凍てつく姫に、春を告ぐ-蒼き獅子の騎士譚-

薄暗い灯りが、アルヴィーノの私室を静かに満たしていた。

癖のある紫の髪をわずかに揺らし、細く切れ長の深い紫色の瞳が、盤上の黒と白の駒をじっと見つめている。
漆黒の軍服に身を包んだアルヴィーノは、長い指先で黒のナイトを弄びながら、小さく息を吐き出した。

(レオ……。あれほどの短期間で、これほど急激に牙を研ぎ澄ましてくるとはな)

実父アルフレッドに王としての政務を強制され、不服そうにしながらも、完璧にそれを吸収し、己の血肉へと変えていく甥。
その尋常ならざる成長速度には、冷酷非情な「魔王」と恐れられるアルヴィーノすら、多少の驚きを禁じ得なかった。
綺麗事ではあの白髪赤目の少女を守れないと悟り、北方遠征の地獄を生き抜いたレオ。
彼を突き動かしている絶大な動力――リリィへの狂気的なまでの独占欲を、アルヴィーノは誰よりも理解している。
なぜならかつて自分もまた、目の前にいる存在を世界から隠し、己だけのものにするためにすべてを謀ったからだ。

「……次は、どう動くべきか」

アルフレッドの「善性の説得」すら、外堀を埋めるための外交の武器として咀嚼したレオが、この先どれほどの『檻』を構築していくのか。
アルヴィーノはチェス盤の上でいくつかの先読みの筋を組み立て、模索するように駒を滑らせた。

「……あ、また難しい顔してるー」

その時、静寂を破る無邪気な声と共に、膝の上にふわりとした重みが加わった。
水色の腰まである長い髪を揺らし、白いロリータ服を纏ったルミが、当然の権利のようにアルヴィーノの膝の上にちょこんと腰掛けたのだ。

「ルミ」

アルヴィーノの声音から、軍師としての冷徹さが瞬時に削ぎ落とされ、甘い響きが混じる。
ルミは透き通るような水色の瞳を丸くして、よく分からないといった様子でチェス盤を覗き込んでいた。
魔力の高さに反して、こういった頭脳戦のルールはさっぱり分からない。
それでも、大好きな「王子様」が真剣に悩んでいるのが気になって仕方ないのだ。

「なにか、またお仕事のことで考えてるの?」

ルミは首を傾げ、アルヴィーノの顔を見上げる。

「いや、仕事ではありません。……少し、育ちすぎた雛の行く末を考えていただけです」

アルヴィーノは膝の上の愛しい存在を細い腕でそっと抱きすくめ、その水色の髪にそっと唇を寄せた。
ルミのこの無垢な温もり、自分に完全に依存しきっているこの瞳。
レオが今、死に物狂いで手に入れようとしている究極の果実が、自身の腕の中にあった。

「ふーん……。でも、あんまり根を詰めちゃダメだよ? アルヴィーノにそんな顔されるとちょっと寂しい。せっかくのお部屋の中なんだからもっと俺を見てよー」

そう言って、不機嫌を隠さずに少しだけ唇を尖らせるルミ。
その圧倒的な愛らしさに、アルヴィーノの胸の奥が満たされていく。

(レオ、お前はどこまであの少女を縛り、溺れさせるつもりだ?)

腕の中のルミを愛おしげに撫でさすりながら、アルヴィーノは再びチェス盤へと視線を落とした。
甥が目指す狂気の檻。
それが完成へと向かう盤面を思い描き、魔王はどこか愉悦を孕んだ薄い笑みをその唇に浮かべるのだった。
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