氷の騎士に、白百合の恋を
レイストール公邸の一室。
鍛錬を終えたセレフィアが戻ると、そこにはすでに優雅なお茶の時間を楽しんでいるアルヴィーノとルミの姿があった。
「おかえり、セラ! 鍛錬お疲れ様。今日のおやつはセラの好きなものを作っておいたよ」
ルミが温かな笑みを浮かべ、テーブルに焼き立てのお菓子と紅茶を並べる。
漆黒の軍服を着たアルヴィーノも、紅茶のカップを傾けながら澄んだ紫の瞳をセレフィアへ向けた。
「無事に戻ったか。……何かあったような顔ですね」
「ただいま戻りました、父上、母上」
セレフィアは二人に向かってしっかりと一礼すると、椅子に腰掛けた。そして少しだけ眉をひそめ、首をかしげる。
「実は、鍛錬の後に庭園でリリアーヌ様とお会いしたのですが……少々心配なことがありまして」
「リリアちゃんが? どうしたの?」
ルミが目を丸くして身を乗り出す。
「顔が急に真っ赤になり、胸を押さえて取り乱していらっしゃいました。『熱があるのでは』とお顔を覗き込んで確認しようとしたのですが……突然『なんでもありません!』とおっしゃって、走り去ってしまわれて」
セレフィアは真面目な顔で、自分の左手小指にはめられたピンクゴールドの指輪にそっと触れた。
「指輪のお礼をお伝えし、少し微笑みかけただけなのですが……私の立ち居振る舞いや言動で、何か不快な思いをさせてしまったのでしょうか」
真剣に悩むセレフィアの様子を聞き、アルヴィーノとルミは一瞬沈黙した。
ルミはすぐにピンと来たようで、パッと表情を輝かせると、思わずクスッと小さく吹き出した。
「ふふっ、なるほどねぇ。セラ、それはね……」
「ルミ」
言いかけたたルミを、アルヴィーノが静かに制した。
アルヴィーノはカップをソーサーに置くと、どこか面白がるような、冷徹な軍師らしからぬかすかな笑みを唇に浮かべた。
「セレフィア。お前が不快にさせたわけではない。気に病む必要はない」
「……そうなのですか?」
「ああ。それは……急激な寒暖差に当てられたようなものです。お前が無自覚に放った光が、相手には眩しすぎたのでしょうね」
「寒暖差……光、ですか?」
アルヴィーノの独特な言い回しに、セレフィアは紫の瞳をパチクリとさせて首をかしげる。
ルミはそんな二人のやり取りを見て、お腹を押さえながらくすくすと笑った。
「アルヴィーノったら、意地悪な言い方して。要するにね、セラ。リリアちゃんはセラがかっこよくて素敵だから、照れちゃっただけだと思うよ」
「照れた……?」
「そうそう! セラは立ち姿もきりっとしていてかっこいいし、たまに見せる笑顔がすっごく綺麗だからね。リリアちゃん、胸がキュンとしてドキドキしちゃったんだよ」
ルミが嬉しそうに説明すると、セレフィアはますます不思議そうな顔をした。
戦場で育ち、アルヴィーノのもとで厳しい修練を重ねてきた彼女には、同年代の少女が寄せる「ときめき」という感情がまだ上手く理解できないようだった。
「……よく分かりませんが、私が嫌われたわけではないのなら、安心いたしました」
「うんうん、嫌われるどころか大好きだと思うよ! 今度会ったら、また優しくしてあげてね」
「はい、母上」
真面目にうなずくセレフィアの横顔を見ながら、ルミは楽しそうに頬を緩め、アルヴィーノは静かに紅茶を一口すすった。
自分たちが引き取った凛々しい娘が、無自覚なまま王女様の心を揺さぶっている様子を、二人は温かく、そして少しの面白がりつつ見守るのだった。
鍛錬を終えたセレフィアが戻ると、そこにはすでに優雅なお茶の時間を楽しんでいるアルヴィーノとルミの姿があった。
「おかえり、セラ! 鍛錬お疲れ様。今日のおやつはセラの好きなものを作っておいたよ」
ルミが温かな笑みを浮かべ、テーブルに焼き立てのお菓子と紅茶を並べる。
漆黒の軍服を着たアルヴィーノも、紅茶のカップを傾けながら澄んだ紫の瞳をセレフィアへ向けた。
「無事に戻ったか。……何かあったような顔ですね」
「ただいま戻りました、父上、母上」
セレフィアは二人に向かってしっかりと一礼すると、椅子に腰掛けた。そして少しだけ眉をひそめ、首をかしげる。
「実は、鍛錬の後に庭園でリリアーヌ様とお会いしたのですが……少々心配なことがありまして」
「リリアちゃんが? どうしたの?」
ルミが目を丸くして身を乗り出す。
「顔が急に真っ赤になり、胸を押さえて取り乱していらっしゃいました。『熱があるのでは』とお顔を覗き込んで確認しようとしたのですが……突然『なんでもありません!』とおっしゃって、走り去ってしまわれて」
セレフィアは真面目な顔で、自分の左手小指にはめられたピンクゴールドの指輪にそっと触れた。
「指輪のお礼をお伝えし、少し微笑みかけただけなのですが……私の立ち居振る舞いや言動で、何か不快な思いをさせてしまったのでしょうか」
真剣に悩むセレフィアの様子を聞き、アルヴィーノとルミは一瞬沈黙した。
ルミはすぐにピンと来たようで、パッと表情を輝かせると、思わずクスッと小さく吹き出した。
「ふふっ、なるほどねぇ。セラ、それはね……」
「ルミ」
言いかけたたルミを、アルヴィーノが静かに制した。
アルヴィーノはカップをソーサーに置くと、どこか面白がるような、冷徹な軍師らしからぬかすかな笑みを唇に浮かべた。
「セレフィア。お前が不快にさせたわけではない。気に病む必要はない」
「……そうなのですか?」
「ああ。それは……急激な寒暖差に当てられたようなものです。お前が無自覚に放った光が、相手には眩しすぎたのでしょうね」
「寒暖差……光、ですか?」
アルヴィーノの独特な言い回しに、セレフィアは紫の瞳をパチクリとさせて首をかしげる。
ルミはそんな二人のやり取りを見て、お腹を押さえながらくすくすと笑った。
「アルヴィーノったら、意地悪な言い方して。要するにね、セラ。リリアちゃんはセラがかっこよくて素敵だから、照れちゃっただけだと思うよ」
「照れた……?」
「そうそう! セラは立ち姿もきりっとしていてかっこいいし、たまに見せる笑顔がすっごく綺麗だからね。リリアちゃん、胸がキュンとしてドキドキしちゃったんだよ」
ルミが嬉しそうに説明すると、セレフィアはますます不思議そうな顔をした。
戦場で育ち、アルヴィーノのもとで厳しい修練を重ねてきた彼女には、同年代の少女が寄せる「ときめき」という感情がまだ上手く理解できないようだった。
「……よく分かりませんが、私が嫌われたわけではないのなら、安心いたしました」
「うんうん、嫌われるどころか大好きだと思うよ! 今度会ったら、また優しくしてあげてね」
「はい、母上」
真面目にうなずくセレフィアの横顔を見ながら、ルミは楽しそうに頬を緩め、アルヴィーノは静かに紅茶を一口すすった。
自分たちが引き取った凛々しい娘が、無自覚なまま王女様の心を揺さぶっている様子を、二人は温かく、そして少しの面白がりつつ見守るのだった。