【ルミ敵堕ち編】絶望の果てに、世界で一番甘い奇跡を
色とりどりの天幕が並び、活気あふれる声が飛び交うレイストール王国の城下町。
いつもなら見慣れない大人の足音や雑踏の喧騒に怯えてしまうリリィだったが、今は不思議と、その赤い瞳に恐怖の色はなかった。ぎゅっと握られたルミの手が、まるで強固な結界のように自分をすべての悪意から守ってくれているのを感じるからだ。
「ほらリリィちゃん、見て! ここのお店のイチゴ、すっごく赤くて大きいよ! タルトの上に並べたら絶対に可愛いよね!」
白いロリータ服を軽やかに揺らし、ルミは果物屋の店先で目を輝かせた。従者モードの冷徹さはどこへやら、今の彼は完全に「アルヴィーノの大好きな男の娘」であり、リリィを優しく引っ張る頼もしいお兄ちゃんだった。
「あれがいいかなー、これがいいかなー……。あ、アルヴィーノはあんまり甘すぎるのは得意じゃないから、こっちの少し酸味があるベリーも混ぜた方が喜ぶかも! レオはどんなのが好きなの? やっぱりリリィちゃんが選んだものなら、何でも喜びそうだけど!」
「え……、れ、レオ様は……」
ルミに「レオ」の名を呼ばれ、リリィは少し頬を染めながら、一生懸命に記憶を辿った。
いつも自分を甘やかし、美味しいものを食べさせてくれる優しくて、少し強引な彼の笑顔が浮かぶ。
「レオ様……あかい、くだもの、すきです……。わたしが、美味しいって、たべたもの……いつも、うれしそうに、見て、くれます……」
「あはは! わかりやすーい! じゃあやっぱり、この真っ赤なイチゴは絶対に買わなきゃだね」
ルミが店主にお金を払い、手際よく籠に果物を詰めていく。その楽しげな様子につられるように、リリィの心もいつの間にか、お買い物のわくわくした高揚感に包まれていた。
次に二人が向かったのは、タルトの土台に使うビスケットを扱う粉物屋だった。
香ばしい小麦とバターの香りが、あたり一面に漂っている。
「タルトの生地はサクサクのビスケットを砕いて作ろうと思って。リリィちゃん、どれがいいと思う?」
ルミに聞かれ、リリィはおずおずと、けれどもしっかりと棚に並んだ茶色い焼き菓子たちを見つめた。
長く白亜の塔に幽閉されていた彼女にとって、自分で何かを選ぶということは、レオと出会うまで知らなかった「特別な自由」だった。
「あの……ルミさま」
リリィはそっと、少し厚みのある、バターの香りがひときわ強いビスケットを指さした。
「あれ、はどうでしょうか……。サクサクして、とっても、あまくて……。レオ様も、アルヴィーノ様も……お外で、たくさん、動いたから……あまいもの、元気、出ると、おもいます……」
「わぁ、リリィちゃん大正解! それ、すっごく美味しそう! 二人ともお仕事のあとは魔力をたくさん使うからね。よし、これに決まり!」
ルミはリリィの頭を優しく撫でると、嬉しそうにそのビスケットを買い求めた。
「……ふふ」
自分の選んだものをルミが褒めてくれたことが嬉しくて、リリィの唇から、小さく可憐な笑みがあふれる。
国境で二人の策士がどれほど冷酷に敵を解体しているかなど、今の二人の頭にはない。
ただ、大好きな人たちの喜ぶ顔を思い浮かべながら、籠いっぱいに甘い材料を詰め込んでいく城下町のひとときは、残酷なほどに平和で、そして最高に愛らしい作戦会議の時間だった。
籠いっぱいに詰め込まれた、真っ赤なイチゴと香ばしいビスケット。
それらを交互に持ちながら、ルミとリリィは城下町の賑やかな大通りを、楽しげに歩いていた。
