氷の騎士に、白百合の恋を
アルヴィーノは手にした本を脇に抱え直すと、二人に向けていつもの淡々とした調子で事の経緯を語り始めた。
「状況を整理しましょう。セレフィアは以前、私が戦場から拾い上げて育てた戦災孤児です。そしてリリアーヌ姫は、兄上が拾ってきた元修道女見習いとなります。したがって、セレフィアは形式上ルインの妹であり、リリアーヌ姫はレオの妹という位置づけになります」
「へえぇっ! そうだったんだ!」
何ひとつ疑うことを知らない純朴なルインは、父の言葉をそのまま百パーセント呑み込み、目を輝かせた。
一切の邪気がない顔でセレフィアへと歩み寄ると、親しみやすさ満点の笑顔で勢いよく手を差し出す。
「よろしくね、セレフィア! 急に驚かせちゃってごめんね。俺が兄のルインだよ!」
セレフィアは抱きかかえていたリリアーヌをそっと支えたまま、差し出された手を冷ややかな紫の瞳で見つめた。
しかし、ルインの瞳に敵意も下心もなく、ただ純粋な善意しか入っていないことを瞬時に見抜くと、無駄のない所作でその手を軽く握り返した。
「……はい、よろしくお願いいたします、ルイン兄様」
「えへへ、妹ができるなんて嬉しいな!」
無邪気に喜ぶルインの横で、ヴォルフラムだけは苦々しい顔でこめかみを押さえていた。
「おいおい……軍師サマ、色々とツッコミどころが多すぎるだろ。戦場から拾った孤児がなんでそんな軍服着て、氷の魔法で部屋ごと凍らせかけんだよ。第一、そのお嬢ちゃんもただの元修道女にしては……」
「ヴォルフラム。それ以上の追求は無用です。必要な事実は伝えた通りです」
アルヴィーノに冷ややかな一言で遮られ、ヴォルフラムは「チッ」と舌を鳴らして諦めるように肩をすくめた。
王族特有の複雑な事情には深入りしないのが身のためだと、野生の勘が告げていたからだ。
「セラ……ルイン様たち、驚かせてしまってごめんなさい……」
ようやく熱を冷ましたリリアーヌが、セレフィアの腕の中からおずおずと顔を覗かせた。
「謝る必要はありませんよ、リリア。……それよりルイン兄様」
セレフィアはルインへ向き直ると、不敵な笑みを口元に浮かべ、低く甘い声で言葉を継いだ。
「見ての通り、私はリリアと大切な時間を過ごしていたところです。……邪魔をしないでいただけますか?」
「〜〜〜っ! セラ、またそういう言い方をする……っ!」
耳元で言われたわけでもないのに、その醸し出される色気に当てられ、リリアーヌの顔は再びリンゴのように真っ赤に染まっていく。
「あ、あはは……ごめんね、お邪魔虫は退散するね!」
二人の空間に充満する強烈な甘さと、妹の底知れない雰囲気に気圧されたルインは、引きつった笑顔で後ずさった。
「おいルイン、行くぞ。ここに居たら毒気が移る」
ヴォルフラムに首根っこを掴まれるようにして、ルインは図書室を後にした。
残されたアルヴィーノは、呆れたように小さく息を吐きながら本棚へと歩き出すのだった。
本棚へ静かに本を戻しているアルヴィーノのもとへ、セレフィアはすっかり落ち着きを取り戻したリリアーヌの手に優しく添えながら歩み寄った。
「父上」
「なんですか、セレフィア」
アルヴィーノは背を向けたまま、淡々と返事をする。
「先ほどのルイン兄様が兄であることは理解いたしました。ですが、隣にいたあの粗暴な男は何者なのですか? 立ち振る舞いにも品がなく、刃物のような気配を纏っていましたが」
感情の起伏を感じさせない静かな声で尋ねるセレフィアに対し、アルヴィーノは最後の冊子を棚に収めると、ゆっくりと振り返った。
「彼の名はヴォルフラム。かつて没落した大貴族の長男ですが、紆余曲折あって闇オークションの売り物になっていた男です。それをルインが見つけ出し、自らの専属護衛として連れ帰ってきました」
「闇オークション……」
リリアーヌが驚きで小さく息を呑む。
アルヴィーノは至極当然のことのように言葉を続けた。
「ちなみに、彼はルインの恋人ですよ」
その淡々とした事実告白に、セレフィアは一瞬だけ紫の瞳を丸くした。
だが、すぐに納得したように小さく頷く。
「……なるほど。このお城は、同性同士の恋人が多いのですね」
「セラ……ッ!?」
何でもないことのように口にしたセレフィアの言葉に、リリアーヌは再び顔を真っ赤にして叫んだ。
自分たちのことを暗に指されているのだと気づき、慌ててセレフィアの袖を引っ張る。
「な、何を言っているのですか、セラ! 私たちは、その……っ」
「何かおかしなことを言いましたか、リリア? 私と貴女も同じでしょう」
澄み切った瞳でまっすぐに見つめ返され、耳元で甘く囁かれたリリアーヌは、言葉を失って「〜〜〜っ!」と口をパクパクとさせるばかりだ。
「……まったく、余計なことを言うものではありませんね」
