【バカンス編】真夏の楽園に、世界で一番甘い休日を
軍事演習という形だけの公務からも完全に解放された、待ちに待ったお休みの日。
南国の朝は、王宮のそれよりもずっと早く、そして瑞々しい活気に満ちていた。
まだ太陽が空の低い位置にあるというのに、まばゆい黄金色の光が水平線から降り注ぎ、波打ち際をきらきらと白銀に染め上げている。
「うわぁ……! 朝なのに、もうあんなに人がたくさんいるよ、アルヴィーノ!」
ひまわりの麦わら帽子を手で押さえながら、ルミは砂浜の入り口で嬉しそうに声を弾ませた。
朝一番の涼しい空気の中で海を楽しもうとする観光客や地元の人々で、海岸沿いはすでに大変な賑わいを見せている。
色とりどりのパラソルが咲き並び、楽しげな笑い声が潮風に乗って聞こえてきた。
「本当に、有象無象というものは朝から元気なことですね」
隣を歩くアルヴィーノは、お揃いの白いハーフパンツの水着に、上質なリネンシャツを羽織ったラフな姿だ。
切れ長の紫の瞳は、周囲の混雑に対して相変わらず不機嫌そうに細められているが、隣で白いフリルの水着の裾を揺らす最愛の伴侶を見つめるときだけは、とろけるような甘い熱を帯びる。
「ですが、今日はいかなる害虫も貴方の邪魔をさせません。さあ、行きましょう、ルミ」
二人はさっそく、朝の澄んだ海へと飛び込んだ。
昼間のうだるような暑さに比べ、朝の海水はひんやりとしていて、肌に触れるたびに思わず身震いしてしまうほどに心地いい。
「冷たっ……! でも、すっごく気持ちいいよ!」
ルミが無邪気に笑いながら、アルヴィーノに向かってパシャパシャと水を撥ねかける。
アルヴィーノはリネンシャツの袖をまくり上げ、端正な顔に極上の笑みを浮かべながら、ルミを驚かせない程度に優しく水を返し始めた。波に揺られながら、ルミの手を引いて少し深いところまで泳いでみたり、浮き輪代わりになってルミの華奢な身体をそっと抱きかかえて浮かべてみたり。
王宮での「魔王」としての重責をすべて忘れたかのように、二人はただひたすらに、お互いだけを見つめて海を満喫していた。
---
お昼近くになり、太陽が頭上高くへ昇る頃には、さすがにお腹が空いてきた。
潮風と太陽をたっぷりと浴びて、ほんのり肌を火照らせたルミの視線が、砂浜の裏手に立ち並ぶ賑やかな「海の家」へと向く。
「アルヴィーノ、なんかいい匂いがする……!」
「ふむ、現地の露店ですね。貴方が興味をお持ちなら、行ってみましょう」
香ばしいソースの匂いに誘われて暖簾をくぐったのは、地元の人々で賑わう素朴な海の家だった。
そこで注文したのは、鉄板で豪快に炒められた、ソースたっぷりの焼きそば。
王宮の宮廷料理とは程遠い、庶民的で荒々しい料理だが、それが逆に新鮮だった。
「んんっ……! おいしい! 味が濃くて、なんだか元気になる!」
お箸を上手に使って、口いっぱいに焼きそばを頬張るルミ。
口元に少しだけソースがついてしまっているのを見て、アルヴィーノはすかさず自身の指先でそれを優しく拭い、そのまま自身の唇へと運んだ。
「……確かに、庶民の知恵としては悪くない味わいです。ですが何より、それを美味しそうに食べる貴方が一番愛らしい」
「もう、アルヴィーノ、人が見てるよ……!」
真っ赤になって照れるルミを、アルヴィーノは満足げに見つめながら、自身の分の焼きそばを優しくルミの小皿へと分けていくのだった。
---
海の家を出た後は、火照った身体を冷ますために、今度はパラソルの立ち並ぶ屋台へと向かった。
そこでは、南国の果実をふんだんに使った、色鮮やかなアイスキャンディが売られていた。
ルミは楽しそうに悩みながら、
自分の髪の色と同じ、綺麗な水色のソーダ味のアイスキャンディを選んだ。
「見て、アルヴィーノ! 俺の髪の毛とお揃いの色だよ」
そう言って、砂浜に敷いた大きなタオルの上に座り、アイスキャンディをしゃり、と音を立てて齧る。
冷たい甘さが口いっぱいに広がり、ルミは幸せそうに水色の瞳を細めた。
「アルヴィーノも一口食べる? すっごく冷たくて美味しいよ?」
「おや、お裾分けですか? では、遠慮なく」
アルヴィーノはルミが差し出したアイスキャンディを……ではなく、ルミの唇の端に残った冷たい雫を、掬い上げるようにして口づけで奪い去った。
「んむっ……、んん……っ」
不意打ちの深い重吻に、ルミの持っていたアイスキャンディが小さく揺れる。
周囲の観光客の目からはパラソルの影に隠れているとはいえ、あまりにもオープンな愛情表現に、解放されたルミの顔は夕日のように真っ赤に染まっていた。
「……はぁ、アルヴィーノのバカ。アイスを食べてって言ったのに……」
「私にとっては、貴方のすべてが至上の美味ですから。……ああ、早く屋敷に戻って、その冷たい身体を私の熱でじっくりと溶かしてしまいたい」
無邪気に笑う夏の終わりのようなルミを、狂おしいほどの独占欲で見つめるアルヴィーノ。
きらめく青い海と、どこまでも高い夏の空の下。
二人の旅行は、誰にも邪魔できない、甘く濃密な思い出を砂浜にしっかりと刻み込んでいくのだった。