「お城に戻ったら、さっそくイチゴを綺麗に洗わなきゃね。リリィちゃん、お手伝いしてくれる?」
「はい……! ルミ様、わたし、いっしょうけんめい、洗います……」
リリィの赤い瞳には、先ほどまでの不安はすっかり消え失せ、大好きなレオ様のために美味しいタルトを作るのだという、小さな決意と喜びが灯っていた。
だがそんな二人を、大通りの喧騒に紛れた細い路地の陰から、じっと見つめる、どす黒い視線が存在していた。
くすんだ外套のフードを深く被った数人の男たち。
その眼光は、平和に慣れきった一般の買い物客のそれとは明らかに異なり、血と硝煙の匂いを纏っている。
彼らは民衆の影に身を潜めながら、ルミの艶やかな水色の長髪と、その隣にいる白髪の少女へと視線を固定していた。
「……おい、間違いない。あれが例の『第二王子の懐刀』だ」
「水色の髪に白いロリータ服、あの可憐なガキが、戦場を笑顔で灰にするっていう闇魔法の化物か……」
男たちは押し殺した声で囁き合う。
彼らは、アルヴィーノとレオが今まさに国境へ向かったことを受け、手薄になった王都で「お荷物」を狙おうと潜入した、敵国の生き残りの工作員たちだった。
「隣の白髪の娘は、騎士団長が囲っている隣国の元姫だな。好都合だ。あの魔王の番 と、騎士団長の女を同時に始末するか、あるいは人質にできれば――」
男たちの手が、外套の内側に隠された毒刃へと、音もなく伸びる。
ルミとリリィは、まだその執拗で悪意に満ちた視線には気づいていない。楽しそうに次の露店を眺めながら、歩みを進めている。
もちろん、国境へと出陣していったアルヴィーノも、レオも、ここには来ない。
彼らは今この瞬間、遠く離れた戦場で、迫り来る敵の軍勢を一寸の容赦もなく「更地」にするための冷酷な指揮を執っている最中なのだから。
絶対的な二人の守護者が不在の城下町。
お買い物を楽しむ二人の背後に、音もなく、静かに不穏な影がにじり寄ろうとしていた。
「……ふふ、リリィちゃん、本当に楽しみだね。レオもアルヴィーノも、びっくりするかなぁ」
「はい……っ、きっと、とっても、喜んでくれます……!」
籠の中に収まった、真っ赤なイチゴと香ばしいビスケット。
恙無く買い物を終えた二人は、大好きな人たちの喜ぶ顔を思い浮かべながら、幸せな余韻の中で笑い合っていた。
どこからどう見ても、それは平和そのものの光景だった。
だが、その刹那――。
楽しげな民衆の喧騒を引き裂くように、二人の背後から、陽光さえも凍りつくような冷たい【昏い影】が急速に忍び寄ってきた。
「――っ!?」
天真爛漫に笑っていたルミの、高い魔力特有の鋭い野生の直感が、その禍々しい殺気をいち早く察知した。
振り返る時間すら惜しかった。
男たちの手が伸びるよりも早く、ルミは自らの身体を投げ出すようにして、隣にいたリリィの細い身体を思い切り突き飛ばした。
「リリィちゃん……っ!」
「あ……っ!?」
突き飛ばされたリリィが石畳の上にしりもちをつくのと同時に、昏い外套を纏った男たちの腕が、背後からガチリとルミの細い身体を強固に捕らえた。
「捕まえたぞ……! まずは一匹だ!」
「ル、ルミ様……っ!?」
何が起きたのか分からず、驚愕に赤い瞳を見開いたリリィが、必死にルミへと白く細い手を伸ばす。
しかし、男たちの凶刃と獰猛な視線は、すでにそのリリィをも捕らえようと迫っていた。
自分が捕まった絶望の最中、ルミの脳裏に浮かんだのは、アルヴィーノと交わしたあの「暗黙のルール」だった。
『アルヴィーノとレオが不在の時は、何があってもルミがリリィを守る』
