【新婚旅行編】二人だけの旅路に、世界で一番甘い口づけを
出発の朝、直轄領の屋敷は、訪れた時と同じような厳かな静寂に包まれていた。
すべての荷物をまとめ終えた主寝室で、ルミは誰もいないことを確認してから、ぽつりと言葉を漏らした。
「本当に、もう終わっちゃうんだね……」
白いロリータ服の上に上質な外套を羽織ったルミが、寂しそうに部屋を見渡す。
この二ヶ月間、毎晩のようにアルヴィーノの名前を呼び、彼と【伴侶】として甘い時間を過ごしたこの部屋には、語り尽くせないほどの思い出が詰まっていた。
「ええ。ですが、名残惜しむのはここまでです、ルミ」
アルヴィーノは、一点の曇りもない漆黒の豪華な軍服に身を包み、すでに完璧な「慈悲なき軍師」の表情を作っていた。
けれど、その首元には、ルミが編み上げた水色のマフラーが、軍服に隠されるようにしてしっかりと巻かれている。
アルヴィーノはルミの元へ歩み寄り、その頬にそっと触れた。
「姿形は主従に戻ろうとも、私の心は片時もお前を離しません」
「うん……分かってる。アルヴィーノ」
二人は最後にもう一度だけ、深く愛おしい口づけを交わし、部屋を後にした。
屋敷の前に到着した漆黒の馬車へと乗り込む。
扉が重々しく閉まり、御手の合図とともに馬車がカタゴトと動き出すと、車内は再び二人だけの聖域へと戻った。
「最初の日は、俺、アルヴィーノの名前を呼ぶだけで心臓が爆発しそうだったんだよ」
「ふふ、そうでしたね。『王子様』と口を滑らせるたびに、お前が慌てて口を押さえる姿が、たまらなく愛らしかった」
「もうっ、アルヴィーノは意地悪ばっかり言うんだから! ……でも、一緒に街へデートに行ったの、本当に楽しかったなぁ。普通の恋人みたいに、手を繋いで歩けて」
馬車が南へと進む中、二人は二ヶ月間の思い出を一つひとつ手繰り寄せるように話し合った。
困難な壁を乗り越えてアルヴィーノが帰ってきた夜のこと。
寂しくて彼の服を抱きしめて泣いてしまったルミを、彼が狂おしいほどの愛で包み込んでくれたこと。
暖炉のそばでマフラーを編んだ、何気ないけれど暖かかった日々のこと。
「俺、アルヴィーノのためにマフラーを編めて、本当によかった。あっちで寂しかった気持ちも、全部宝物になっちゃった」
「貴方がくれたこの温もりがあるから、私はこれから王都のどんな泥沼に足を踏み入れようとも、冷酷な軍師を演じきることができます」
アルヴィーノはルミの手を強く握り締め、もう片方の手でルミの身体を引き寄せて、その水色の長い髪に顔を埋めた。
車内に流れるのは、どこまでも甘く、お互いへの絶対的な信頼に満ちた時間。
寂しさを分かち合いながらも、二人は「楽しかったね」と何度も笑い合った。
しかし、無情にも馬車の速度が落ち、外の喧騒が大きくなっていく。
窓の外には、見慣れた王都の洗練された石造りの街並みと、そびえ立つ王城の美しいシルエットが広がっていた。
ついに、馬車が完全に停止する。
「……帰ってきちゃったね」
ルミは、繋いでいたアルヴィーノの手を、名残惜しそうに指先まで這わせながら、寂しそうに、けれどどこか覚悟を決めたように微笑んだ。
「ええ。……行きましょう、ルミ」
「うん。王子様」
その瞬間、ルミの口から紡がれたのは、完璧に調教された従者の響き。
二人は絡めていた指を、すっと、静かに離した。
扉が開け放たれる。
馬車から降り立ったアルヴィーノの紫の瞳は、すでに戦場を統べる「慈悲なき軍師」の冷徹な光を取り戻していた。
そしてその一歩後ろには、水色の長い髪を揺らした可憐な少年ルミが、完璧な「私属の従者」として、静かに頭を下げて控えている。
正面玄関では、この二ヶ月間、二人のために王都の泥沼を完璧に堰き止めていた現王アルフレッドが、フランクな笑みを押し殺した王の仮面を被って待っていた。
「よく戻ったね、アルヴィーノ。北方の掌握、見事だったよ」
「御意のままに、陛下。これより再び、貴方の冷たき刃として、この身を捧げましょう」
周囲の将兵たちがその隙のない主従の姿に息を呑む中、アルヴィーノとルミは、誰にも見えない【伴侶】という絶対的な仮面を胸の奥に深く隠し、再び王都の日常へと足を踏み入れた。
けれど、アルヴィーノの軍服の奥で息づく水色のマフラーの温もりと、繋いだ手の残痕は、二人の絆が何者にも引き裂けないことを、静かに証明し続けていた。
