【ルミ敵堕ち編】絶望の果てに、世界で一番甘い奇跡を
薄暗いカビと古い紙の匂いが立ち込める、王宮のさらに地下深く――。
歴史から消し去られた禁忌の記憶を封印するための「最深部資料庫」に、アルフレッドは一人で立っていた。
パチ、パチ、と壁の松明が爆ぜる音だけが、不気味な静寂の中に響いている。
ここはかつて、十代の頃のアルヴィーノが「すべての魔を統べる」という歪んだ執念の元、周囲の目を盗んでは足繁く通い詰めていた場所だった。全属性のチート級魔力を誇る彼が、世界を滅ぼす術や、理をねじ曲げる理屈を貪るように学んでいた闇の揺り籠。
当然、そこにはアルヴィーノが先ほどルミに発動していた、あの悍ましい『蘇生魔法』の原典も眠っている。
だが、今のアルフレッドの碧眼が捉えているのは、そんな生ぬるいものではなかった。
彼は血に汚れた手で、棚の最奥、何重もの封印の鎖に縛られたドス黒い魔導書を強引に引き抜いた。
鎖がガシャリと音を立てて千切れ、床に転がる。
書の表紙に刻まれていたのは、蘇生などという一時的な誤魔化しではない。
完全に魂の離れた肉体へ、冥府の底から強引に命を引っ張り戻して定着させる――真の【死者を呼び戻す禁術】。
「……これだ。これなら、あの子たちを……」
ガサリ、とページをめくるアルフレッドの指先が、微かに震える。
その時、彼の脳裏に、かつてこの場所で交わした、幼き日の弟との会話が鮮明に蘇ってきた。
あの日、治癒魔法を教えてほしいと乞うてきたアルヴィーノ。
その才能の片鱗が『蘇生』という禁忌の領域に触れかけていることを察したアルフレッドは、彼の肩を強く掴み、厳しい声でこう告げたのだ。
『アルヴィーノ、蘇生魔法だけは絶対に使うな。死者を弄ぶ術は、いつか必ず発動した者自身の魂を食い破る。あれは人間が触れていい領域ではないんだ』
弟を、家族を闇に落としたくないという、善性100%の兄としての、至極真っ当で正しい忠告。
「……ハハ、ハ……」
乾いた、ひび割れたような笑いが、アルフレッドの唇から漏れた。
絶対に使うなと弟に説いていた本人が、今やその『蘇生』よりもさらに深く、禍々しい、世界の理を完全に冒涜する【深淵の禁術】に自ら手を伸ばし、狂おしいほどの歓喜の目を向けている。
あの時、自分が正論で縛り付けたせいで、アルヴィーノはルミを救うための「正しい術」を見つけられず、あんな歪んだ方法で自滅するしかなかったのではないか?
自分がもっと早く、この深淵の力を受け入れていれば、二人をこの手で刺し貫くような最悪の結末 にはならなかったのではないか?
「本当に……滑稽だな、私は」
王としての誇りも、これまで信じてきた聖なる光の教えも、今のアルフレッドには一枚の紙屑ほどの価値もない。
実の弟と、その最愛の少年を自らの手で屠ったという狂気の現実が、この善なる王の精神を完全に反転させ、底なしの闇へと叩き落としていた。
「待っていなさい、アルヴィーノ、ルミくん……。お前たちがいない世界など、この私が、王として認めない……っ」
呪詛のような呟きと共に、アルフレッドは禁断の書を強く抱え、狂気的な光をその碧眼に宿したまま、二人の肉体が横たわる医療室へと向けて、地下の階段を静かに駆け上がり始めた。
◆
静寂に包まれていた最高医療室の重厚な扉が、乱暴に押し開けられた。
現れたのは、かつてないほどに薄暗く、悍ましいプレッシャーを全身から放つアルフレッドだった。
その腕には、幾重もの封印の鎖が引きちぎられ、ドス黒い魔力を放つ古びた一冊の書物が抱えられている。
ベッドの上に横たわる、物言わぬ二人の人形――胸を貫かれ、細胞の壊死が始まっているルミと、魂の器そのものが崩壊しかけているアルヴィーノ。
その傍らで死に物狂いで治癒術式を維持していた宮廷魔術師の長、そして医療班の面々は、一斉に恐怖の目を見開いて息を呑んだ。
彼らの視線は、アルフレッドが手にするその忌々しい書物へと釘付けになる。
宮廷の魔術を統べる長だからこそ、それがどこに封印されていたものか、一目で理解してしまった。
