氷の騎士に、白百合の恋を

レイストール公邸の静かな一室。
鍛錬を終えて一息ついていたセレフィアは、ふと思い立ったように、お茶を淹れてくれていたルミへ視線を向けた。

「母上、一つお聞きしてもよろしいでしょうか」
「ん? なに、セラ?」

ルミが楽しそうに首をかしげ、水色の髪を揺らす。
セレフィアは自分の紫の瞳を少しだけ瞬かせながら、胸の中に抱いていた小さな疑問を口にした。

「……愛称とは、一体どのようなものなのでしょうか」
「愛称?」
「はい。母上は私のことを『セラ』とお呼びになりますし、リリアーヌ様のお名前を『リリアちゃん』とお呼びになります。ですが、正式なお名前はセレフィアであり、リリアーヌ様です。名前で呼ぶことと、愛称で呼ぶことには、どのような違いがあるのでしょうか」

真面目な顔で尋ねるセレフィア。
戦場で育ち、無駄のない言葉遣いと規律の中で生きてきた彼女にとって、親しみを込めて名前を短くしたり崩したりする『愛称』という概念は、まだ少し不思議なものだった。
ルミはカップをテーブルに置くと、パッと表情を和らげ、温かい瞳でセレフィアを見つめた。

「ふふ、なるほどねぇ。そうだね……愛称っていうのはね、セラ。『その人のことが大好きで、もっと近くに感じたい』っていう気持ちを込めて呼ぶ特別な名前のことなんだよ」
「大好きな気持ちを込めて……ですか」
「そう。名前っていうのは、その人を区別するためのものだけど、愛称はね……『あなたと私はこんなに仲良しなんだよ』っていう、言葉のプレゼントみたいなものなんだ」

ルミはそっとセレフィアの頭に手を置き、優しく撫でた。

「俺がセラのことを『セラ』って呼ぶのはね、心の底から可愛くて、愛おしくて、俺の大切な娘だよって伝えたいからなんだ。ただ『セレフィア』って呼ぶよりも、うんと距離が近く感じるでしょ?」

セレフィアは、頭の上に置かれたルミの温かい手のひらの感触を確かめるように静かに目を閉じた。
言われてみれば、「セラ」と呼ばれるたび、胸の奥がじんわりと温かくなる感覚があった。

「そしてね、リリアちゃんのことだってそう。そのまま呼ぶのも丁寧で素敵だけど、愛称で呼ぶとお互いの心の距離が一気にキュッと縮まるんだよ。親愛の証、みたいなものかな」
「親愛の証……」

セレフィアは復唱し、そっと自分の左手小指の指輪を見つめた。

「……では、私がリリアーヌ様を愛称でお呼びすれば、リリアーヌ様との距離も、もっと縮まるのでしょうか」
「もちろん! セラから『リリア』って呼ばれたりしたら、リリアちゃん、嬉しくて飛び上がっちゃうかもしれないねぇ」

ルミが嬉しそうに目を細めてくすくすと笑う。
愛称に込められた意味と、それが与える温かい感情を理解したセレフィアは、ゆっくりとうなずいた。

「よく分かりました、母上。……愛称とは、とても温かいものなのですね」
「うん! だからセラも、大切な人にはどんどん愛称を使ってあげてね」
「はい」

真剣な表情で答えるセレフィアの心の中には、次にあの金髪碧眼の王女様と会ったときにどう呼ぶべきかという、新たな試みが芽生えつつあった。
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