氷の騎士に、白百合の恋を
翌日からのセレフィアの立ち居振る舞いは、目に見えて変わった。
母であるルミから「優しくしてあげてね」と言われた言葉を、セレフィアは持ち前の真面目さと完璧主義さで愚直に実行し始めたのだ。
「リリアーヌ様、足元にお気をつけください」
城の回廊を歩く際、セレフィアは常にリリアーヌの半歩前を歩き、優しく手を取りながら進む。
手袋越しに伝わる冷んやりとした心地よい体温と、力強い導き。
手をつながれるたびに、リリアーヌの胸はドキンと跳ね上がる。
「あ、ありがとう、セレフィアさん……」
照れくさそうにお礼を言うリリアーヌだが、セレフィアの「優しさ」はそれだけにとどまらなかった。
庭園のお散歩中、満開の花壇の横を通りかかったときのことだ。
一匹の大きな毛虫が、上方の枝からリリアーヌの頭上に落ちてこようとしていた。
リリアーヌが気づくよりも早く、セレフィアの澄んだ紫の瞳がわずかに細まる。
(……虫だ)
リリアーヌが極度の虫嫌いであることを記憶していたセレフィアは、表情一つ変えずに素早く指先を弾いた。
極小の氷片が目にも留まらぬ速さで空中で弾け、毛虫を音もなく氷漬けにして遥か遠くの草むらへと弾き飛ばす。
「……? セレフィアさん、何かありましたか?」
頭上でかすかに「チリッ」と冷気が弾けた気配を感じたリリアーヌが首をかしげると、セレフィアは至近距離でそっとリリアーヌの頬に手を添えた。
「いいえ。少し髪に風が触れただけです。……綺麗ですね、今日のお召し物も」
「ふぇっ……!?」
間近で見つめられる澄んだ瞳と、淡々としてはいるものの甘く聞こえてしまう言葉。
至近距離でのお触りに、リリアーヌは顔を真っ赤にして固まってしまった。
さらに、どこへ移動するにもセレフィアは「こちらへ」「階段があります」「風が冷たくなってきましたね」と声をかけ、甲斐甲斐しく手を取り、時にそっと背中に手を添えてエスコートする。
その立ち姿やエスコートの仕方は、師であるアルヴィーノに似て無駄がなく、恐ろしいほどに凛々しくてスマートだった。
軍服姿の美しい少女に、まるで物語の騎士様のように大切に扱われるたび、元修道女見習いの王女様の心臓は休む暇がない。
(な、なんでこんなに優しくしてくれるの……!? 手を握られるだけで、お顔が見られるだけで……胸が破裂しそう……!)
「リリアーヌ様? またお顔が赤いですが……やはりお風邪では」
「違いますー! 風邪じゃありませんっ!」
心配そうに顔を覗き込んでくるセレフィアの無自覚な格好良さに耐えきれず、リリアーヌは赤くなった顔を両手で隠しながら、またしてもパタパタと走り去ってしまうのだった。
それを見送るセレフィアは、そっと自分の手を見つめる。
「……手を取る力加減が強すぎただろうか。優しく接するのは、存外に難しいな」
自分の行動が、どれほど相手の心を乱し、甘いときめきを与えているのか。
完璧すぎる少女は、やはり微塵も気づいていないのだった。
母であるルミから「優しくしてあげてね」と言われた言葉を、セレフィアは持ち前の真面目さと完璧主義さで愚直に実行し始めたのだ。
「リリアーヌ様、足元にお気をつけください」
城の回廊を歩く際、セレフィアは常にリリアーヌの半歩前を歩き、優しく手を取りながら進む。
手袋越しに伝わる冷んやりとした心地よい体温と、力強い導き。
手をつながれるたびに、リリアーヌの胸はドキンと跳ね上がる。
「あ、ありがとう、セレフィアさん……」
照れくさそうにお礼を言うリリアーヌだが、セレフィアの「優しさ」はそれだけにとどまらなかった。
庭園のお散歩中、満開の花壇の横を通りかかったときのことだ。
一匹の大きな毛虫が、上方の枝からリリアーヌの頭上に落ちてこようとしていた。
リリアーヌが気づくよりも早く、セレフィアの澄んだ紫の瞳がわずかに細まる。
(……虫だ)
リリアーヌが極度の虫嫌いであることを記憶していたセレフィアは、表情一つ変えずに素早く指先を弾いた。
極小の氷片が目にも留まらぬ速さで空中で弾け、毛虫を音もなく氷漬けにして遥か遠くの草むらへと弾き飛ばす。
「……? セレフィアさん、何かありましたか?」
頭上でかすかに「チリッ」と冷気が弾けた気配を感じたリリアーヌが首をかしげると、セレフィアは至近距離でそっとリリアーヌの頬に手を添えた。
「いいえ。少し髪に風が触れただけです。……綺麗ですね、今日のお召し物も」
「ふぇっ……!?」
間近で見つめられる澄んだ瞳と、淡々としてはいるものの甘く聞こえてしまう言葉。
至近距離でのお触りに、リリアーヌは顔を真っ赤にして固まってしまった。
さらに、どこへ移動するにもセレフィアは「こちらへ」「階段があります」「風が冷たくなってきましたね」と声をかけ、甲斐甲斐しく手を取り、時にそっと背中に手を添えてエスコートする。
その立ち姿やエスコートの仕方は、師であるアルヴィーノに似て無駄がなく、恐ろしいほどに凛々しくてスマートだった。
軍服姿の美しい少女に、まるで物語の騎士様のように大切に扱われるたび、元修道女見習いの王女様の心臓は休む暇がない。
(な、なんでこんなに優しくしてくれるの……!? 手を握られるだけで、お顔が見られるだけで……胸が破裂しそう……!)
「リリアーヌ様? またお顔が赤いですが……やはりお風邪では」
「違いますー! 風邪じゃありませんっ!」
心配そうに顔を覗き込んでくるセレフィアの無自覚な格好良さに耐えきれず、リリアーヌは赤くなった顔を両手で隠しながら、またしてもパタパタと走り去ってしまうのだった。
それを見送るセレフィアは、そっと自分の手を見つめる。
「……手を取る力加減が強すぎただろうか。優しく接するのは、存外に難しいな」
自分の行動が、どれほど相手の心を乱し、甘いときめきを与えているのか。
完璧すぎる少女は、やはり微塵も気づいていないのだった。