「へ、陛下……。それは……まさか、地下最深部の『禁術倉庫』に封印されていた、現世の理を捻じ曲げるという、あの……!?」
魔術師の長の声が、ガタガタと激しく震える。
神を冒涜し、死者の魂を冥府の底から強引に引きずり戻して定着させる、世界を崩壊に導きかねない真の禁忌。
「――その『まさか』だ」
地を這うような、冷徹な声がアルフレッドの唇から漏れた。
そこに、かつて誰もが慕い、ルミの相談相手にもなっていた、あの優しい面影は微塵も残されていない。
金髪は煤と血に汚れ、碧眼の奥には、どんな犠牲を払ってでも目的を完遂するという、底なしの狂気と絶対の意志だけがギラギラと鈍く光っている。
「手遅れだと言ったな。ならば、世界の理そのものを書き換えて、手遅れでなくすればいい。……ただそれだけのことだ」
「な、何を仰るのですか! 死者を現世に呼び戻すなど、そんな禁忌を犯せば、術者である陛下の魂の器までタダでは済みません! 国が、世界が崩壊の歪みに巻き込まれる可能性だって――」
「黙れ」
アルフレッドの声が一段と低くなり、部屋全体の温度が急激に氷点下へと叩き落とされた。
溢れ出る圧倒的な光の圧が、物理的な衝撃となって周囲の医療器具をガタガタと震わせる。
「私から……これ以上、家族を奪うな。私の国だ。この国を、そして私の大切な弟たちを救うためなら、私は神にでも、魔王にでもなってやる」
いまやその優しさは、最愛の弟たちを現世に繋ぎ止めるための、最も狂暴で頑固な『執念』へと反転していた。
「術式の構築を手伝え。これより、アルヴィーノとルミくんの魂を、力ずくでこの世界へ引っ張り戻す」
あまりの気迫。
世界を敵に回してでも二人を救い出すという新王の絶対的な狂気の前に、魔術師の長も医療班も、ただ恐怖に身を竦め、従うことしかできなかった。
急ピッチで部屋の中央に描かれていく、赤黒い禁忌の魔法陣。
その中心に横たえられたアルヴィーノとルミの、冷たくなった二人の手をもう一度重ね合わせながら、アルフレッドは静かに禁断の書を開き、理を破壊する始まりの詠唱を口ずさみ始めた。
「――『深淵の底、光の射さぬ現世の境界よ。理(ことわり)の鎖を解き、我が声に応えよ』……っ!!」
最高医療室の石畳に描かれた赤黒い魔法陣が、脈動するように怪しく明滅を始める。
アルフレッドの碧眼は完全に据わり、ただ「二人を絶対に呼び戻す」という狂気的な執念だけで、呪われた書物に記された文字をなぞり続けていた。
しかし、現実はあまりにも無慈悲だった。
弟のアルヴィーノであれば、規格外の魔力を用いて、どんな禁術であっても詠唱なしで、あるいは最小限の代償で発動できたかもしれない。
だが、アルフレッドは本来、対話と光の治癒魔法に長けた「善なる王」なのだ。
莫大な魔力で世界の理を強引にねじ伏せるような、そんな圧倒的な力は彼にはない。
本来なら、発動条件にすら達していないはずの深淵の禁術。
それを、アルフレッドは自身の「命」と「魂の器」を限界まで削り、無理やり燃料に変えることで強引に起動させていた。
「が、……は、ぁ、っ……!!」
詠唱が中盤に差し掛かった瞬間、アルフレッドの身体が激しく拒絶反応を起こした。
ブツブツと全身の毛細血管が音を立てて弾け、目、鼻、耳、そして口、ありとあらゆる穴から、鮮烈な赤が勢いよく吹き出す。
白基調の王族服が、一瞬にして弟たちのものとは違う、彼自身の新しい血でドス黒く染まっていく。
視界が血の海で真っ赤に染まり、脳が焼き切れるような激痛が襲う。
それでも、アルフレッドはガタガタと震える唇を止めようとはしなかった。
「……『死せる……魂を、……泥濘(なずみ)の底より、引き……戻せ……っ』」
「陛下!! もう限界です、これ以上は術が完成する前に貴方の肉体が肉塊に変わる!!」
宮廷魔術師の長が悲鳴を上げる。
アルフレッドの魂の器は、いまや内側から強引に抉られ、今にも粉々に砕け散りそうだった。
彼が死ねば術は暴走し、この場にいる全員だけでなく、王都そのものが冥府の歪みに呑み込まれて消滅する。
(まずい、このままでは全滅だ……! いや、陛下をここで死なせるわけにはいかない……っ!)
