凍てつく姫に、春を告ぐ-蒼き獅子の騎士譚-

リリィの容態が安定し、彼女の白い髪と、どこか吸い込まれそうな赤い瞳が医療室の淡い光に映えるようになってから、さらに数日が経った。

 「――っ、リリィ……!」

弾かれたように、レオはベッドから上半身を飛び起き上がらせた。
急激に動かした身体が悲鳴を上げ、脳髄に鋭い頭痛が走る。
しかし、そんな痛みなどレオの意識には届かない。
昏睡する直前、自らの腕の中にあった確かな温もりが消えていないか、それだけが狂おしいほどに気がかりだった。

息を荒くしながら、レオは血走った目で辺りを見回す。

そこには、突然跳ね起きたレオの姿に驚き、赤い瞳を真ん丸にして固まっている少女の姿があった。
その細い指先は、レオの眠るベッドのシーツをきゅっと握り締めている。

二人の間に、張り詰めたような、しかしどこか安堵に満ちた沈黙が流れた。
幻ではない。確かに彼女はここにいる。あの忌々しい『地縛の重枷』から解き放たれ、自分のすぐ手の届く場所に。

「……無事、だったのですね」

レオが掠れた声でそう呟き、安堵に胸を撫で下ろしたその時、医療室の重い扉が音もなく開いた。

「自分の身よりもまず他人の心配ですか。相変わらず甘いですね、レオ」

入ってきたのは、漆黒の軍服を完璧に纏ったアルヴィーノだった。
その少し癖のある紫の髪の下から、切れ長の深い紫色の瞳が、目覚めたばかりの甥を冷徹に見下ろす。
その背後からは、水色の長い髪を揺らしたルミが、心配そうに顔を覗かせていた。
ルミはレオの元気そうな姿を見て、ホッとしたように胸に手を当てている。
レオは居住まいを正そうとしたが、身体が思うように動かない。
そんな甥の様子を一瞥し、アルヴィーノは淡々と、あれからの現状についての説明を始めた。

「貴方が泥のように眠り続けている間、事態は一応の収束を見せました。あちらの国は、白亜の塔が破壊され姫が消失したことで、現在上や下への大騒ぎです。しかし、貴方が私の戦略通りに徹底した隠滅工作を行ったおかげで、我が国の関与を示す証拠は一切残されていません」

アルヴィーノは部屋の窓際に歩み寄り、外を見やりながら言葉を続ける。

「現状、あちらは『正体不明の賊による襲撃』として処理せざるを得ない状況です。とはいえ、いつまでもこの少女を隠し通せるわけではない。事の次第はすべて兄上に報告し、その『内政上の後処理』として丸投げしておきました。今頃、兄上は胃痛に耐えながら、外交文書の改ざんと辻褄合わせに奔走していることでしょう」

その冷酷極まりない、しかし完璧な現状報告を聞き、レオは深く息を吐き出した。
父への申し訳なさがないわけではなかった。
だが、それ以上に、隣国の追手がリリィに届かないという事実が、レオの心を暗い充足感で満たしていく。

「……叔父上。ご助力、心より感謝いたします」

レオはベッドの上から、アルヴィーノに向けて深く頭を下げた。
響きの中に、以前のような反発はない。
この男の智力を得たからこそ、自分は彼女を救い出すことができたのだという、確かな事実への服従があった。
アルヴィーノはそんな甥の姿を、歪んだ、しかし満足げな微笑を浮かべて見つめていた。
己と同じように、執着のために闇へと足を踏み入れた若き策士の誕生を、祝福するかのように。
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