構の希望のために犠牲にすることは、いかなる理由があろうとも許されることではない」
住民たちが身を縮め、悲痛な息を吐く。
「判決を言い渡す。不法な連行に直接加担し、王権に対する反逆を承知の上で長の指示に従っていた重罪者たち――彼らには、王国の最果てにある鉱山および開拓地での終身重労働を科す。君たちの身勝手な過ちは、今後の労働をもって王国と被害者へ償ってもらう」
罪の深い者たちが、崩れ落ちるように泣き伏した。だが、死刑を免れたことに対する安堵の混ざった涙でもあった。
「次に、真相を知りながら偽装に協力していた者たちには、数年間の強制奉仕刑と罰金を科す。……そして、何も知らされず、ただ伝承を信じて縋っていただけの者たちについてだが」
アルフレッドは言葉を切り、柔らかく、けれど厳しく語りかけた。
「君たちには、罰は科さない。……ただし、ヴェルナの集落は解体する」
広場に動揺のざわめきが広がった。
「あの秘境で隔離されたままでは、再び同じような狂信と悲劇が繰り返される。君たちは王国の定める別の領地へと分散して移住させ、通常の領民として一から生活をやり直してもらう。王国の法を守り、自らの手で正しく畑を耕し、正当な生を送ることを命じる」
ただ命を奪うのではなく、罪の重さに応じた厳格な処罰と、集落という狂信の土壌そのものを解体する抜本的な解決。
それは、現実を正しく理解し、対話と平和を重んじるアルフレッドならではの、毅然とした決断であった。
住民たちは土に伏せ、涙を流しながら国王の慈悲と厳格な裁きを受け入れた。
「……マリア」
最後に、アルフレッドはマリアへと視線を向けた。
「君の罪は重労働刑に相当するが、自らの身を比して真実を告発し、リリィさんを救うきっかけを作った功績を考慮し、特別に減刑する。君には、移住する住民たちの生活を支え、二度とこのような過ちを犯さぬよう彼らを導く役目を命じる。生きて、その生涯をかけて贖罪を果たしなさい」
「……は……っ……ありがとうございます……陛下……っ……!」
マリアは石畳に額を擦り付け、感謝と悔恨の涙を溢れさせた。
こうして、ヴェルナの集落を巡る悲劇と欺瞞の物語は、完璧な裁きとともに幕を閉じた。
狂信の地は解体され、罪人は裁かれ、知らぬ者は散らされ、二度と「聖女アナスタシア」という虚構が誰かを苦しめることはなくなったのだ。
王城の深遠な庭園を望む部屋で、レオは眠りから覚めたリリィと静かに向かい合っていた。
窓から差し込む温かな木漏れ日が、彼女の美しい白銀の髪を柔らかく照らしている。リリィの紅玉の瞳には、かつて宿っていた冷たい虚無の影など欠片もなく、ただ穏やかで満ち足りた光だけが漂っていた。
「レオ様。……あの方たちは、どうなられたのですか?」
リリィはふと思い出したように、小さな声で尋ねた。彼女の記憶の中では、自分が仕事中に少しの間囚われ、レオに助け出されたという認識になっている。
「ええ。父上と叔父上が、正しく処分を決めてくださいましたよ」
レオは心底優しげな微笑みを浮かべ、彼女の華奢な手をそっと両手で包み込んだ。
「二度と貴方に悲しい思いをさせることのないよう、すべて解決いたしました。ですから……貴方はもう、何も心配する必要はありません」
「……はい。レオ様がそうおっしゃるなら、安心です」
リリィは可憐に頬を緩め、レオの手のひらに自分の頬をそっと寄せてすり寄せた。
「……わたし、レオ様が助けに来てくださったとき、本当に嬉しかったんです。ずっと、ずっと……会いたかったから」
「私もですよ、リリィ。一刻たりとも、貴方のことを忘れたことなどありませんでした」
レオは彼女の額にそっと唇を寄せ、深く、過保護なまでの愛おしさを込めて抱き締めた。
書き換えられた記憶、消し去られた絶望、そして果たされた絶対的な裁き。
すべての障害は取り払われ、二人の間にある絆は、以前にも増して固く、温かなものとして結び直されていた。
温かな光が満ちる部屋の中で、リリィは愛する人の胸に顔を埋め、静かに目を閉じる。そこにはもう、偽りの聖女も、冷たい雪も存在しない。ただ二人だけの、永遠に続く穏やかな日常が戻ってきたのだった。
王城の大広間に、連行されたヴェルナの住民たちが集められた。壇上には国王アルフレッドが、その傍らにはアルヴィーノが立ち、静寂が集まりを支配していた。
アルフレッドは静かに立ち上がり、眼下に集まる住民たちを見渡した。