「――リリィちゃん、駄目、来ちゃダメ!! 早く逃げてっ……!!! 早くっ!!!」
引き裂かれるようなルミの叫び声が、城下町の路地に響き渡る。
その鋭い怒号と、今にも自分を汚い手で捕らえようと迫ってくる男たちの狂気に、幽閉されていた頃の恐怖がリリィの脳裏をよぎった。
ガタガタと全身を震わせながら、リリィは恐怖に突き動かされるようにして、涙で視界を滲ませながら、必死にその場から走り出した。
レオの上着を抱きしめ、ただ無我夢中で、王宮の方へと逃げていく。
「チッ、白髪の娘を取り逃がしたか……! 追うか!?」
「いや、いい! 時間がない、この街の衛兵が集まってくる前にずらかるぞ。こいつが『魔王の伴侶』なら、人質としてはお釣りがくる!」
「放せっ……! 放せ、このっ……! 『深淵より――』」
捕らえられたルミは、怒りに瞳を燃え上がらせて闇魔法の詠唱を始めようとした。
しかし、敵も百戦錬磨の工作員だった。
魔法を発動させる隙を与えるよりも早く、男の一人がルミの背後から、特殊な薬品の染み込んだ布をその小さな口元へと強く押し当てた。
「んむっ……、う、あ…………」
鼻腔を突く刺激臭とともに、ルミの視界が急速に暗転していく。
どんなに抗おうとしても、身体から力が抜け、高かったはずの魔力の灯火が、意識の底へと沈んでいく。
カラン、と音を立てて、二人の大切な材料が詰まった籠が石畳の上に転がり、真っ赤なイチゴが地面に散らばった。
完全に意識を失い、ぐったりと項垂れたルミを、男たちは手際よく大きな袋へと押し込んでいく。
「仕方ない、今回はこのガキ一人だけだ。急げ!」
男たちはルミの身柄を隠すと、民衆の混乱に紛れ、影が溶けるようにして一瞬でその姿を消し去った。
あとに残されたのは、踏み潰されたビスケットと、無残に散らばった果物だけだった。
いつもなら見慣れない大人の足音や雑踏の喧騒に怯えてしまうリリィだったが、今は不思議と、その赤い瞳に恐怖の色はなかった。ぎゅっと握られたルミの手が、まるで強固な結界のように自分をすべての悪意から守ってくれているのを感じるからだ。
「ほらリリィちゃん、見て! ここのお店のイチゴ、すっごく赤くて大きいよ! タルトの上に並べたら絶対に可愛いよね!」
白いロリータ服を軽やかに揺らし、ルミは果物屋の店先で目を輝かせた。従者モードの冷徹さはどこへやら、今の彼は完全に「アルヴィーノの大好きな男の娘」であり、リリィを優しく引っ張る頼もしいお兄ちゃんだった。
「あれがいいかなー、これがいいかなー……。あ、アルヴィーノはあんまり甘すぎるのは得意じゃないから、こっちの少し酸味があるベリーも混ぜた方が喜ぶかも! レオはどんなのが好きなの? やっぱりリリィちゃんが選んだものなら、何でも喜びそうだけど!」
「え……、れ、レオ様は……」
ルミに「レオ」の名を呼ばれ、リリィは少し頬を染めながら、一生懸命に記憶を辿った。
いつも自分を甘やかし、美味しいものを食べさせてくれる優しくて、少し強引な彼の笑顔が浮かぶ。
「レオ様……あかい、くだもの、すきです……。わたしが、美味しいって、たべたもの……いつも、うれしそうに、見て、くれます……」
「あはは! わかりやすーい! じゃあやっぱり、この真っ赤なイチゴは絶対に買わなきゃだね」
ルミが店主にお金を払い、手際よく籠に果物を詰めていく。その楽しげな様子につられるように、リリィの心もいつの間にか、お買い物のわくわくした高揚感に包まれていた。