魔術師の長は覚悟を決めた。
「全員、魔法陣の位置につけ!! 陛下の『器』の代わりに、我々の魔力を、命を楔として打ち込むんだ!!」
長の怒号に、死の恐怖で竦んでいた宮廷魔術師たちが一斉に動き出した。
彼らは血に染まる魔法陣の周囲へ円状に並ぶと、自らの全魔力を一滴残らず絞り出し、術式へと注ぎ込み始める。
数十人の高位魔術師たちの魔力が一塊となり、崩壊しかけていた禁術の構造を外側から強引に補強していく。
アルフレッド一人にかかっていた世界の「報い」の負荷が、魔術師たちへと分散され、部屋中に凄まじい魔力の嵐が吹き荒れた。
「ぐ、あああああぁぁぁっ!!」
「持ちこたえろ! 陛下が詠唱を終えるまで、何が何でもこの術式を維持するんだ!!」
魔術師たちからも次々と血が噴き出し、何人かが意識を失ってその場に倒れ込んでいく。
だが、その決死の支援によって、アルフレッドの細りかけていた声に、再び狂暴なまでの光の力が宿った。
「――『集え、我が血、我が肉、我が魂のすべてを以て、ここに二人の生を再誕させん――ッ!!!』」
アルフレッドの絶叫と共に、魔法陣から溢れ出た赤黒い光の奔流が、重なり合って眠るアルヴィーノとルミの亡骸を、完全に包み込んでいった。
歴史から消し去られた禁忌の記憶を封印するための「最深部資料庫」に、アルフレッドは一人で立っていた。
パチ、パチ、と壁の松明が爆ぜる音だけが、不気味な静寂の中に響いている。
ここはかつて、十代の頃のアルヴィーノが「すべての魔を統べる」という歪んだ執念の元、周囲の目を盗んでは足繁く通い詰めていた場所だった。全属性のチート級魔力を誇る彼が、世界を滅ぼす術や、理をねじ曲げる理屈を貪るように学んでいた闇の揺り籠。
当然、そこにはアルヴィーノが先ほどルミに発動していた、あの悍ましい『蘇生魔法』の原典も眠っている。
だが、今のアルフレッドの碧眼が捉えているのは、そんな生ぬるいものではなかった。
彼は血に汚れた手で、棚の最奥、何重もの封印の鎖に縛られたドス黒い魔導書を強引に引き抜いた。
鎖がガシャリと音を立てて千切れ、床に転がる。
書の表紙に刻まれていたのは、蘇生などという一時的な誤魔化しではない。
完全に魂の離れた肉体へ、冥府の底から強引に命を引っ張り戻して定着させる――真の【死者を呼び戻す禁術】。
「……これだ。これなら、あの子たちを……」
ガサリ、とページをめくるアルフレッドの指先が、微かに震える。
その時、彼の脳裏に、かつてこの場所で交わした、幼き日の弟との会話が鮮明に蘇ってきた。
あの日、治癒魔法を教えてほしいと乞うてきたアルヴィーノ。
その才能の片鱗が『蘇生』という禁忌の領域に触れかけていることを察したアルフレッドは、彼の肩を強く掴み、厳しい声でこう告げたのだ。
『アルヴィーノ、蘇生魔法だけは絶対に使うな。死者を弄ぶ術は、いつか必ず発動した者自身の魂を食い破る。あれは人間が触れていい領域ではないんだ』
弟を、家族を闇に落としたくないという、善性100%の兄としての、至極真っ当で正しい忠告。
「……ハハ、ハ……」
乾いた、ひび割れたような笑いが、アルフレッドの唇から漏れた。
絶対に使うなと弟に説いていた本人が、今やその『蘇生』よりもさらに深く、禍々しい、世界の理を完全に冒涜する【深淵の禁術】に自ら手を伸ばし、狂おしいほどの歓喜の目を向けている。
あの時、自分が正論で縛り付けたせいで、アルヴィーノはルミを救うための「正しい術」を見つけられず、あんな歪んだ方法で自滅するしかなかったのではないか?
