氷の騎士に、白百合の恋を
石畳の続く城下町は、活気ある人々の声とおいしそうな香りに包まれていた。
先ほどの出来事の余韻を少し引きずりつつも、繋いだ手の温もりにリリアーヌは小さく胸を躍らせる。
ふと、隣を歩くセレフィアの腰元に視線を落としたリリアーヌは、見慣れない漆黒の鞘に気づいて声を上げた。
「そういえば……セラ、その軍刀は新しいものではありませんか?」
「ええ。父上からいただいたものです。私に合わせて誂えられたもののようで、非常に扱いやすいですよ」
「アルヴィーノ様から……! とても綺麗で、セラの雰囲気にぴったりですね」
ほくほくとした顔で呟いたリリアーヌは、ふと思いついたように首を傾げた。
「ちなみに、この刀には何という名前がついているのですか?」
「名前、ですか?」
セレフィアは一瞬だけ紫の瞳を丸くし、それから不思議そうに刃の柄へと視線を落とした。
武器をただの道具や手段として捉えていた彼女にとって、刀に名前をつけるという発想自体がなかったのだ。
「特にありませんね。刀は刀ですので」
「まあ、そうだったのですね……」
どこか寂しそうにしたリリアーヌだったが、次の瞬間にはぱっと表情を明るくさせ、期待に満ちた目でセレフィアを見つめた。
繋いだ手にキュッと力を込める。
「ねえ、セラ! それなら……私にその刀の名前をつけさせていただけませんか?」
「リリアが、ですか?」
「はい! セラの大切な護り刀に、私から名前を贈りたいのです。……ダメ、でしょうか?」
少し上目遣いに、上気した頬でお願いしてくるリリアーヌ。
その可愛らしさと健気さに胸を突かれたセレフィアは、断る選択肢など最初から持っていなかった。
「……ダメなわけがありません。貴女がつけてくれるのなら、これ以上のものはありませんよ」
「本当ですか! ふふ、嬉しいです!」
「では、どのような名前にしますか?」
セレフィアが優しく尋ねると、リリアーヌは「うーん」と可愛らしく唸りながら、真剣な顔で考え込み始めた。
「セラを象徴するような、冷たくて美しい名前……それから、私を守ってくれる温かい想いも込められたような名前が良いです。うふふ、なんだか責任重大ですね!」
楽しそうに目を輝かせるリリアーヌの横顔を眺めながら、セレフィアは繋いだ手を少しだけ強く握り返した。
「焦る必要はありませんよ。買い物をしながら、ゆっくり考えてください」
「はい! セラに一番お似合いになる素敵な名前を考えますね!」
嬉しそうに微笑むリリアーヌの姿に、セレフィアの胸の奥にも柔らかくて甘い熱がじんわりと広がっていくのだった。
きらびやかな装飾が施されたウィンドウが並ぶ商店街で、リリアーヌはまるで幼子のように目を輝かせていた。
「セラ、見てください! あのリボン、すごく可愛いです! あ、こちらのガラス細工のお花もとっても素敵……!」
パステルカラーのドレスを揺らしながら、次々と目につくものを指さして無邪気に笑うリリアーヌ。
その隣を歩くセレフィアは、繋いだ手の温もりを感じながら、愛おしさに満ちた眼差しで彼女の横顔を見つめていた。
「ええ、とても素敵ですね。ですが……」
セレフィアはすっと足を止めると、リリアーヌの手を少しだけ自分の方へと引き寄せた。
ふいに距離が縮まり、驚いて振り向いたリリアーヌの耳元へ、低く甘い声を滑り込ませる。
「私にとっては、そうやって楽しそうに目を輝かせているリリアの方が、何倍も可愛らしいですよ」
「〜〜〜〜っ!?」
不意打ちの甘い攻めに、リリアーヌの顔は一瞬で熟したリンゴのように真っ赤に染まった。
キャパシティオーバーを起こしかけ、口をパクパクとさせながら自分の頬を両手で押さえる。
「も、もう……! セラはすぐそうやって、私を惑わすのですから……っ!」
「ふふ、本当のこと言っただけですよ」