次に二人が向かったのは、タルトの土台に使うビスケットを扱う粉物屋だった。
香ばしい小麦とバターの香りが、あたり一面に漂っている。
「タルトの生地はサクサクのビスケットを砕いて作ろうと思って。リリィちゃん、どれがいいと思う?」
ルミに聞かれ、リリィはおずおずと、けれどもしっかりと棚に並んだ茶色い焼き菓子たちを見つめた。
長く白亜の塔に幽閉されていた彼女にとって、自分で何かを選ぶということは、レオと出会うまで知らなかった「特別な自由」だった。
「あの……ルミさま」
リリィはそっと、少し厚みのある、バターの香りがひときわ強いビスケットを指さした。
「あれ、はどうでしょうか……。サクサクして、とっても、あまくて……。レオ様も、アルヴィーノ様も……お外で、たくさん、動いたから……あまいもの、元気、出ると、おもいます……」
「わぁ、リリィちゃん大正解! それ、すっごく美味しそう! 二人ともお仕事のあとは魔力をたくさん使うからね。よし、これに決まり!」
ルミはリリィの頭を優しく撫でると、嬉しそうにそのビスケットを買い求めた。
「……ふふ」
自分の選んだものをルミが褒めてくれたことが嬉しくて、リリィの唇から、小さく可憐な笑みがあふれる。
国境で二人の策士がどれほど冷酷に敵を解体しているかなど、今の二人の頭にはない。
ただ、大好きな人たちの喜ぶ顔を思い浮かべながら、籠いっぱいに甘い材料を詰め込んでいく城下町のひとときは、残酷なほどに平和で、そして最高に愛らしい作戦会議の時間だった。
籠いっぱいに詰め込まれた、真っ赤なイチゴと香ばしいビスケット。
それらを交互に持ちながら、ルミとリリィは城下町の賑やかな大通りを、楽しげに歩いていた。
「お城に戻ったら、さっそくイチゴを綺麗に洗わなきゃね。リリィちゃん、お手伝いしてくれる?」
「はい……! ルミ様、わたし、いっしょうけんめい、洗います……」
リリィの赤い瞳には、先ほどまでの不安はすっかり消え失せ、大好きなレオ様のために美味しいタルトを作るのだという、小さな決意と喜びが灯っていた。
だがそんな二人を、大通りの喧騒に紛れた細い路地の陰から、じっと見つめる、どす黒い視線が存在していた。
くすんだ外套のフードを深く被った数人の男たち。
その眼光は、平和に慣れきった一般の買い物客のそれとは明らかに異なり、血と硝煙の匂いを纏っている。
彼らは民衆の影に身を潜めながら、ルミの艶やかな水色の長髪と、その隣にいる白髪の少女へと視線を固定していた。
「……おい、間違いない。あれが例の『第二王子の懐刀』だ」
「水色の髪に白いロリータ服、あの可憐なガキが、戦場を笑顔で灰にするっていう闇魔法の化物か……」
男たちは押し殺した声で囁き合う。
彼らは、アルヴィーノとレオが今まさに国境へ向かったことを受け、手薄になった王都で「お荷物」を狙おうと潜入した、敵国の生き残りの工作員たちだった。
「隣の白髪の娘は、騎士団長が囲っている隣国の元姫だな。好都合だ。あの魔王の
男たちの手が、外套の内側に隠された毒刃へと、音もなく伸びる。
ルミとリリィは、まだその執拗で悪意に満ちた視線には気づいていない。楽しそうに次の露店を眺めながら、歩みを進めている。
もちろん、国境へと出陣していったアルヴィーノも、レオも、ここには来ない。
彼らは今この瞬間、遠く離れた戦場で、迫り来る敵の軍勢を一寸の容赦もなく「更地」にするための冷酷な指揮を執っている最中なのだから。
絶対的な二人の守護者が不在の城下町。
