恋を売る夜に、ただひとつの愛を
締め日。
それは『HOST CLUB RAYSTOLL』において、一か月間で最も熱く、最も血生臭い「戦争」の夜だ。
フロアを包み込む重低音、眩く明滅する照明、そしてひっきりなしに響き渡るコールとグラスの重なる音。
店内の熱気は、入店するだけで肌が焦げ付くような錯覚すら覚えるほどに高まっていた。
「さあさあ、今夜は締め日! 頂点を獲るのは誰だーっ!?」
マイクの威勢のいい声が響き渡る中、フロアの二大巨頭――「神城 蓮」と「皇 紫苑」のテーブルは、異彩を放つほどの光量を放っていた。
最奥の紫苑のメイン卓。
そこに君臨するのは、水色の髪を揺らすルミだ。
「わあぁ! 紫苑、これすっごくキレイ! もっとキラキラ並べようよ!」
ルミの無邪気な一言で、テーブルの上には光る台座に鎮座した『テキーラ観覧車』が何台もずらりと並び、まるで夜景のように色とりどりのLEDが回転している。
さらにルミが「このボトル、形がかわいくてお部屋に飾りたい!」とおねだりしたことで、まるでおとぎ話の魔法のランプのような形をした『シンデレラシュー』の各色ボトルや、王冠の彫刻が美しい『カミュ トラディション』、さらにはリボンのあしらわれた繊細で可憐なボトルデザインが特徴の最高級ピンクシャンパン『エンジェル シャンパン Vintage』が所狭しと並べられていた。
ルミの「綺麗なボトルが見たい」という無垢な欲求だけで、一瞬にして数百万円の数字が紫苑の売上として積み上がっていく。
「……ルミ、飲みすぎには気をつけろと言っているでしょう?」
紫苑は心底呆れたように吐き捨てつつも、ルミが「見て見て、紫苑!」と嬉しそうに掲げるクラウン型のボトルを優しく受け取り、その頭を愛おしそうに撫でていた。
だが蓮も、指をくわえてその光景を見ているわけではなかった。
「蓮くん! 絶対に今夜は紫苑さんに勝たせるから!」
「私たちが蓮くんをナンバーワンにするの!」
蓮のメイン卓では、日頃から彼に心酔している太客の姫たちが、自尊心と愛を燃やして競い合うように高額ボトルを投入していた。
卓上に輝くのは、翼を広げたような重厚なデザインが美しい『アルマン・ド・ブリニャック』のゴールドとロゼ。
さらに別の姫が「蓮くんに一番似合うから」と注文したのは、クリスタルガラスの最高峰『ルイ13世』。
宝石のように光を反射するバカラ社製のデキャンタが、荘厳な存在感を放っている。
「ありがとうございます……。あなた方のその強い想い、何があっても無駄にはしませんよ」
蓮は姫たちの手を代わる代わる優しく包み込み、耳元で吐息を混ぜて甘く囁く。
「今夜、私を一番にしてくれたら……二人だけで、絶対に忘れられない朝を迎えましょう」
その一言で、姫たちの瞳に情熱の火が灯る。 蓮の営業は、ただ煽るだけではない。
姫同士の対立構造を巧みに引き出しつつも、どちらにも「あなたが一番特別だ」と思わせる極上の心理戦だ。
蓮は自分のメイン卓だけに留まらず、ヘルプとして他卓を回る足も止めない。
「蓮くん、少しだけでも私の席に来てくれたの……? 嬉しい!」
「もちろんです。あなたに会わずに締め日を終えるなんて、私にはできませんから」
すれ違いざまに肩を寄せ、グラスを傾ける。
「ねえ、蓮くん……どうしたらもっと長くいられる?」
「ふふ、そうですね……あちらの可愛いピンクのハートのボトル……『ソウメイ ロゼ』を滑り込ませてくれたら、もう少しあなたのお隣に居座れるかもしれません」
「本当!? 入れる! 絶対入れる!」
狙いすました一言で、他卓でも次々と高額なシャンパンが開けられていく。
計算し尽くされた言葉遣い、一瞬の隙も見せないエスコート、そしてどれだけ回されてもお酒に飲まれない強靭な肝臓。
手練手管を惜しみなく発揮し、蓮はフロア中の数字を自分へと吸い寄せていった。
『東の空から夜が明ける! 歌舞伎町に舞い降りた! 神城 蓮様、高級シャンパン入りました――!!』
ヘルプたちの威勢のいいコールが響き渡り、店内の熱狂は最高潮へと達する。
グラスを掲げ、完璧な微笑みを浮かべながら、蓮はちらりと紫苑の卓へ視線を送った。
高額なボトルとテキーラ観覧車の光の中で、楽しそうに笑うルミと、それを冷酷に、けれど甘く見守る紫苑。
(……届かせる。今夜こそ、あなたのその余裕を打ち砕いて見せますよ、紫苑さん)
胸の中でふつふつと燃え上がる冷たい執念。
一瞬の気まぐれで動く無垢な愛と、計算と手練手管で築き上げた執着の愛。
歌舞伎町の頂点をかけた狂乱の夜は、終わりなきデッドヒートを繰り広げながら、いよいよ運命のラストソングへと突き進んでいくのだった。
