【バカンス編】真夏の楽園に、世界で一番甘い休日を

数日後。
王宮の喧騒と、涙目で書類の山に埋もれるアルフレッドを遥か後方に残し、二人は南国へと向かう馬車の中にいた。
窓の外には、だんだんと高くなる空と、潮の香りを孕んだ暖かい風が吹き込み始めている。

「本当に、海に行けるんだね……! アルフレッド様、怒ってなかった?」

隣に座るルミが、嬉しそうに窓の外を指差しながら尋ねる。その純粋な水色の瞳には、これから始まる旅への期待だけが満ちていた。
アルヴィーノはルミの腰を引き寄せ、その額に優しく口づけを落とす。

「ええ、兄上も『私の代わりにルミくんを存分に楽しませてやってくれ』と、涙を流して快く送り出してくれましたよ。何も心配することはありません、私の天使」
「そっかぁ! アルフレッド様、やっぱりいいお兄ちゃんだね。帰ったら、たくさんお土産買ってこなくちゃ!」

無邪気に笑うルミの横顔を見つめながら、アルヴィーノは満足げに目を細めた。
王宮がどれほど混乱しようとも、兄の胃壁がどれほど崩壊しようとも、この愛らしい伴侶の笑顔を守るためなら、いくらでも「魔王」になってみせる。
漆黒の軍服の下、アルヴィーノはルミの手を強く、深く握り締めた。
二人の前には、間もなく、どこまでも広がる青い海が姿を現そうとしていた。
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