「ヴェルナの民よ。君たちが犯した罪についての調査は、すべて完了した」
アルフレッドの声は温厚であったが、そこには揺らぎない国王としての威厳が満ちていた。
「君たちが置かれていた環境の過酷さ、飢えと不作による絶望は理解している。しかし、一人の無垢な少女を拐い、その尊厳と心を奪い、虚構の希望のために犠牲にすることは、いかなる理由があろうとも許されることではない」
住民たちが身を縮め、悲痛な息を吐く。
「判決を言い渡す。不法な連行に直接加担し、王権に対する反逆を承知の上で長の指示に従っていた重罪者たち――彼らには、王国の最果てにある鉱山および開拓地での終身重労働を科す。君たちの身勝手な過ちは、今後の労働をもって王国と被害者へ償ってもらう」
罪の深い者たちが、崩れ落ちるように泣き伏した。だが、死刑を免れたことに対する安堵の混ざった涙でもあった。
「次に、真相を知りながら偽装に協力していた者たちには、数年間の強制奉仕刑と罰金を科す。……そして、何も知らされず、ただ伝承を信じて縋っていただけの者たちについてだが」
アルフレッドは言葉を切り、柔らかく、けれど厳しく語りかけた。
「君たちには、罰は科さない。……ただし、ヴェルナの集落は解体する」
広場に動揺のざわめきが広がった。
「あの秘境で隔離されたままでは、再び同じような狂信と悲劇が繰り返される。君たちは王国の定める別の領地へと分散して移住させ、通常の領民として一から生活をやり直してもらう。王国の法を守り、自らの手で正しく畑を耕し、正当な生を送ることを命じる」
ただ命を奪うのではなく、罪の重さに応じた厳格な処罰と、集落という狂信の土壌そのものを解体する抜本的な解決。
それは、現実を正しく理解し、対話と平和を重んじるアルフレッドならではの、毅然とした決断であった。
住民たちは土に伏せ、涙を流しながら国王の慈悲と厳格な裁きを受け入れた。
「……マリア」
最後に、アルフレッドはマリアへと視線を向けた。
「君の罪は重労働刑に相当するが、自らの身を比して真実を告発し、リリィさんを救うきっかけを作った功績を考慮し、特別に減刑する。君には、移住する住民たちの生活を支え、二度とこのような過ちを犯さぬよう彼らを導く役目を命じる。生きて、その生涯をかけて贖罪を果たしなさい」
「……は……っ……ありがとうございます……陛下……っ……!」
マリアは石畳に額を擦り付け、感謝と悔恨の涙を溢れさせた。
こうして、ヴェルナの集落を巡る悲劇と欺瞞の物語は、完璧な裁きとともに幕を閉じた。
狂信の地は解体され、罪人は裁かれ、知らぬ者は散らされ、二度と「聖女アナスタシア」という虚構が誰かを苦しめることはなくなったのだ。
王城の深遠な庭園を望む部屋で、レオは眠りから覚めたリリィと静かに向かい合っていた。
窓から差し込む温かな木漏れ日が、彼女の美しい白銀の髪を柔らかく照らしている。リリィの紅玉の瞳には、かつて宿っていた冷たい虚無の影など欠片もなく、ただ穏やかで満ち足りた光だけが漂っていた。
「レオ様。……あの方たちは、どうなられたのですか?」
リリィはふと思い出したように、小さな声で尋ねた。彼女の記憶の中では、自分が仕事中に少しの間囚われ、レオに助け出されたという認識になっている。
「ええ。父上と叔父上が、正しく処分を決めてくださいましたよ」
レオは心底優しげな微笑みを浮かべ、彼女の華奢な手をそっと両手で包み込んだ。
「二度と貴方に悲しい思いをさせることのないよう、すべて解決いたしました。ですから……貴方はもう、何も心配する必要はありません」
「……はい。レオ様がそうおっしゃるなら、安心です」
リリィは可憐に頬を緩め、レオの手のひらに自分の頬をそっと寄せてすり寄せた。
「……わたし、レオ様が助けに来てくださったとき、本当に嬉しかったんです。ずっと、ずっと……会いたかったから」
「私もですよ、リリィ。一刻たりとも、貴方のことを忘れたことなどありませんでした」
レオは彼女の額にそっと唇を寄せ、深く、過保護なまでの愛おしさを込めて抱き締めた。
書き換えられた記憶、消し去られた絶望、そして果たされた絶対的な裁き。
すべての障害は取り払われ、二人の間にある絆は、以前にも増して固く、温かなものとして結び直されていた。
温かな光が満ちる部屋の中で、リリィは愛する人の胸に顔を埋め、静かに目を閉じる。そこにはもう、偽りの聖女も、冷たい雪も存在しない。ただ二人だけの、永遠に続く穏やかな日常が戻ってきたのだった。