寸止めで限界ギリギリの赤面状態を楽しむセレフィア。
そんな微笑ましいやり取りの途中、ふとセレフィアの澄んだ紫の瞳がある高級宝飾店のウィンドウに留まった。
ウィンドウの真っ白なベルベットの上に飾られていたのは、一本の短杖だった。
全体的に細身で優美な装飾が施されており、その先端には繊細に象られた可憐な花の意匠が飾られている。
花弁の中心には柔らかな光を帯びた魔導石が埋め込まれており、まるで周囲の空気を優しく包み込むような温かい光を微かに放っていた。
(……光属性の補助に適した魔導媒介。小柄な手にも馴染む完璧な重さとバランス。そして何より、リリアにあまりにも似合いすぎます)
セレフィアの頭の中で、冷徹なまでの分析と、彼女を喜ばせたいという深い愛着が同時に弾けた。
自分がアルヴィーノから特別な軍刀を授かったように、今度は自分がリリアーヌに特別なものを贈りたくなったのだ。
「セラ……? どうしたのですか、そんなにじっと見つめて……」
赤みが引かない顔のまま、不思議そうに覗き込んでくるリリアーヌの手に、セレフィアは静かに力を込めた。
「リリア。少し、店内に付き合っていただけますか?」
「え? ええ、もちろんですけれど……」
セレフィアは迷いのない足取りでリリアーヌを伴い、その店内へと歩みを進めるのだった。
重厚な扉をくぐり店内へと足を踏み入れると、そこには煌びやかな衣装を纏った貴族たちが集い、熱心に店員から宝飾品の説明を受けていた。
静けさと高級感の漂う空間に、小柄な少女二人組が入ってきたのだから目立たないはずがない。
身に纏う生地の上質さは一目で伝わるものの、その若さと子供らしい愛らしさに、周囲の大人たちから好奇と品定めが混ざった視線が一斉に注がれた。
「あ……」
貴族たちの不躾な視線に気おされたリリアーヌは、気後れして小さく身を縮めると、すがるようにセレフィアの腕にぎゅっと抱きついた。
身体を寄せて不安そうに見上げてくるリリアーヌの温もりに、セレフィアの瞳が一瞬だけ柔らかく揺れる。
しかし、周囲に向けられる視線はどこまでも冷ややかだった。
セレフィアは周囲のひそひそ話や刺さるような視線など一切気にも留めず、背筋をすっと伸ばした凛とした所作で歩みを進める。
抱きつかれた腕でリリアーヌの身体を優しく庇いながら、迷いなく中央のカウンターへと向かった。
カウンターの奥で構えていた店主らしき老紳士は、近づいてくる二人の放つ異様なまでの気品と、セレフィアの纏う隙のない雰囲気に息を呑んだ。
「いらっしゃいませ、お嬢様方。本日はどのような品をお探しで?」
セレフィアは澄み切った紫の瞳で静かに店主を見つめると、すべらかな動作で先ほど外から見えたウィンドウの短杖を指さした。
「ウィンドウに飾られている、あの花の形をした短杖をいただきたいのですが」
淡々と、しかし一点の揺らぎもない落ち着いた声が店内に響く。
子供扱いしようとしていた周囲の貴族たちも、その無駄のない洗練された立ち振る舞いに思わず言葉を失い、静まり返るのだった。
「お嬢様、お言葉ですが……あの短杖はこの店で最も価値のある逸品でして。並の貴族様でも手が出ないほどの代物にございます」
店主は困惑を隠せない様子で、怪訝そうに二人を見下ろした。
周囲の貴族たちからも「子供が買えるようなものではない」「見栄を張っているのだろう」と言いたげな、失笑混じりの囁き声が漏れ聞こえてくる。
リリアーヌは周りの視線にいたたまれなくなり、セレフィアの腕を一層強く握りしめた。
しかし、セレフィアは眉ひとつ動かさない。
自分に向けられる懐疑や蔑視の視線など、幼い頃から掃くほど浴びてきたものだ。
セレフィアは静かに一息つくと、澄み切った紫の瞳で店主を真っ直ぐに見据え、一切の感情を交えずに淡々と告げた。
「私はレイストール王国王弟殿下であり、この国の軍師たるアルヴィーノ・レイストールの娘ですが」