自分がもっと早く、この深淵の力を受け入れていれば、二人をこの手で刺し貫くような
「本当に……滑稽だな、私は」
王としての誇りも、これまで信じてきた聖なる光の教えも、今のアルフレッドには一枚の紙屑ほどの価値もない。
実の弟と、その最愛の少年を自らの手で屠ったという狂気の現実が、この善なる王の精神を完全に反転させ、底なしの闇へと叩き落としていた。
「待っていなさい、アルヴィーノ、ルミくん……。お前たちがいない世界など、この私が、王として認めない……っ」
呪詛のような呟きと共に、アルフレッドは禁断の書を強く抱え、狂気的な光をその碧眼に宿したまま、二人の肉体が横たわる医療室へと向けて、地下の階段を静かに駆け上がり始めた。
◆
静寂に包まれていた最高医療室の重厚な扉が、乱暴に押し開けられた。
現れたのは、かつてないほどに薄暗く、悍ましいプレッシャーを全身から放つアルフレッドだった。
その腕には、幾重もの封印の鎖が引きちぎられ、ドス黒い魔力を放つ古びた一冊の書物が抱えられている。
ベッドの上に横たわる、物言わぬ二人の人形――胸を貫かれ、細胞の壊死が始まっているルミと、魂の器そのものが崩壊しかけているアルヴィーノ。
その傍らで死に物狂いで治癒術式を維持していた宮廷魔術師の長、そして医療班の面々は、一斉に恐怖の目を見開いて息を呑んだ。
彼らの視線は、アルフレッドが手にするその忌々しい書物へと釘付けになる。
宮廷の魔術を統べる長だからこそ、それがどこに封印されていたものか、一目で理解してしまった。
「へ、陛下……。それは……まさか、地下最深部の『禁術倉庫』に封印されていた、現世の理を捻じ曲げるという、あの……!?」
魔術師の長の声が、ガタガタと激しく震える。
神を冒涜し、死者の魂を冥府の底から強引に引きずり戻して定着させる、世界を崩壊に導きかねない真の禁忌。
「――その『まさか』だ」
地を這うような、冷徹な声がアルフレッドの唇から漏れた。
そこに、かつて誰もが慕い、ルミの相談相手にもなっていた、あの優しい面影は微塵も残されていない。
金髪は煤と血に汚れ、碧眼の奥には、どんな犠牲を払ってでも目的を完遂するという、底なしの狂気と絶対の意志だけがギラギラと鈍く光っている。
「手遅れだと言ったな。ならば、世界の理そのものを書き換えて、手遅れでなくすればいい。……ただそれだけのことだ」
「な、何を仰るのですか! 死者を現世に呼び戻すなど、そんな禁忌を犯せば、術者である陛下の魂の器までタダでは済みません! 国が、世界が崩壊の歪みに巻き込まれる可能性だって――」
「黙れ」
アルフレッドの声が一段と低くなり、部屋全体の温度が急激に氷点下へと叩き落とされた。
溢れ出る圧倒的な光の圧が、物理的な衝撃となって周囲の医療器具をガタガタと震わせる。
「私から……これ以上、家族を奪うな。私の国だ。この国を、そして私の大切な弟たちを救うためなら、私は神にでも、魔王にでもなってやる」
いまやその優しさは、最愛の弟たちを現世に繋ぎ止めるための、最も狂暴で頑固な『執念』へと反転していた。
「術式の構築を手伝え。これより、アルヴィーノとルミくんの魂を、力ずくでこの世界へ引っ張り戻す」
あまりの気迫。
世界を敵に回してでも二人を救い出すという新王の絶対的な狂気の前に、魔術師の長も医療班も、ただ恐怖に身を竦め、従うことしかできなかった。
急ピッチで部屋の中央に描かれていく、赤黒い禁忌の魔法陣。
