氷の騎士に、白百合の恋を
賑やかな活気に満ちた城下町。
石畳の通りには多様な店が軒を連ね、色彩豊かな商品が並んでいた。
「セラ、あれはどうかな? こっちの可愛いリボンも似合いそうだよ!」
ルミは目を輝かせながら、店先に飾られた小物や服飾品を指差し、あちこちのショーウィンドウへ弾むような足取りで駆け寄っていく。
その後に静かに付き従うセレフィアは、自身の装いには一切の無頓着であった。
動きやすい服装であれば何でも良く、自らのために物を買い求めるという欲求そのものが欠落している。
「母上、私の物は特に必要ありませんよ。装飾品や私服は十分いただいておりますし……」
「そんなこと言わないの! 今日はせっかく二人でお出かけに来たんだから、セラの『好き』を一緒にお探し中なんだからね」
そう言って楽しそうに店を覗き込むルミの背中を、セレフィアは困惑と温もりを交えた眼差しで見つめていた。
己の存在をただの道具ではなく、一人の娘として慈しんでくれる母の熱意を無下にする気にはなれなかった。
そんな二人の様子を遠くから見咎め、近づいてくる影があった。
「おや、ルミにぃではありませんか。このような場所でお会いするとは珍しいですね」
崩れることのない丁寧な微笑みをたたえ、穏やかな声で声をかけてきたのはレオであった。
プラチナブロンドの髪に新緑の瞳を輝かせた彼は、その隣に可憐な少女を伴っている。
「……あ、セレフィアさん!」
レオの手を引かれるようにして歩いていたリリアーヌが、セレフィアの姿を認めるやいなや、パッと表情を明るくさせた。
「ルミお兄ちゃん! レオ兄様、見て! 昨日お助けいただいたセレフィアさんだよ!」
リリアーヌは胸の前で両手をギュッと握りしめ、嬉しさを隠しきれない様子で身を乗り出す。
意図せぬ形での再会に、セレフィアは無表情のまま姿勢を正し、レオとリリアーヌに向けて静かに、そして洗練された一礼を捧げるのだった。
昨日の冷冽な軍装姿しか目にしてこなかったリリアーヌにとって、繊細なレースとフリルに身を包んだ現在のセレフィアの姿は、あまりにも鮮烈で可憐な驚きであった。
「……! セレフィアさん、女の子だったのですね……!」
リリアーヌは翠色の瞳を爛々と輝かせると、弾むような足取りで歩み寄り、セレフィアの小さな両手をそっと包み込んだ。
昨日の凛とした佇まいとは異なる柔らかさに、心からの親近感を膨らませる。
「昨日のお礼をさせてください。私、どうしてもセレフィアさんにお返しがしたいのです……!」
まっすぐな情熱を込めて語りかけると、リリアーヌは振り返り、控えている二人の青年へと向け、すがるように視線を送った。
「ルミお兄ちゃん、レオ兄様。いいでしょう? セレフィアさんと一緒に、お礼のお買い物をご一緒しても……!」
可憐な妹の願いに、ルミは目元を細めて柔らかく頷いた。
「もちろん良いよ。セラにとっても、きっと素敵な思い出になるからね」
「ええ、リリアがそう望むのであれば、私に拒む理由はありません」
レオもまた、崩れることのない丁寧な笑みをたたえたまま静かに承諾した。
二人の許可を得て、リリアーヌは嬉しそうに胸を躍らせたが、手を取られた当のセレフィアは、申し訳なさそうに僅かに眉をひそめていた。
「……リリアーヌ殿下。昨日の件は、公邸に身を置く者としての当然の処置に過ぎません。私のような者が、そのようなお気遣いをいただく必要はないのです」
自己の存在を誇らず、過度な恩義を受けることに困惑を示す紫の瞳。
しかし、その頑なな遠慮を目の当たりにしてもなお、リリアーヌは包み込んだ手を離そうとはせず、眩いほどの微笑みを返したのだった。
