氷の騎士に、白百合の恋を
柔らかな陽光が差し込む図書室の窓辺で、リリアーヌは開いたままの本に目を落としながら、心の中で小さくため息をついていた。
恋人という特別な関係になってからというもの、彼女の日常はときめきと限界寸前の恥ずかしさで満ち溢れていた。
問題は、セレフィアがリリアーヌの反応を完全に把握し始めてしまったことだ。
一つ目の翻弄は、ほんの少し前の読書中に起きた。
隣に座っていたセレフィアが、ふと真顔でリリアーヌの手を包み込んだ。すべらかな指先が自然な動作で割り込み、優しく指を絡められる。それだけでリリアーヌの心臓は跳ね上がった。
「セラ、急にどうしたの」
赤くなる頬を隠そうと伏し目がちに尋ねると、セレフィアは澄んだ紫の瞳を静かに細め、耳元へと顔を寄せた。
「手を繋ぎたかっただけですよ。不快でしたか、リリア」
「不快なわけ、ないじゃない……」
愛称で呼ばれ、耳に届く低く甘い声に脳内が真っ白になりかける。
以前ならそのまま気絶していたところだが、セレフィアはすっと体を離し、「では、このままで」と満足そうに笑った。
彼女は、リリアーヌが倒れてしまわないギリギリの境目を完璧に理解し、寸止めで楽しんでいた。
二つ目の翻弄は、庭園での散歩中だった。
少し肌寒い風が吹いた瞬間、セレフィアが自身の羽織っていた上着をそっとリリアーヌの肩にかけた。
「あ、ありがとう。でもセラが寒くない?」
そう気遣うリリアーヌに対し、セレフィアは距離を詰め、上着の襟元を整えるふりをして顔を近づけた。
彼女の髪から漂う洗練された香りに、リリアーヌの思考が停止する。
「私の体温が恋しいなら、もっと近くに寄ってくださっても構いませんよ」
「〜〜〜っ!」
可憐な顔立ちから放たれる無自覚かつ意図的な攻めに、リリアーヌの顔は瞬時にリンゴのように染まった。
ここでもセレフィアは「これ以上は危険ですね」と察したように優しく背中を撫で、リリアーヌのパンクを防いでみせた。
(いつもやられっぱなしなんて、絶対に嫌……! 私の方が年上で、背だって高いんだから!)
悔しさに火がついたリリアーヌは、一発逆転の反撃を決意した。作戦は簡単だ。
不意打ちで大人っぽく抱きしめ、お姉さんらしく包み込んで驚かせるのだ。
ふたりきりの静かな室内に戻ったタイミングを見計らい、リリアーヌは息を整えた。
セレフィアが本棚から一冊の書物を取り出したその瞬間、意を決して踏み出す。
「セラ!」
背後からそっと両腕を回し、小さな肩をぎゅっと抱きしめた。
背の差を活かすように上から包み込み、耳元へ顔を寄せる。
「いつも守ってくれてありがとう。……私を、頼ってくれてもいいんだよ?」
完璧な仕上がりだったはずだ。
大人びた微笑みを浮かべ、ドヤ顔でセレフィアの反応を待つ。
一瞬、セレフィアの身体が微かに強張った。
勝った、とリリアーヌの胸が高鳴る。
しかし、その甘い期待は一秒と持たずに打ち砕かれた。
「ほう……」
セレフィアの口から漏れたのは、動揺ではなく、深く静かな感嘆の声だった。
セレフィアは腕の中でゆっくりと振り向き、驚くほどのしなやかさで立場を逆転させる。
包み込んでいたはずのリリアーヌの腰にすっとすべらかな手が回り、逆に引き寄せられた。
「リリア」
至近距離で、あの美しい紫の瞳がまっすぐに自分を射抜く。
少し見上げる形になっているにもかかわらず、醸し出される圧倒的な余裕と色気に、リリアーヌの息が止まった。
「そんな風に誘惑してくださるとは思いませんでした。……私をドキドキさせたかったのですか?」
「あ、う……」
「愛おしくて、どうにかなってしまいそうです」
低く囁かれた言葉と共に、セレフィアの指先がリリアーヌの頬を撫でる。その熱さに、リリアーヌの全神経がキャパシティを超えた。
「〜〜〜〜〜っ!」
顔全体が火がついたように熱くなり、反撃しようとしていた度胸は一瞬で蒸発した。
膝の力が抜け、へなへなと崩れ落ちそうになる身体を、セレフィアが手慣れた動作でしっかりと抱きとめる。
「おや。倒れない加減をしたつもりでしたが、少々攻めすぎてしまいましたか」