その一言が発せられた瞬間、店内の空気が凍りついた。
周囲で嘲笑っていた貴族たちの顔から一瞬で血の気が引き、静まり返る。
あの「慈悲なき軍師」の名を出されて、誰が疑うことができようか。
さらに、セレフィアが纏う隙のない立ち振る舞いと冷徹な雰囲気が、その言葉の正しさを何よりも雄弁に物語っていた。
「そして隣にいるのは、第一王子アルフレッド様の愛娘、リリアーヌ姫殿下です。……何か問題でも?」
「ひっ……! 申、申し訳ございません! 大変なお方を相手に失礼を仕かしました……っ!」
店主は顔を蒼白にし、膝を折らんばかりの勢いで頭を下げた。
周囲の貴族たちも慌てて下を向き、気配を消そうと縮こまっている。
セレフィアは特に咎める様子もなく、腰の金嚢からレイストール王家の紋章が刻まれた金貨を、必要十分な枚数だけ滑らかな動作でカウンターへ滑らせた。
「代金はこちらに。包む必要はありません。そのままリリアにお渡しください」
「は、はい! ただちに!」
震える手で差し出された短杖を受け取ったセレフィアは、クルリと振り返ると、驚きで目を丸くしているリリアーヌへ優しく手渡した。
先ほどまでの冷酷な空気は嘘のように消え去り、その瞳には甘い光が宿っている。
「リリア。どうぞ、私からの贈り物です」
「せ、セラ……! こんなに高価なものを……!」
戸惑いながらも、繊細な花の装飾が施された短杖を大切そうに胸に抱きしめるリリアーヌ。
そのあまりの可憐さに、セレフィアはふっと口元を緩め、耳元へと顔を寄せた。
「これで、お揃いですね。私が父上から刀をいただいたように……私のリリアには、私が一番似合う品を贈りたかったのです」
「〜〜〜〜っ! セラったら、また……っ!」
店内であることも忘れ、耳元で甘く囁かれたリリアーヌの顔は一気に真っ赤に沸騰した。
崩れ落ちそうになる彼女の腰を、セレフィアは手慣れた動作でそっと支え、満足そうに微笑むのだった。
先ほどの出来事の余韻を少し引きずりつつも、繋いだ手の温もりにリリアーヌは小さく胸を躍らせる。
ふと、隣を歩くセレフィアの腰元に視線を落としたリリアーヌは、見慣れない漆黒の鞘に気づいて声を上げた。
「そういえば……セラ、その軍刀は新しいものではありませんか?」
「ええ。父上からいただいたものです。私に合わせて誂えられたもののようで、非常に扱いやすいですよ」
「アルヴィーノ様から……! とても綺麗で、セラの雰囲気にぴったりですね」
ほくほくとした顔で呟いたリリアーヌは、ふと思いついたように首を傾げた。
「ちなみに、この刀には何という名前がついているのですか?」
「名前、ですか?」
セレフィアは一瞬だけ紫の瞳を丸くし、それから不思議そうに刃の柄へと視線を落とした。
武器をただの道具や手段として捉えていた彼女にとって、刀に名前をつけるという発想自体がなかったのだ。
「特にありませんね。刀は刀ですので」
「まあ、そうだったのですね……」
どこか寂しそうにしたリリアーヌだったが、次の瞬間にはぱっと表情を明るくさせ、期待に満ちた目でセレフィアを見つめた。
繋いだ手にキュッと力を込める。
「ねえ、セラ! それなら……私にその刀の名前をつけさせていただけませんか?」
「リリアが、ですか?」
「はい! セラの大切な護り刀に、私から名前を贈りたいのです。……ダメ、でしょうか?」
少し上目遣いに、上気した頬でお願いしてくるリリアーヌ。
その可愛らしさと健気さに胸を突かれたセレフィアは、断る選択肢など最初から持っていなかった。
「……ダメなわけがありません。貴女がつけてくれるのなら、これ以上のものはありませんよ」
「本当ですか! ふふ、嬉しいです!」
「では、どのような名前にしますか?」
セレフィアが優しく尋ねると、リリアーヌは「うーん」と可愛らしく唸りながら、真剣な顔で考え込み始めた。