「さあ、行きましょう、セレフィアさん!」
弾んだ声とともに、リリアーヌはぎゅっと握ったセレフィアの手をそのまま引っ張り、軽やかに走り出した。
自分と同年代の少女が身近にいたという高揚感と、昨日助けられた感謝を伝えたい一心で、その胸は躍っていた。
「あっ……リリアーヌ殿下、お待ちください……!」
不意を突かれたセレフィアは、軍装の時のような無駄のない身構えをとる暇もなく、前傾姿勢のまま引きずられるように足を踏み出す。
過酷な訓練で鍛えた身体能力をもってしても、純粋な好意と熱量で突き進む少女の勢いを止めることはできなかった。
「見てください、あちらのお店にとても可愛らしい刺繍のリボンがありますよ! あ、あっちのお菓子屋さんも素敵です!」
テンションの上がったリリアーヌには、背後で聞こえるセレフィアの困惑に満ちた声が届いていないようだった。
あっちへ、こっちへと花畑を飛び回る蝶のように目移りしながら、セレフィアをぐいぐいと連れ回していく。
「あ……そこは……っ」
これまで刺客の襲撃や過酷な戦場、アルヴィーノの厳しい指導にも一切動じなかったセレフィアが、生まれて初めての波に呑まれ、紫の瞳をめまぐるしく泳がせていた。
「ふふ、楽しそうだね。セラがこんなに誰かに振り回されているの、初めて見たよ」
二人の後を追うルミは、目元を和ませながら嬉しそうに微笑んだ。
「ええ。リリアがこれほど無邪気に同世代の相手と接している姿も、珍しいことです。……静観する価値はありそうですね」
隣を歩くレオもまた、崩れぬ笑みをたたえたまま静かに一歩を刻む。
石畳の街並みの中、光を纏う金髪の少女と、困惑しながら引きずられる氷の少女。
対照的な二人の賑やかな背中を、二人の青年はあたたかく見守りながら、ゆっくりと追いかけていくのだった。
石畳の通りには多様な店が軒を連ね、色彩豊かな商品が並んでいた。
「セラ、あれはどうかな? こっちの可愛いリボンも似合いそうだよ!」
ルミは目を輝かせながら、店先に飾られた小物や服飾品を指差し、あちこちのショーウィンドウへ弾むような足取りで駆け寄っていく。
その後に静かに付き従うセレフィアは、自身の装いには一切の無頓着であった。
動きやすい服装であれば何でも良く、自らのために物を買い求めるという欲求そのものが欠落している。
「母上、私の物は特に必要ありませんよ。装飾品や私服は十分いただいておりますし……」
「そんなこと言わないの! 今日はせっかく二人でお出かけに来たんだから、セラの『好き』を一緒にお探し中なんだからね」
そう言って楽しそうに店を覗き込むルミの背中を、セレフィアは困惑と温もりを交えた眼差しで見つめていた。
己の存在をただの道具ではなく、一人の娘として慈しんでくれる母の熱意を無下にする気にはなれなかった。
そんな二人の様子を遠くから見咎め、近づいてくる影があった。
「おや、ルミにぃではありませんか。このような場所でお会いするとは珍しいですね」
崩れることのない丁寧な微笑みをたたえ、穏やかな声で声をかけてきたのはレオであった。
プラチナブロンドの髪に新緑の瞳を輝かせた彼は、その隣に可憐な少女を伴っている。
「……あ、セレフィアさん!」
レオの手を引かれるようにして歩いていたリリアーヌが、セレフィアの姿を認めるやいなや、パッと表情を明るくさせた。
「ルミお兄ちゃん! レオ兄様、見て! 昨日お助けいただいたセレフィアさんだよ!」
リリアーヌは胸の前で両手をギュッと握りしめ、嬉しさを隠しきれない様子で身を乗り出す。