耳元でくすくすと楽しそうに笑うセレフィアの胸の中で、リリアーヌは沸騰した頭を抱えながら、幸福感と圧倒的な敗北感に悶絶するのだった。
恋人という特別な関係になってからというもの、彼女の日常はときめきと限界寸前の恥ずかしさで満ち溢れていた。
問題は、セレフィアがリリアーヌの反応を完全に把握し始めてしまったことだ。
一つ目の翻弄は、ほんの少し前の読書中に起きた。
隣に座っていたセレフィアが、ふと真顔でリリアーヌの手を包み込んだ。すべらかな指先が自然な動作で割り込み、優しく指を絡められる。それだけでリリアーヌの心臓は跳ね上がった。
「セラ、急にどうしたの」
赤くなる頬を隠そうと伏し目がちに尋ねると、セレフィアは澄んだ紫の瞳を静かに細め、耳元へと顔を寄せた。
「手を繋ぎたかっただけですよ。不快でしたか、リリア」
「不快なわけ、ないじゃない……」
愛称で呼ばれ、耳に届く低く甘い声に脳内が真っ白になりかける。
以前ならそのまま気絶していたところだが、セレフィアはすっと体を離し、「では、このままで」と満足そうに笑った。
彼女は、リリアーヌが倒れてしまわないギリギリの境目を完璧に理解し、寸止めで楽しんでいた。
二つ目の翻弄は、庭園での散歩中だった。
少し肌寒い風が吹いた瞬間、セレフィアが自身の羽織っていた上着をそっとリリアーヌの肩にかけた。
「あ、ありがとう。でもセラが寒くない?」
そう気遣うリリアーヌに対し、セレフィアは距離を詰め、上着の襟元を整えるふりをして顔を近づけた。
彼女の髪から漂う洗練された香りに、リリアーヌの思考が停止する。
「私の体温が恋しいなら、もっと近くに寄ってくださっても構いませんよ」
「〜〜〜っ!」
可憐な顔立ちから放たれる無自覚かつ意図的な攻めに、リリアーヌの顔は瞬時にリンゴのように染まった。
ここでもセレフィアは「これ以上は危険ですね」と察したように優しく背中を撫で、リリアーヌのパンクを防いでみせた。
(いつもやられっぱなしなんて、絶対に嫌……! 私の方が年上で、背だって高いんだから!)
悔しさに火がついたリリアーヌは、一発逆転の反撃を決意した。作戦は簡単だ。
不意打ちで大人っぽく抱きしめ、お姉さんらしく包み込んで驚かせるのだ。
ふたりきりの静かな室内に戻ったタイミングを見計らい、リリアーヌは息を整えた。
セレフィアが本棚から一冊の書物を取り出したその瞬間、意を決して踏み出す。
「セラ!」
背後からそっと両腕を回し、小さな肩をぎゅっと抱きしめた。
背の差を活かすように上から包み込み、耳元へ顔を寄せる。
「いつも守ってくれてありがとう。……私を、頼ってくれてもいいんだよ?」
完璧な仕上がりだったはずだ。
大人びた微笑みを浮かべ、ドヤ顔でセレフィアの反応を待つ。
一瞬、セレフィアの身体が微かに強張った。
勝った、とリリアーヌの胸が高鳴る。
しかし、その甘い期待は一秒と持たずに打ち砕かれた。
「ほう……」
セレフィアの口から漏れたのは、動揺ではなく、深く静かな感嘆の声だった。
セレフィアは腕の中でゆっくりと振り向き、驚くほどのしなやかさで立場を逆転させる。
包み込んでいたはずのリリアーヌの腰にすっとすべらかな手が回り、逆に引き寄せられた。
「リリア」
至近距離で、あの美しい紫の瞳がまっすぐに自分を射抜く。
少し見上げる形になっているにもかかわらず、醸し出される圧倒的な余裕と色気に、リリアーヌの息が止まった。
「そんな風に誘惑してくださるとは思いませんでした。……私をドキドキさせたかったのですか?」
「あ、う……」
「愛おしくて、どうにかなってしまいそうです」
低く囁かれた言葉と共に、セレフィアの指先がリリアーヌの頬を撫でる。その熱さに、リリアーヌの全神経がキャパシティを超えた。
「〜〜〜〜〜っ!」
顔全体が火がついたように熱くなり、反撃しようとしていた度胸は一瞬で蒸発した。
膝の力が抜け、へなへなと崩れ落ちそうになる身体を、セレフィアが手慣れた動作でしっかりと抱きとめる。
「おや。倒れない加減をしたつもりでしたが、少々攻めすぎてしまいましたか」
耳元でくすくすと楽しそうに笑うセレフィアの胸の中で、リリアーヌは沸騰した頭を抱えながら、幸福感と圧倒的な敗北感に悶絶するのだった。