その中心に横たえられたアルヴィーノとルミの、冷たくなった二人の手をもう一度重ね合わせながら、アルフレッドは静かに禁断の書を開き、理を破壊する始まりの詠唱を口ずさみ始めた。
「――『深淵の底、光の射さぬ現世の境界よ。理(ことわり)の鎖を解き、我が声に応えよ』……っ!!」
最高医療室の石畳に描かれた赤黒い魔法陣が、脈動するように怪しく明滅を始める。
アルフレッドの碧眼は完全に据わり、ただ「二人を絶対に呼び戻す」という狂気的な執念だけで、呪われた書物に記された文字をなぞり続けていた。
しかし、現実はあまりにも無慈悲だった。
弟のアルヴィーノであれば、規格外の魔力を用いて、どんな禁術であっても詠唱なしで、あるいは最小限の代償で発動できたかもしれない。
だが、アルフレッドは本来、対話と光の治癒魔法に長けた「善なる王」なのだ。
莫大な魔力で世界の理を強引にねじ伏せるような、そんな圧倒的な力は彼にはない。
本来なら、発動条件にすら達していないはずの深淵の禁術。
それを、アルフレッドは自身の「命」と「魂の器」を限界まで削り、無理やり燃料に変えることで強引に起動させていた。
「が、……は、ぁ、っ……!!」
詠唱が中盤に差し掛かった瞬間、アルフレッドの身体が激しく拒絶反応を起こした。
ブツブツと全身の毛細血管が音を立てて弾け、目、鼻、耳、そして口、ありとあらゆる穴から、鮮烈な赤が勢いよく吹き出す。
白基調の王族服が、一瞬にして弟たちのものとは違う、彼自身の新しい血でドス黒く染まっていく。
視界が血の海で真っ赤に染まり、脳が焼き切れるような激痛が襲う。
それでも、アルフレッドはガタガタと震える唇を止めようとはしなかった。
「……『死せる……魂を、……泥濘(なずみ)の底より、引き……戻せ……っ』」
「陛下!! もう限界です、これ以上は術が完成する前に貴方の肉体が肉塊に変わる!!」
宮廷魔術師の長が悲鳴を上げる。
アルフレッドの魂の器は、いまや内側から強引に抉られ、今にも粉々に砕け散りそうだった。
彼が死ねば術は暴走し、この場にいる全員だけでなく、王都そのものが冥府の歪みに呑み込まれて消滅する。
(まずい、このままでは全滅だ……! いや、陛下をここで死なせるわけにはいかない……っ!)
魔術師の長は覚悟を決めた。
「全員、魔法陣の位置につけ!! 陛下の『器』の代わりに、我々の魔力を、命を楔として打ち込むんだ!!」
長の怒号に、死の恐怖で竦んでいた宮廷魔術師たちが一斉に動き出した。
彼らは血に染まる魔法陣の周囲へ円状に並ぶと、自らの全魔力を一滴残らず絞り出し、術式へと注ぎ込み始める。
数十人の高位魔術師たちの魔力が一塊となり、崩壊しかけていた禁術の構造を外側から強引に補強していく。
アルフレッド一人にかかっていた世界の「報い」の負荷が、魔術師たちへと分散され、部屋中に凄まじい魔力の嵐が吹き荒れた。
「ぐ、あああああぁぁぁっ!!」
「持ちこたえろ! 陛下が詠唱を終えるまで、何が何でもこの術式を維持するんだ!!」
魔術師たちからも次々と血が噴き出し、何人かが意識を失ってその場に倒れ込んでいく。
だが、その決死の支援によって、アルフレッドの細りかけていた声に、再び狂暴なまでの光の力が宿った。
「――『集え、我が血、我が肉、我が魂のすべてを以て、ここに二人の生を再誕させん――ッ!!!』」
アルフレッドの絶叫と共に、魔法陣から溢れ出た赤黒い光の奔流が、重なり合って眠るアルヴィーノとルミの亡骸を、完全に包み込んでいった。