恋を売る夜に、ただひとつの愛を

【ホスト編後日談2】

わなわなと震えていた後日談から数日後。
休日の午後、レオはリリィを連れて都内有数の高級ショッピングモールへとやってきていた。
目的はひとつ。
——リリィの服や小物の新調だ。

「レ、レオさん……っ! ここ、外観からして絶対にお高いお店ばかりですよね……!? わたし、いつものモールで十分です……っ!」
「ダメですよ、リリィさん。我が家へお引越ししてきてくれたんですから、これからは季節の変わり目ごとに、あなたに似合うお洋服を私に選ばせてください」

レオは甘く優しく微笑むと、怯えるリリィの手をキュッと握り、洗練されたアパレルショップの店内へとエスコートした。
店内に足を踏み入れれば、上品な香水の香りと、美しいディスプレイ。
普段のリリィなら恐れ多くて素通りしてしまうような空間だが、レオが隣にいるだけで店員たちは一目置いておじぎをし、最上級の接客体制に入っていた。

「リリィさん、気になったものは遠慮なく手にとってみてくださいね」
「は、はい……っ」

恐る恐るハンガーにかかった服を見て回るリリィ。
やがて、ひとつの柔らかいアイボリー色のニットワンピースの前で足が止まった。
胸元に控えめな刺繍があしらわれた、可憐なデザインだ。

「……あ、これ……すごく可愛い……」

ほんの独り言のつもりでリリィが呟いた、その瞬間。

「これと、これに合うコートと靴、あと鞄も一式用意してください。サイズは彼女に合わせてもらえますか?」
「えっ!?」

リリィが振り返ると、レオはすでにお店のスタッフへ爽やかな笑顔で指示を出していた。
素早い手つきでスタッフが商品を取り出していく。

「レ、レオさんっ!? わたし、『可愛い』って言っただけで……っ!」
「『可愛い』と思ったんですよね? なら買うのが当然です」
「とうぜん!? 一瞬の独り言ですよ!?」
「リリィさんが素敵だと思うものをプレゼントできるなんて、私にとってこれ以上の幸せはありません。ほら、次はあちらのバッグのコーナーへ行きましょう」

そこからのレオの「男気」ならぬ「重愛スパーキング」は止まらなかった。

リリィが「わぁ、このリボン可愛い……」と小さく呟けば、そのヘアアクセサリー(色違い全色)がショッピングバッグへ。
「この靴、歩きやすそう……」と目を留めれば、そのパンプスと、それに合う靴下やストールが一式お買い上げ。
さらに「このポーチ、小さくて持ち運びしやすそうですね」と手に取れば、当然のように即決済。

「れ、レオさん! もう十分です! 袋が……袋がもう両手で持てないくらいあります……っ!」
「大丈夫です、配送の手配はすべて済ませましたから。……それにしても、今日のリリィさんは本当に楽しそうで可愛いですね」
「わたしはレオさんのカードの心配で心臓が破裂しそうです……っ!!」

店を出る頃には、高級ブランドのショッパーが山積みになり、すべて自宅へ配送される手配が完了していた。
買い物を終え、近くのシックなカフェで休憩に入った二人。
運ばれてきた紅茶を一口飲み、ようやくリリィははぁっと大きなため息をついた。

「もう……レオさんったら……。あんなに買わなくても、わたしはレオさんと一緒にいられるだけで十分幸せなんです……」

俯いて少し拗ねたように唇を尖らせるリリィ。
そんな彼女を、レオは新緑の瞳を細めてどこまでも愛おしそうに見つめた。

「すみません。でも、嘘ではないんです」

レオはテーブル越しにリリィの小さな手を包み込んだ。

「あなたが『可愛い』と言って目を輝かせる姿を見るのが、私にとって何よりの癒やしなんです。歌舞伎町でどれだけ高価なシャンパンが開こうと、どれだけ派手なタワーが立とうと……あなたの『これ可愛い』の一言に勝る価値なんて、この世のどこにもありません」
「……レオさん……」
「だから、おねだりだなんて思わないでください。私にあなたの笑顔を見せるための『必要経費』ですから」

真顔でとんでもない殺し文句を投げてくる元常連客(現歌舞伎町トップホスト)。
リリィは顔を真っ赤にして、コクコクと頷くことしかできなかった。

「うぅ……わかりました……。でも、次からは『これ可愛い』って言うの、3回に1回くらいに我慢します……っ」
「ふふ、ダメですよ。思ったことは全部、口に出してくださいね?」

甘い笑顔でリリィの手の甲にそっと口づけを落とすレオ。
どれだけお金を持とうが、どれだけ夜の街で頂点に立とうが、彼の財産も愛もすべては目の前の可憐な少女のためだけに注がれているのだった。
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