すべての荷物をまとめ終えた主寝室で、ルミは誰もいないことを確認してから、ぽつりと言葉を漏らした。
「本当に、もう終わっちゃうんだね……」
白いロリータ服の上に上質な外套を羽織ったルミが、寂しそうに部屋を見渡す。
この二ヶ月間、毎晩のようにアルヴィーノの名前を呼び、彼と【伴侶】として甘い時間を過ごしたこの部屋には、語り尽くせないほどの思い出が詰まっていた。
「ええ。ですが、名残惜しむのはここまでです、ルミ」
アルヴィーノは、一点の曇りもない漆黒の豪華な軍服に身を包み、すでに完璧な「慈悲なき軍師」の表情を作っていた。
けれど、その首元には、ルミが編み上げた水色のマフラーが、軍服に隠されるようにしてしっかりと巻かれている。
アルヴィーノはルミの元へ歩み寄り、その頬にそっと触れた。
「姿形は主従に戻ろうとも、私の心は片時もお前を離しません」
「うん……分かってる。アルヴィーノ」
二人は最後にもう一度だけ、深く愛おしい口づけを交わし、部屋を後にした。
屋敷の前に到着した漆黒の馬車へと乗り込む。
扉が重々しく閉まり、御手の合図とともに馬車がカタゴトと動き出すと、車内は再び二人だけの聖域へと戻った。
「最初の日は、俺、アルヴィーノの名前を呼ぶだけで心臓が爆発しそうだったんだよ」
「ふふ、そうでしたね。『王子様』と口を滑らせるたびに、お前が慌てて口を押さえる姿が、たまらなく愛らしかった」
「もうっ、アルヴィーノは意地悪ばっかり言うんだから! ……でも、一緒に街へデートに行ったの、本当に楽しかったなぁ。普通の恋人みたいに、手を繋いで歩けて」
馬車が南へと進む中、二人は二ヶ月間の思い出を一つひとつ手繰り寄せるように話し合った。
困難な壁を乗り越えてアルヴィーノが帰ってきた夜のこと。
寂しくて彼の服を抱きしめて泣いてしまったルミを、彼が狂おしいほどの愛で包み込んでくれたこと。
暖炉のそばでマフラーを編んだ、何気ないけれど暖かかった日々のこと。
「俺、アルヴィーノのためにマフラーを編めて、本当によかった。あっちで寂しかった気持ちも、全部宝物になっちゃった」
「貴方がくれたこの温もりがあるから、私はこれから王都のどんな泥沼に足を踏み入れようとも、冷酷な軍師を演じきることができます」
アルヴィーノはルミの手を強く握り締め、もう片方の手でルミの身体を引き寄せて、その水色の長い髪に顔を埋めた。
車内に流れるのは、どこまでも甘く、お互いへの絶対的な信頼に満ちた時間。
寂しさを分かち合いながらも、二人は「楽しかったね」と何度も笑い合った。
しかし、無情にも馬車の速度が落ち、外の喧騒が大きくなっていく。
窓の外には、見慣れた王都の洗練された石造りの街並みと、そびえ立つ王城の美しいシルエットが広がっていた。
ついに、馬車が完全に停止する。
「……帰ってきちゃったね」
ルミは、繋いでいたアルヴィーノの手を、名残惜しそうに指先まで這わせながら、寂しそうに、けれどどこか覚悟を決めたように微笑んだ。
「ええ。……行きましょう、ルミ」
「うん。王子様」
その瞬間、ルミの口から紡がれたのは、完璧に調教された従者の響き。
二人は絡めていた指を、すっと、静かに離した。
扉が開け放たれる。
馬車から降り立ったアルヴィーノの紫の瞳は、すでに戦場を統べる「慈悲なき軍師」の冷徹な光を取り戻していた。
そしてその一歩後ろには、水色の長い髪を揺らした可憐な少年ルミが、完璧な「私属の従者」として、静かに頭を下げて控えている。
正面玄関では、この二ヶ月間、二人のために王都の泥沼を完璧に堰き止めていた現王アルフレッドが、フランクな笑みを押し殺した王の仮面を被って待っていた。
「よく戻ったね、アルヴィーノ。北方の掌握、見事だったよ」
「御意のままに、陛下。これより再び、貴方の冷たき刃として、この身を捧げましょう」
周囲の将兵たちがその隙のない主従の姿に息を呑む中、アルヴィーノとルミは、誰にも見えない【伴侶】という絶対的な仮面を胸の奥に深く隠し、再び王都の日常へと足を踏み入れた。
けれど、アルヴィーノの軍服の奥で息づく水色のマフラーの温もりと、繋いだ手の残痕は、二人の絆が何者にも引き裂けないことを、静かに証明し続けていた。