それは『HOST CLUB RAYSTOLL』において、一か月間で最も熱く、最も血生臭い「戦争」の夜だ。
フロアを包み込む重低音、眩く明滅する照明、そしてひっきりなしに響き渡るコールとグラスの重なる音。
店内の熱気は、入店するだけで肌が焦げ付くような錯覚すら覚えるほどに高まっていた。
「さあさあ、今夜は締め日! 頂点を獲るのは誰だーっ!?」
マイクの威勢のいい声が響き渡る中、フロアの二大巨頭――「神城 蓮」と「皇 紫苑」のテーブルは、異彩を放つほどの光量を放っていた。
最奥の紫苑のメイン卓。
そこに君臨するのは、水色の髪を揺らすルミだ。
「わあぁ! 紫苑、これすっごくキレイ! もっとキラキラ並べようよ!」
ルミの無邪気な一言で、テーブルの上には光る台座に鎮座した『テキーラ観覧車』が何台もずらりと並び、まるで夜景のように色とりどりのLEDが回転している。
さらにルミが「このボトル、形がかわいくてお部屋に飾りたい!」とおねだりしたことで、まるでおとぎ話の魔法のランプのような形をした『シンデレラシュー』の各色ボトルや、王冠の彫刻が美しい『カミュ トラディション』、さらにはリボンのあしらわれた繊細で可憐なボトルデザインが特徴の最高級ピンクシャンパン『エンジェル シャンパン Vintage』が所狭しと並べられていた。
ルミの「綺麗なボトルが見たい」という無垢な欲求だけで、一瞬にして数百万円の数字が紫苑の売上として積み上がっていく。
「……ルミ、飲みすぎには気をつけろと言っているでしょう?」
紫苑は心底呆れたように吐き捨てつつも、ルミが「見て見て、紫苑!」と嬉しそうに掲げるクラウン型のボトルを優しく受け取り、その頭を愛おしそうに撫でていた。
だが蓮も、指をくわえてその光景を見ているわけではなかった。
「蓮くん! 絶対に今夜は紫苑さんに勝たせるから!」
「私たちが蓮くんをナンバーワンにするの!」
蓮のメイン卓では、日頃から彼に心酔している太客の姫たちが、自尊心と愛を燃やして競い合うように高額ボトルを投入していた。
卓上に輝くのは、翼を広げたような重厚なデザインが美しい『アルマン・ド・ブリニャック』のゴールドとロゼ。
さらに別の姫が「蓮くんに一番似合うから」と注文したのは、クリスタルガラスの最高峰『ルイ13世』。
宝石のように光を反射するバカラ社製のデキャンタが、荘厳な存在感を放っている。
「ありがとうございます……。あなた方のその強い想い、何があっても無駄にはしませんよ」
蓮は姫たちの手を代わる代わる優しく包み込み、耳元で吐息を混ぜて甘く囁く。
「今夜、私を一番にしてくれたら……二人だけで、絶対に忘れられない朝を迎えましょう」
その一言で、姫たちの瞳に情熱の火が灯る。 蓮の営業は、ただ煽るだけではない。
姫同士の対立構造を巧みに引き出しつつも、どちらにも「あなたが一番特別だ」と思わせる極上の心理戦だ。
蓮は自分のメイン卓だけに留まらず、ヘルプとして他卓を回る足も止めない。
「蓮くん、少しだけでも私の席に来てくれたの……? 嬉しい!」
「もちろんです。あなたに会わずに締め日を終えるなんて、私にはできませんから」
すれ違いざまに肩を寄せ、グラスを傾ける。
「ねえ、蓮くん……どうしたらもっと長くいられる?」
「ふふ、そうですね……あちらの可愛いピンクのハートのボトル……『ソウメイ ロゼ』を滑り込ませてくれたら、もう少しあなたのお隣に居座れるかもしれません」
「本当!? 入れる! 絶対入れる!」
狙いすました一言で、他卓でも次々と高額なシャンパンが開けられていく。
計算し尽くされた言葉遣い、一瞬の隙も見せないエスコート、そしてどれだけ回されてもお酒に飲まれない強靭な肝臓。
手練手管を惜しみなく発揮し、蓮はフロア中の数字を自分へと吸い寄せていった。
『東の空から夜が明ける! 歌舞伎町に舞い降りた! 神城 蓮様、高級シャンパン入りました――!!』
ヘルプたちの威勢のいいコールが響き渡り、店内の熱狂は最高潮へと達する。
グラスを掲げ、完璧な微笑みを浮かべながら、蓮はちらりと紫苑の卓へ視線を送った。
高額なボトルとテキーラ観覧車の光の中で、楽しそうに笑うルミと、それを冷酷に、けれど甘く見守る紫苑。
(……届かせる。今夜こそ、あなたのその余裕を打ち砕いて見せますよ、紫苑さん)
胸の中でふつふつと燃え上がる冷たい執念。
一瞬の気まぐれで動く無垢な愛と、計算と手練手管で築き上げた執着の愛。
歌舞伎町の頂点をかけた狂乱の夜は、終わりなきデッドヒートを繰り広げながら、いよいよ運命のラストソングへと突き進んでいくのだった。