氷の騎士に、白百合の恋を

国境での激戦を終え、城へと帰還したセレフィア。甲冑を着脱し、泥と返り血を完全に洗い流した彼女は、いつものように感情を表面に出さない静かな佇まいでリリアーヌの部屋の扉を叩いた。

「リリア様、ただいま戻りました」

扉を開けると、そこには【雪咲華】を大切そうに抱きかかえ、不安そうに部屋を行き来していたリリアーヌの姿があった。
セレフィアの無事な姿を目にした瞬間、リリアーヌの瞳にポロポロと涙が溢れ出す。

「セラ……! 無事だったのですね……!」

思わず駆け寄り、セレフィアの胸へと飛び込むリリアーヌ。
普段の可憐で上品な姫君の面影は消え、感情が高ぶるあまり、幼い頃のように「セラ」と名を呼びながら必死にその背中に手を回す。

「無茶をしてはいけませんと言ったのに……わたくし、ずっと心配で……ううん、リリア、すごく怖かったんだから……!」
「申し訳ありません、リリア。ご心配をおかけしました」

セレフィアは静かにその背中を抱き返した。
冷徹な氷の魔力を秘めた腕は、リリアーヌを包むときだけは恐ろしいほど優しく、甘い熱を帯びる。
腰に差した軍刀【冬陽】が、二人の体温に触れて微かに揺れた。

「ですが、お約束通り、私はこうしてリリアの元へ帰ってきました。……他の誰も、私の心も体も奪うことなどできません。私を動かすのは、いつだって貴女だけです」

耳元で囁かれる甘く独占欲に満ちた言葉に、リリアーヌは顔を真っ赤に染め、照れ隠しのようにセレフィアの胸に顔を埋めた。


その頃、王城の執務室では、アルフレッドとアルヴィーノが静かに酒杯を交わしていた。

「無事の帰還、苦労をかけたな、アルヴィーノ。セレフィアも初陣で見事な働きだったってね」
「当然の結果です。あの子には私の血が流れていますから。……それに、守るべき『お人形さん』が城で待っているのです。負ける理由が見当たりません」

アルヴィーノは冷徹な笑みを浮かべ、淡々と答える。
アルフレッドは苦笑しながら、窓の外の庭園へと視線を向けた。
そこには、エルザが見守る中、無邪気に笑いながらセレフィアの手を引いて歩くリリアーヌの姿があった。

「ふふ、二人とも本当に仲が良いこと。リリアーヌがあんなに嬉しそうなお顔をするのは、セレフィア様の前だけですもの」

傍らで微笑むエルザの言葉に、アルフレッドも優しく眼差しを細める。

「ああ。国境の雲行きは怪しいが……あの二人の光を守るためなら、私たちはどんな試練でも越えていけそうだな」

戦火のあとに訪れた束の間の平穏。冷徹な軍師の計算も、恐ろしい闇魔法の秘術も、戦場を駆ける狂気も、今はすべて静寂の中に溶けていく。
セレフィアはリリアーヌの手を強く握り返した。
雪の中で力強く咲く花のように凛とした彼女の微笑みを守るためなら、この身に宿る氷の力を何度でも解き放とうと、心の中で静かに誓いながら。
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