そんな二人の様子を冷ややかな視線で見下ろしながら、アルヴィーノは呆れたように短く息を吐き、静まり返った図書室を後にするのだった。
「状況を整理しましょう。セレフィアは以前、私が戦場から拾い上げて育てた戦災孤児です。そしてリリアーヌ姫は、兄上が拾ってきた元修道女見習いとなります。したがって、セレフィアは形式上ルインの妹であり、リリアーヌ姫はレオの妹という位置づけになります」
「へえぇっ! そうだったんだ!」
何ひとつ疑うことを知らない純朴なルインは、父の言葉をそのまま百パーセント呑み込み、目を輝かせた。
一切の邪気がない顔でセレフィアへと歩み寄ると、親しみやすさ満点の笑顔で勢いよく手を差し出す。
「よろしくね、セレフィア! 急に驚かせちゃってごめんね。俺が兄のルインだよ!」
セレフィアは抱きかかえていたリリアーヌをそっと支えたまま、差し出された手を冷ややかな紫の瞳で見つめた。
しかし、ルインの瞳に敵意も下心もなく、ただ純粋な善意しか入っていないことを瞬時に見抜くと、無駄のない所作でその手を軽く握り返した。
「……はい、よろしくお願いいたします、ルイン兄様」
「えへへ、妹ができるなんて嬉しいな!」
無邪気に喜ぶルインの横で、ヴォルフラムだけは苦々しい顔でこめかみを押さえていた。
「おいおい……軍師サマ、色々とツッコミどころが多すぎるだろ。戦場から拾った孤児がなんでそんな軍服着て、氷の魔法で部屋ごと凍らせかけんだよ。第一、そのお嬢ちゃんもただの元修道女にしては……」
「ヴォルフラム。それ以上の追求は無用です。必要な事実は伝えた通りです」
アルヴィーノに冷ややかな一言で遮られ、ヴォルフラムは「チッ」と舌を鳴らして諦めるように肩をすくめた。
王族特有の複雑な事情には深入りしないのが身のためだと、野生の勘が告げていたからだ。
「セラ……ルイン様たち、驚かせてしまってごめんなさい……」
ようやく熱を冷ましたリリアーヌが、セレフィアの腕の中からおずおずと顔を覗かせた。
「謝る必要はありませんよ、リリア。……それよりルイン兄様」
セレフィアはルインへ向き直ると、不敵な笑みを口元に浮かべ、低く甘い声で言葉を継いだ。
「見ての通り、私はリリアと大切な時間を過ごしていたところです。……邪魔をしないでいただけますか?」
「〜〜〜っ! セラ、またそういう言い方をする……っ!」
耳元で言われたわけでもないのに、その醸し出される色気に当てられ、リリアーヌの顔は再びリンゴのように真っ赤に染まっていく。
「あ、あはは……ごめんね、お邪魔虫は退散するね!」
二人の空間に充満する強烈な甘さと、妹の底知れない雰囲気に気圧されたルインは、引きつった笑顔で後ずさった。
「おいルイン、行くぞ。ここに居たら毒気が移る」
ヴォルフラムに首根っこを掴まれるようにして、ルインは図書室を後にした。
残されたアルヴィーノは、呆れたように小さく息を吐きながら本棚へと歩き出すのだった。
本棚へ静かに本を戻しているアルヴィーノのもとへ、セレフィアはすっかり落ち着きを取り戻したリリアーヌの手に優しく添えながら歩み寄った。
「父上」
「なんですか、セレフィア」
アルヴィーノは背を向けたまま、淡々と返事をする。
「先ほどのルイン兄様が兄であることは理解いたしました。ですが、隣にいたあの粗暴な男は何者なのですか? 立ち振る舞いにも品がなく、刃物のような気配を纏っていましたが」
感情の起伏を感じさせない静かな声で尋ねるセレフィアに対し、アルヴィーノは最後の冊子を棚に収めると、ゆっくりと振り返った。
「彼の名はヴォルフラム。かつて没落した大貴族の長男ですが、紆余曲折あって闇オークションの売り物になっていた男です。それをルインが見つけ出し、自らの専属護衛として連れ帰ってきました」
「闇オークション……」
リリアーヌが驚きで小さく息を呑む。
アルヴィーノは至極当然のことのように言葉を続けた。
「ちなみに、彼はルインの恋人ですよ」
その淡々とした事実告白に、セレフィアは一瞬だけ紫の瞳を丸くした。
だが、すぐに納得したように小さく頷く。
「……なるほど。このお城は、同性同士の恋人が多いのですね」
「セラ……ッ!?」
何でもないことのように口にしたセレフィアの言葉に、リリアーヌは再び顔を真っ赤にして叫んだ。
自分たちのことを暗に指されているのだと気づき、慌ててセレフィアの袖を引っ張る。
「な、何を言っているのですか、セラ! 私たちは、その……っ」
「何かおかしなことを言いましたか、リリア? 私と貴女も同じでしょう」
澄み切った瞳でまっすぐに見つめ返され、耳元で甘く囁かれたリリアーヌは、言葉を失って「〜〜〜っ!」と口をパクパクとさせるばかりだ。
「……まったく、余計なことを言うものではありませんね」
そんな二人の様子を冷ややかな視線で見下ろしながら、アルヴィーノは呆れたように短く息を吐き、静まり返った図書室を後にするのだった。