「セラを象徴するような、冷たくて美しい名前……それから、私を守ってくれる温かい想いも込められたような名前が良いです。うふふ、なんだか責任重大ですね!」
楽しそうに目を輝かせるリリアーヌの横顔を眺めながら、セレフィアは繋いだ手を少しだけ強く握り返した。
「焦る必要はありませんよ。買い物をしながら、ゆっくり考えてください」
「はい! セラに一番お似合いになる素敵な名前を考えますね!」
嬉しそうに微笑むリリアーヌの姿に、セレフィアの胸の奥にも柔らかくて甘い熱がじんわりと広がっていくのだった。
きらびやかな装飾が施されたウィンドウが並ぶ商店街で、リリアーヌはまるで幼子のように目を輝かせていた。
「セラ、見てください! あのリボン、すごく可愛いです! あ、こちらのガラス細工のお花もとっても素敵……!」
パステルカラーのドレスを揺らしながら、次々と目につくものを指さして無邪気に笑うリリアーヌ。
その隣を歩くセレフィアは、繋いだ手の温もりを感じながら、愛おしさに満ちた眼差しで彼女の横顔を見つめていた。
「ええ、とても素敵ですね。ですが……」
セレフィアはすっと足を止めると、リリアーヌの手を少しだけ自分の方へと引き寄せた。
ふいに距離が縮まり、驚いて振り向いたリリアーヌの耳元へ、低く甘い声を滑り込ませる。
「私にとっては、そうやって楽しそうに目を輝かせているリリアの方が、何倍も可愛らしいですよ」
「〜〜〜〜っ!?」
不意打ちの甘い攻めに、リリアーヌの顔は一瞬で熟したリンゴのように真っ赤に染まった。
キャパシティオーバーを起こしかけ、口をパクパクとさせながら自分の頬を両手で押さえる。
「も、もう……! セラはすぐそうやって、私を惑わすのですから……っ!」
「ふふ、本当のこと言っただけですよ」
寸止めで限界ギリギリの赤面状態を楽しむセレフィア。
そんな微笑ましいやり取りの途中、ふとセレフィアの澄んだ紫の瞳がある高級宝飾店のウィンドウに留まった。
ウィンドウの真っ白なベルベットの上に飾られていたのは、一本の短杖だった。
全体的に細身で優美な装飾が施されており、その先端には繊細に象られた可憐な花の意匠が飾られている。
花弁の中心には柔らかな光を帯びた魔導石が埋め込まれており、まるで周囲の空気を優しく包み込むような温かい光を微かに放っていた。
(……光属性の補助に適した魔導媒介。小柄な手にも馴染む完璧な重さとバランス。そして何より、リリアにあまりにも似合いすぎます)
セレフィアの頭の中で、冷徹なまでの分析と、彼女を喜ばせたいという深い愛着が同時に弾けた。
自分がアルヴィーノから特別な軍刀を授かったように、今度は自分がリリアーヌに特別なものを贈りたくなったのだ。
「セラ……? どうしたのですか、そんなにじっと見つめて……」
赤みが引かない顔のまま、不思議そうに覗き込んでくるリリアーヌの手に、セレフィアは静かに力を込めた。
「リリア。少し、店内に付き合っていただけますか?」
「え? ええ、もちろんですけれど……」
セレフィアは迷いのない足取りでリリアーヌを伴い、その店内へと歩みを進めるのだった。
重厚な扉をくぐり店内へと足を踏み入れると、そこには煌びやかな衣装を纏った貴族たちが集い、熱心に店員から宝飾品の説明を受けていた。
静けさと高級感の漂う空間に、小柄な少女二人組が入ってきたのだから目立たないはずがない。
身に纏う生地の上質さは一目で伝わるものの、その若さと子供らしい愛らしさに、周囲の大人たちから好奇と品定めが混ざった視線が一斉に注がれた。
「あ……」
貴族たちの不躾な視線に気おされたリリアーヌは、気後れして小さく身を縮めると、すがるようにセレフィアの腕にぎゅっと抱きついた。
身体を寄せて不安そうに見上げてくるリリアーヌの温もりに、セレフィアの瞳が一瞬だけ柔らかく揺れる。
