凍てつく姫に、春を告ぐ-蒼き獅子の騎士譚-
レオが慌てて部屋を飛び出していった後、主のいなくなった私室には、白い髪の少女リリィと、水色の髪を揺らすルミの二人が残された。
「レオのやつ、めちゃくちゃ焦って走ってった。アルヴィーノ、怒るとマジで怖いからねー」
ルミは持ってきた大きめの鞄を床にドサリと置くと、へらっと無邪気な笑顔を浮かべた。
腰まである長い水色の髪に、透き通るような水色の瞳。
白いロリータ系の可愛い服を身に纏ったその姿は、どこからどう見ても可憐な女の子にしか見えないが、口を開けば「俺」という少年らしい一人称が飛び出す。
突然の賑やかな乱入者に、リリィはベッドの上で驚いたように赤い瞳を丸くし、おどおどと身体を縮めていた。
「あ、えっと……あの……」
「あ、ごめんごめん! 驚かせちゃったね。 俺はルミ。レオの従兄(にい)ちゃんだよ。気楽に『ルミにぃ』って呼んでよ! レオもいつも俺のこと、そう呼んでたし!」
ルミはベッドの側に歩み寄ると、リリィと目線を合わせるように屈み込み、にこっと屈託のない笑みを向けた。
かつて非人道的な研究所で心を閉ざしていたルミだったが、アルヴィーノに救われてからは、こうして喜怒哀楽を素直に表せるようになっていた。
だからこそ、同じように心を痛めてきたリリィの怯えが、放っておけなかったのだ。
「遠征の間、一人だと寂しいでしょ? だからアルヴィーノに『あいつの部屋に泊まって、ちゃんと彼女の面倒見てやれ』って言われたんだ。これから数日間、俺があなたのお留守番の相手ってわけ! よろしくね、リリィちゃん!」
「ルミ、様……。あ、お留守番……一緒に、いてくれるのですか……?」
「様なんていらないって! そうそう、ずっと一緒にいる。美味しいお菓子もいっぱい持ってきてるし、お城の面白い話もたくさん教えてあげるからさ」
ルミの放つ無邪気で温かい空気は、リリィの強張っていた心を少しずつ、確実に解きほぐしていった。
レオがいない寂しさは消えなくても、「一人ではない」という安心感が、彼女の胸にじんわりと広がっていく。
一方、その頃。
お城の正面玄関へと息を切らせて駆けつけたレオは、軍馬の横で腕を組み、底冷えするようなオーラを放っているアルヴィーノの前に飛び込んだ。
「ハァ……ハァ……っ。叔父上、お待たせいたしました……!」
アルヴィーノは細く切れ長な紫の瞳を向け、懐中時計をパチンと閉じた。
「……出発の三分前ですか。置いていかれなかっただけ、少しは成長したと褒めて差し上げましょう」
「……ありがたき、幸せに存じます」
レオは居住まいを正し、息を整えながら深く一礼した。
ルミにぃをリリィの側に置いてくれた、叔父なりの完璧な配慮に心からの感謝を抱きつつも、ここからは一切の甘えが許されない地獄の遠征が始まる。
レオは昏く鋭い光をその瞳に宿し、魔王の背中を追うようにして、馬へと飛び乗るのだった。
「レオのやつ、めちゃくちゃ焦って走ってった。アルヴィーノ、怒るとマジで怖いからねー」
ルミは持ってきた大きめの鞄を床にドサリと置くと、へらっと無邪気な笑顔を浮かべた。
腰まである長い水色の髪に、透き通るような水色の瞳。
白いロリータ系の可愛い服を身に纏ったその姿は、どこからどう見ても可憐な女の子にしか見えないが、口を開けば「俺」という少年らしい一人称が飛び出す。
突然の賑やかな乱入者に、リリィはベッドの上で驚いたように赤い瞳を丸くし、おどおどと身体を縮めていた。
「あ、えっと……あの……」
「あ、ごめんごめん! 驚かせちゃったね。 俺はルミ。レオの従兄(にい)ちゃんだよ。気楽に『ルミにぃ』って呼んでよ! レオもいつも俺のこと、そう呼んでたし!」
ルミはベッドの側に歩み寄ると、リリィと目線を合わせるように屈み込み、にこっと屈託のない笑みを向けた。
かつて非人道的な研究所で心を閉ざしていたルミだったが、アルヴィーノに救われてからは、こうして喜怒哀楽を素直に表せるようになっていた。
だからこそ、同じように心を痛めてきたリリィの怯えが、放っておけなかったのだ。
「遠征の間、一人だと寂しいでしょ? だからアルヴィーノに『あいつの部屋に泊まって、ちゃんと彼女の面倒見てやれ』って言われたんだ。これから数日間、俺があなたのお留守番の相手ってわけ! よろしくね、リリィちゃん!」
「ルミ、様……。あ、お留守番……一緒に、いてくれるのですか……?」
「様なんていらないって! そうそう、ずっと一緒にいる。美味しいお菓子もいっぱい持ってきてるし、お城の面白い話もたくさん教えてあげるからさ」
ルミの放つ無邪気で温かい空気は、リリィの強張っていた心を少しずつ、確実に解きほぐしていった。
レオがいない寂しさは消えなくても、「一人ではない」という安心感が、彼女の胸にじんわりと広がっていく。
一方、その頃。
お城の正面玄関へと息を切らせて駆けつけたレオは、軍馬の横で腕を組み、底冷えするようなオーラを放っているアルヴィーノの前に飛び込んだ。
「ハァ……ハァ……っ。叔父上、お待たせいたしました……!」
アルヴィーノは細く切れ長な紫の瞳を向け、懐中時計をパチンと閉じた。
「……出発の三分前ですか。置いていかれなかっただけ、少しは成長したと褒めて差し上げましょう」
「……ありがたき、幸せに存じます」
レオは居住まいを正し、息を整えながら深く一礼した。
ルミにぃをリリィの側に置いてくれた、叔父なりの完璧な配慮に心からの感謝を抱きつつも、ここからは一切の甘えが許されない地獄の遠征が始まる。
レオは昏く鋭い光をその瞳に宿し、魔王の背中を追うようにして、馬へと飛び乗るのだった。