南国の朝は、王宮のそれよりもずっと早く、そして瑞々しい活気に満ちていた。
まだ太陽が空の低い位置にあるというのに、まばゆい黄金色の光が水平線から降り注ぎ、波打ち際をきらきらと白銀に染め上げている。
「うわぁ……! 朝なのに、もうあんなに人がたくさんいるよ、アルヴィーノ!」
ひまわりの麦わら帽子を手で押さえながら、ルミは砂浜の入り口で嬉しそうに声を弾ませた。
朝一番の涼しい空気の中で海を楽しもうとする観光客や地元の人々で、海岸沿いはすでに大変な賑わいを見せている。
色とりどりのパラソルが咲き並び、楽しげな笑い声が潮風に乗って聞こえてきた。
「本当に、有象無象というものは朝から元気なことですね」
隣を歩くアルヴィーノは、お揃いの白いハーフパンツの水着に、上質なリネンシャツを羽織ったラフな姿だ。
切れ長の紫の瞳は、周囲の混雑に対して相変わらず不機嫌そうに細められているが、隣で白いフリルの水着の裾を揺らす最愛の伴侶を見つめるときだけは、とろけるような甘い熱を帯びる。
「ですが、今日はいかなる害虫も貴方の邪魔をさせません。さあ、行きましょう、ルミ」
二人はさっそく、朝の澄んだ海へと飛び込んだ。
昼間のうだるような暑さに比べ、朝の海水はひんやりとしていて、肌に触れるたびに思わず身震いしてしまうほどに心地いい。
「冷たっ……! でも、すっごく気持ちいいよ!」
ルミが無邪気に笑いながら、アルヴィーノに向かってパシャパシャと水を撥ねかける。
アルヴィーノはリネンシャツの袖をまくり上げ、端正な顔に極上の笑みを浮かべながら、ルミを驚かせない程度に優しく水を返し始めた。波に揺られながら、ルミの手を引いて少し深いところまで泳いでみたり、浮き輪代わりになってルミの華奢な身体をそっと抱きかかえて浮かべてみたり。
王宮での「魔王」としての重責をすべて忘れたかのように、二人はただひたすらに、お互いだけを見つめて海を満喫していた。
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お昼近くになり、太陽が頭上高くへ昇る頃には、さすがにお腹が空いてきた。
潮風と太陽をたっぷりと浴びて、ほんのり肌を火照らせたルミの視線が、砂浜の裏手に立ち並ぶ賑やかな「海の家」へと向く。
「アルヴィーノ、なんかいい匂いがする……!」
「ふむ、現地の露店ですね。貴方が興味をお持ちなら、行ってみましょう」
香ばしいソースの匂いに誘われて暖簾をくぐったのは、地元の人々で賑わう素朴な海の家だった。
そこで注文したのは、鉄板で豪快に炒められた、ソースたっぷりの焼きそば。
王宮の宮廷料理とは程遠い、庶民的で荒々しい料理だが、それが逆に新鮮だった。
「んんっ……! おいしい! 味が濃くて、なんだか元気になる!」
お箸を上手に使って、口いっぱいに焼きそばを頬張るルミ。
口元に少しだけソースがついてしまっているのを見て、アルヴィーノはすかさず自身の指先でそれを優しく拭い、そのまま自身の唇へと運んだ。
「……確かに、庶民の知恵としては悪くない味わいです。ですが何より、それを美味しそうに食べる貴方が一番愛らしい」
「もう、アルヴィーノ、人が見てるよ……!」
真っ赤になって照れるルミを、アルヴィーノは満足げに見つめながら、自身の分の焼きそばを優しくルミの小皿へと分けていくのだった。
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海の家を出た後は、火照った身体を冷ますために、今度はパラソルの立ち並ぶ屋台へと向かった。
そこでは、南国の果実をふんだんに使った、色鮮やかなアイスキャンディが売られていた。
ルミは楽しそうに悩みながら、
自分の髪の色と同じ、綺麗な水色のソーダ味のアイスキャンディを選んだ。
「見て、アルヴィーノ! 俺の髪の毛とお揃いの色だよ」
そう言って、砂浜に敷いた大きなタオルの上に座り、アイスキャンディをしゃり、と音を立てて齧る。
冷たい甘さが口いっぱいに広がり、ルミは幸せそうに水色の瞳を細めた。
「アルヴィーノも一口食べる? すっごく冷たくて美味しいよ?」
「おや、お裾分けですか? では、遠慮なく」
アルヴィーノはルミが差し出したアイスキャンディを……ではなく、ルミの唇の端に残った冷たい雫を、掬い上げるようにして口づけで奪い去った。
「んむっ……、んん……っ」
不意打ちの深い重吻に、ルミの持っていたアイスキャンディが小さく揺れる。
周囲の観光客の目からはパラソルの影に隠れているとはいえ、あまりにもオープンな愛情表現に、解放されたルミの顔は夕日のように真っ赤に染まっていた。
「……はぁ、アルヴィーノのバカ。アイスを食べてって言ったのに……」
「私にとっては、貴方のすべてが至上の美味ですから。……ああ、早く屋敷に戻って、その冷たい身体を私の熱でじっくりと溶かしてしまいたい」
無邪気に笑う夏の終わりのようなルミを、狂おしいほどの独占欲で見つめるアルヴィーノ。
きらめく青い海と、どこまでも高い夏の空の下。
二人の旅行は、誰にも邪魔できない、甘く濃密な思い出を砂浜にしっかりと刻み込んでいくのだった。