意図せぬ形での再会に、セレフィアは無表情のまま姿勢を正し、レオとリリアーヌに向けて静かに、そして洗練された一礼を捧げるのだった。
昨日の冷冽な軍装姿しか目にしてこなかったリリアーヌにとって、繊細なレースとフリルに身を包んだ現在のセレフィアの姿は、あまりにも鮮烈で可憐な驚きであった。
「……! セレフィアさん、女の子だったのですね……!」
リリアーヌは翠色の瞳を爛々と輝かせると、弾むような足取りで歩み寄り、セレフィアの小さな両手をそっと包み込んだ。
昨日の凛とした佇まいとは異なる柔らかさに、心からの親近感を膨らませる。
「昨日のお礼をさせてください。私、どうしてもセレフィアさんにお返しがしたいのです……!」
まっすぐな情熱を込めて語りかけると、リリアーヌは振り返り、控えている二人の青年へと向け、すがるように視線を送った。
「ルミお兄ちゃん、レオ兄様。いいでしょう? セレフィアさんと一緒に、お礼のお買い物をご一緒しても……!」
可憐な妹の願いに、ルミは目元を細めて柔らかく頷いた。
「もちろん良いよ。セラにとっても、きっと素敵な思い出になるからね」
「ええ、リリアがそう望むのであれば、私に拒む理由はありません」
レオもまた、崩れることのない丁寧な笑みをたたえたまま静かに承諾した。
二人の許可を得て、リリアーヌは嬉しそうに胸を躍らせたが、手を取られた当のセレフィアは、申し訳なさそうに僅かに眉をひそめていた。
「……リリアーヌ殿下。昨日の件は、公邸に身を置く者としての当然の処置に過ぎません。私のような者が、そのようなお気遣いをいただく必要はないのです」
自己の存在を誇らず、過度な恩義を受けることに困惑を示す紫の瞳。
しかし、その頑なな遠慮を目の当たりにしてもなお、リリアーヌは包み込んだ手を離そうとはせず、眩いほどの微笑みを返したのだった。
「さあ、行きましょう、セレフィアさん!」
弾んだ声とともに、リリアーヌはぎゅっと握ったセレフィアの手をそのまま引っ張り、軽やかに走り出した。
自分と同年代の少女が身近にいたという高揚感と、昨日助けられた感謝を伝えたい一心で、その胸は躍っていた。
「あっ……リリアーヌ殿下、お待ちください……!」
不意を突かれたセレフィアは、軍装の時のような無駄のない身構えをとる暇もなく、前傾姿勢のまま引きずられるように足を踏み出す。
過酷な訓練で鍛えた身体能力をもってしても、純粋な好意と熱量で突き進む少女の勢いを止めることはできなかった。
「見てください、あちらのお店にとても可愛らしい刺繍のリボンがありますよ! あ、あっちのお菓子屋さんも素敵です!」
テンションの上がったリリアーヌには、背後で聞こえるセレフィアの困惑に満ちた声が届いていないようだった。
あっちへ、こっちへと花畑を飛び回る蝶のように目移りしながら、セレフィアをぐいぐいと連れ回していく。
「あ……そこは……っ」
これまで刺客の襲撃や過酷な戦場、アルヴィーノの厳しい指導にも一切動じなかったセレフィアが、生まれて初めての波に呑まれ、紫の瞳をめまぐるしく泳がせていた。
「ふふ、楽しそうだね。セラがこんなに誰かに振り回されているの、初めて見たよ」
二人の後を追うルミは、目元を和ませながら嬉しそうに微笑んだ。
「ええ。リリアがこれほど無邪気に同世代の相手と接している姿も、珍しいことです。……静観する価値はありそうですね」
隣を歩くレオもまた、崩れぬ笑みをたたえたまま静かに一歩を刻む。
石畳の街並みの中、光を纏う金髪の少女と、困惑しながら引きずられる氷の少女。
対照的な二人の賑やかな背中を、二人の青年はあたたかく見守りながら、ゆっくりと追いかけていくのだった。