お買い物を楽しむ二人の背後に、音もなく、静かに不穏な影がにじり寄ろうとしていた。
「……ふふ、リリィちゃん、本当に楽しみだね。レオもアルヴィーノも、びっくりするかなぁ」
「はい……っ、きっと、とっても、喜んでくれます……!」
籠の中に収まった、真っ赤なイチゴと香ばしいビスケット。
恙無く買い物を終えた二人は、大好きな人たちの喜ぶ顔を思い浮かべながら、幸せな余韻の中で笑い合っていた。
どこからどう見ても、それは平和そのものの光景だった。
だが、その刹那――。
楽しげな民衆の喧騒を引き裂くように、二人の背後から、陽光さえも凍りつくような冷たい【昏い影】が急速に忍び寄ってきた。
「――っ!?」
天真爛漫に笑っていたルミの、高い魔力特有の鋭い野生の直感が、その禍々しい殺気をいち早く察知した。
振り返る時間すら惜しかった。
男たちの手が伸びるよりも早く、ルミは自らの身体を投げ出すようにして、隣にいたリリィの細い身体を思い切り突き飛ばした。
「リリィちゃん……っ!」
「あ……っ!?」
突き飛ばされたリリィが石畳の上にしりもちをつくのと同時に、昏い外套を纏った男たちの腕が、背後からガチリとルミの細い身体を強固に捕らえた。
「捕まえたぞ……! まずは一匹だ!」
「ル、ルミ様……っ!?」
何が起きたのか分からず、驚愕に赤い瞳を見開いたリリィが、必死にルミへと白く細い手を伸ばす。
しかし、男たちの凶刃と獰猛な視線は、すでにそのリリィをも捕らえようと迫っていた。
自分が捕まった絶望の最中、ルミの脳裏に浮かんだのは、アルヴィーノと交わしたあの「暗黙のルール」だった。
『アルヴィーノとレオが不在の時は、何があってもルミがリリィを守る』
「――リリィちゃん、駄目、来ちゃダメ!! 早く逃げてっ……!!! 早くっ!!!」
引き裂かれるようなルミの叫び声が、城下町の路地に響き渡る。
その鋭い怒号と、今にも自分を汚い手で捕らえようと迫ってくる男たちの狂気に、幽閉されていた頃の恐怖がリリィの脳裏をよぎった。
ガタガタと全身を震わせながら、リリィは恐怖に突き動かされるようにして、涙で視界を滲ませながら、必死にその場から走り出した。
レオの上着を抱きしめ、ただ無我夢中で、王宮の方へと逃げていく。
「チッ、白髪の娘を取り逃がしたか……! 追うか!?」
「いや、いい! 時間がない、この街の衛兵が集まってくる前にずらかるぞ。こいつが『魔王の伴侶』なら、人質としてはお釣りがくる!」
「放せっ……! 放せ、このっ……! 『深淵より――』」
捕らえられたルミは、怒りに瞳を燃え上がらせて闇魔法の詠唱を始めようとした。
しかし、敵も百戦錬磨の工作員だった。
魔法を発動させる隙を与えるよりも早く、男の一人がルミの背後から、特殊な薬品の染み込んだ布をその小さな口元へと強く押し当てた。
「んむっ……、う、あ…………」
鼻腔を突く刺激臭とともに、ルミの視界が急速に暗転していく。
どんなに抗おうとしても、身体から力が抜け、高かったはずの魔力の灯火が、意識の底へと沈んでいく。
カラン、と音を立てて、二人の大切な材料が詰まった籠が石畳の上に転がり、真っ赤なイチゴが地面に散らばった。
完全に意識を失い、ぐったりと項垂れたルミを、男たちは手際よく大きな袋へと押し込んでいく。
「仕方ない、今回はこのガキ一人だけだ。急げ!」
男たちはルミの身柄を隠すと、民衆の混乱に紛れ、影が溶けるようにして一瞬でその姿を消し去った。
あとに残されたのは、踏み潰されたビスケットと、無残に散らばった果物だけだった。