氷の騎士に、白百合の恋を

夜会から数日後、自室の鏡の前でリリアーヌは深いため息をついていた。

「……おかしいのです」

両頬をぽんと叩き、うーんと頭を悩ませる。
最初は、セレフィアに自分を「特別な存在」として好きになってもらうために頑張っていたはずだった。
それなのに、日常のちょっとした仕草、勉強を教えてくれる時の優しさ、そして先日の夜会で見せた思わず息を呑むようなカッコよさ。
接触が増えれば増えるほど、一方的にリリアーヌの「好き」の気持ちが巨大化しているのだ。

(これじゃあ……本末転倒じゃないですか……っ!)

自分がどんどんセレフィアの底なし沼にハマっていっているだけで、セレフィア自身が自分のことをどう思っているのか、その歩幅は一向に見えてこない。
あの誠実で真っ直ぐな人は、「自分の気持ちに決着がつくまで」と言ってくれた。
ならば、その決着を「恋」へと傾けるためには、一体どうすればいいのだろう。

「守るべき対象……から、一歩進むには……」

リリアーヌはベッドの上に腰掛け、小さな顎に指を当ててう~んと熟考し始めた。
これまでのアピール、手を握る、上着の匂いを嗅ぐ、笑顔で褒めてもらう——は、どれも「可愛い妹」や「守るべき姫君」の延長線上で受け止められてしまっていた気がする。

(セラは真面目で、感情の分析を『課題』みたいに捉えちゃうところがあるから……もっとこう、セラの冷たい感情の計算を狂わせちゃうような……)

頭の中で、色々な作戦が巡る。
少しだけ距離を置いて焦らせてみる?
それとも、もっと大人っぽい仕草でドキッとさせてみる?
いや、いっそのこと「他の誰か」に親しくされたらどんな顔をするのか試してみる――?

(……ううん、他の男の人と話すなんて、絶対にセラが怒っちゃうか、リリア自身が耐えられません……っ!)

自爆する未来が見えて、即座にその案を却下する。

「うぅ……セラをドキドキさせるのって、なんでこんなに難しいのでしょうか……」

頭を抱えてベッドに倒れ込むリリアーヌ。
けれど、鏡に映る自分の顔は、困り果てつつもどこか幸せそうに華やいでいた。

(でも……絶対に諦めません。セラが『リリアなしじゃダメ』って言っちゃうくらい、リリアのことを好きにさせてみせます……っ!)

可憐な姫君は、大好きな彼女の理性と冷徹な計算を攻略するための「次の一手」を企てるべく、拳をキュッと握りしめるのだった。
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