恋を売る夜に、ただひとつの愛を

狂熱と欲望が渦巻いた締め日の夜も、ついに終わりを告げようとしていた。
フロアの中央、マイクを握るアナウンスの声が静まり返った店内へ重々しく響き渡る。

「……今月、見事ナンバーワンの座に輝き、ラストソングを勝ち取ったのは――! 絶対王者、皇 紫苑様――!!」

割れんばかりの拍手と歓声が湧き起こる。
紫苑のテーブルでは、大量のテキーラ観覧車と『エンジェル シャンパン Vintage』、そして『ルイ13世』が放つ圧倒的な輝きの中で、ルミが「やったあー! 紫苑すごーい!」と嬉しそうにパチパチと手を叩いていた。
紫苑はどこか呆れたような、けれど満足げな笑みを浮かべ、ルミの頭を優しく撫でながらマイクを手に取る。
蓮の売上も過去最高額を更新していた。他卓での巧妙なアプローチ、メイン卓での大攻勢――すべては完璧だった。
けれど、届かなかった。あと一歩のところで、紫苑の背中はすり抜けていった。

「……っ、嘘でしょ……? 蓮くん、ごめんね……ごめんなさい……!」

蓮の隣で、今日のために大金を積み上げてくれたメインの太客の姫が、ボロボロと涙をこぼし始めた。
自分の力不足で蓮をナンバーワンにさせてあげられなかったという悔しさと申し訳なさで、肩を小さく震わせている。
蓮は胸の深層で燃え盛る激しい悔しさを、完璧な制御で一瞬にして押し殺した。
そして、涙を流す彼女の肩をそっと抱き寄せ、指先で優しくその涙を拭った。

「泣かないでください。あなたが今夜、どれほど私のために戦ってくれたか……私は痛いほど分かっていますよ」

耳元で、どこまでも甘く、誠実さを感じさせる低い声で囁く。

「謝るのは私の方です。あなたの想いに応えきれなかった。……けれど、あなたと過ごしたこの一ヶ月は、私にとって何よりも誇らしいものです」
「蓮くん……っ」
「来月こそは、絶対に二人で一番の景色を見ましょう。……ね?」

蓮が彼女の瞳をまっすぐに見つめ、優しく微笑みかけると、姫は涙を拭いながら何度も強く頷いた。
敗北の悔しさは、「次こそは自分がこの人を頂点に立たせる」という、さらに深い依存と熱量へと書き換えられていく。

「さあ、涙を拭いて。今夜は頑張ってくれたあなたを、私が独占してねぎらう番です」
「え……?」
「今夜はアフターのお約束、していたでしょう? 美味しいものでも食べに行きましょうか」
「うん……! 行く……!」

姫が嬉しそうに微笑むのを確認し、蓮はそっと立ち上がった。
フロアの奥では、紫苑がラストソングを静かに歌い上げ、ルミがその隣で嬉しそうに揺れている。王者の威風堂々とした姿。
蓮は一瞬だけ紫苑へと視線を向け、優雅に口元を歪めた。

(……今月も、ダメでしたか。ですが、首を洗って待っている時間が増えただけですよ、紫苑さん)

店内を包むラストソングの余韻の中、蓮は悔しさを完璧な美しさに変えて姫をエスコートし、歌舞伎町の夜の静寂へと静かに店を後にするのだった。
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