氷の騎士に、白百合の恋を

戦火の記憶も遠のき、平穏を取り戻した王城の午後のことである。
澄み渡る秋空の下、陽光が降り注ぐ中央庭園には、色鮮やかな花々が咲き誇っていた。
風が吹くたびに甘い花の香りが揺れ、木々の葉が心地よい擦れ音を立てている。その庭園の片隅に設置された白磁のテーブルセットで、セレフィアとリリアーヌは二人きりのアフタヌーンティーを楽しんでいた。
テーブルの上には、丁寧に淹れられた紅茶から繊細な湯気が立ち上り、銀のスタンドには焼きたてのスコーンや可憐な焼き菓子が美しく並べられている。

「……今日のお茶も、とても良い香りですね、リリア様」

セレフィアは繊細な手つきでティーカップを傾け、静かに一口口にした。
いつものように凛とした佇まいと、冷徹なまでに落ち着いた美しい顔立ち。
感情をあまり表に出さないその仕草は、どこから見ても洗練された貴族の令嬢そのものであった。

「ええ、本当に。セラの淹れてくれたお茶は、いつも世界で一番美味しい」

対面に座るリリアーヌは、素直に微笑みながら満足そうに笑みをこぼした。
可憐な姫君にふさわしい上品な仕草でカップを置くと、その瞳をキラキラと輝かせてセレフィアを見つめる。

「こうして二人で穏やかに過ごせる時間が、私、何よりも大好きなの」
「私もです、リリア。貴女と過ごすひととき以上に、価値のある時間など存在しませんから」

何気ない日常の会話。
しかし、セレフィアの口から当然のように紡がれる言葉には、一切の飾りがなかった。
どこまでも本気で、どこまでも重い愛を込めて言いのけられたリリアーヌは、それだけで頬をぽっと朱に染めてしまう。

「もう……セラは、相変わらずさらりとそういうことを言うんだから……」

リリアーヌは照れくさそうに視線を泳がせ、恥ずかしさを誤魔化すようにスコーンへと手を伸ばした。
そんな可憐な幼馴染の反応を、セレフィアは瞳の奥に甘い光を宿して静かに見つめている。
セレフィアはおもむろに立ち上がると、足音もなくリリアーヌの背後へと回り込んだ。

「セラ……?」

不意に気配が近づき、リリアーヌが驚いて振り返ろうとしたその瞬間。
セレフィアの小柄で細い腕が、背後からそっとリリアーヌの華奢な肩を抱きすくめた。
白くしなやかな指先がリリアーヌの首元を掠め、耳元へと寄せられる。

「ひゃっ……」

肌に触れる冷ややかな温度と、耳元に届く吐息の温もりに、リリアーヌの背筋に甘い戦慄が走った。

「何か、私の顔についてましたか? 視線を泳がせて、とても愛らしいお顔をしていらっしゃいましたけれど」

耳元で囁かれる、低く滑らかな敬語。
普段の冷静沈着な仮面の下から覗く、甘く、逃げ場を塞ぐような独占欲。
セレフィアの体温と独特の香りがリリアーヌの全身を包み込み、心臓が跳ねるような音を立てて拍動し始める。

「な、なんでもない……! ただ、セラがあまりにも真っ直ぐ見つめてくるから……」
「見つめるのは当然です。私の視線は、初めから貴女だけを捉えるようにできておりますから」

セレフィアはそう言って微笑むと、リリアーヌの耳たぶにほんの少しだけ自身の唇を触れさせた。
そして、そのまま吸い寄せられるように、真っ赤に染まったリリアーヌの額へと優しく口づけを落とす。

「……ッ!」

耳元から頬へと伝わる甘い痺れに、リリアーヌの頭の中は真っ白になった。
可憐で上品な姫君としての佇まいは瞬時にどこかへ吹き飛び、胸の奥から溢れ出す愛おしさと恥ずかしさで、今にも消えてしまいそうになる。
セレフィアは腕の力を緩めず、胸の中で甘く身体を固くするリリアーヌの反応を、心から愛おしそうに楽しんでいた。

「ふふ……本当に、愛くるしい方です。私だけの、大切なお姫様」

囁かれた追撃の言葉に、リリアーヌの限界はとうに突き抜けていた。
顔どころか耳の先、首筋まで真っ赤に染め上げたリリアーヌは、反論しようと振り向くものの、至近距離にあるセレフィアの美しい瞳に見つめられ、言葉を詰まらせてしまう。
これ以上弄ばれては身が持たないと、リリアーヌは恥ずかしさのあまり胸元に顔を埋め、ぽかぽかと小さな拳でセレフィアの胸を叩いた。

「もう……! セラのばか……! いつもリリアばっかりドキドキしてる!」
「これからも覚悟、していてくださいね。リリアーヌ」

甘い抗議の声が、穏やかな庭園の風に乗って静かに溶けていく。
セレフィアは溢れ出る愛おしさに目を細め、胸に飛び込んできた大切な存在を、二度と離さないと言わんばかりに深く深く抱きしめ返すのだった。
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