しかし、周囲に向けられる視線はどこまでも冷ややかだった。
セレフィアは周囲のひそひそ話や刺さるような視線など一切気にも留めず、背筋をすっと伸ばした凛とした所作で歩みを進める。
抱きつかれた腕でリリアーヌの身体を優しく庇いながら、迷いなく中央のカウンターへと向かった。
カウンターの奥で構えていた店主らしき老紳士は、近づいてくる二人の放つ異様なまでの気品と、セレフィアの纏う隙のない雰囲気に息を呑んだ。
「いらっしゃいませ、お嬢様方。本日はどのような品をお探しで?」
セレフィアは澄み切った紫の瞳で静かに店主を見つめると、すべらかな動作で先ほど外から見えたウィンドウの短杖を指さした。
「ウィンドウに飾られている、あの花の形をした短杖をいただきたいのですが」
淡々と、しかし一点の揺らぎもない落ち着いた声が店内に響く。
子供扱いしようとしていた周囲の貴族たちも、その無駄のない洗練された立ち振る舞いに思わず言葉を失い、静まり返るのだった。
「お嬢様、お言葉ですが……あの短杖はこの店で最も価値のある逸品でして。並の貴族様でも手が出ないほどの代物にございます」
店主は困惑を隠せない様子で、怪訝そうに二人を見下ろした。
周囲の貴族たちからも「子供が買えるようなものではない」「見栄を張っているのだろう」と言いたげな、失笑混じりの囁き声が漏れ聞こえてくる。
リリアーヌは周りの視線にいたたまれなくなり、セレフィアの腕を一層強く握りしめた。
しかし、セレフィアは眉ひとつ動かさない。
自分に向けられる懐疑や蔑視の視線など、幼い頃から掃くほど浴びてきたものだ。
セレフィアは静かに一息つくと、澄み切った紫の瞳で店主を真っ直ぐに見据え、一切の感情を交えずに淡々と告げた。
「私はレイストール王国王弟殿下であり、この国の軍師たるアルヴィーノ・レイストールの娘ですが」
その一言が発せられた瞬間、店内の空気が凍りついた。
周囲で嘲笑っていた貴族たちの顔から一瞬で血の気が引き、静まり返る。
あの「慈悲なき軍師」の名を出されて、誰が疑うことができようか。
さらに、セレフィアが纏う隙のない立ち振る舞いと冷徹な雰囲気が、その言葉の正しさを何よりも雄弁に物語っていた。
「そして隣にいるのは、第一王子アルフレッド様の愛娘、リリアーヌ姫殿下です。……何か問題でも?」
「ひっ……! 申、申し訳ございません! 大変なお方を相手に失礼を仕かしました……っ!」
店主は顔を蒼白にし、膝を折らんばかりの勢いで頭を下げた。
周囲の貴族たちも慌てて下を向き、気配を消そうと縮こまっている。
セレフィアは特に咎める様子もなく、腰の金嚢からレイストール王家の紋章が刻まれた金貨を、必要十分な枚数だけ滑らかな動作でカウンターへ滑らせた。
「代金はこちらに。包む必要はありません。そのままリリアにお渡しください」
「は、はい! ただちに!」
震える手で差し出された短杖を受け取ったセレフィアは、クルリと振り返ると、驚きで目を丸くしているリリアーヌへ優しく手渡した。
先ほどまでの冷酷な空気は嘘のように消え去り、その瞳には甘い光が宿っている。
「リリア。どうぞ、私からの贈り物です」
「せ、セラ……! こんなに高価なものを……!」
戸惑いながらも、繊細な花の装飾が施された短杖を大切そうに胸に抱きしめるリリアーヌ。
そのあまりの可憐さに、セレフィアはふっと口元を緩め、耳元へと顔を寄せた。
「これで、お揃いですね。私が父上から刀をいただいたように……私のリリアには、私が一番似合う品を贈りたかったのです」
「〜〜〜〜っ! セラったら、また……っ!」
店内であることも忘れ、耳元で甘く囁かれたリリアーヌの顔は一気に真っ赤に沸騰した。
崩れ落ちそうになる彼女の腰を、セレフィアは手慣れた動作でそっと支え、満足そうに微笑むのだった。