凍てつく姫に、春を告ぐ-蒼き獅子の騎士譚-
ある日の午後。
執務室に隣接する回廊に、張り詰めた沈黙が流れていた。
そこにはアルフレッド、アルヴィーノ、そして疲れ果てたレオの三人が顔を揃えていた。
レオの顔色は酷く青白く、目の下には濃い隈が刻まれている。
立っているのすら奇跡のようなその痛々しい姿に、アルフレッドはついに耐えかねたように、弟へ向けて厳しい視線を走らせた。
「アルヴィーノ、もういい加減にしなさい。……レオを、少し休ませてやるんだ」
それは、普段の朗らかな彼からは想像もつかないほど、低く、重みのある苦言だった。
我が子の身を案じる父親としての、そして一国の王としての拒絶の意志。
だが、漆黒の軍服に身を包んだ軍師は、眉一つ動かさなかった。
アルヴィーノは視線を兄へ向け、至極淡々と、冷徹な声を返す。
「私は、彼に休むななどとは一言も言っていませんよ、陛下」
「言葉の綾を弄するな。寝る間も惜しんで課題を課し、追い詰めているのはお前だろう」
「勘違いしないでいただきたい。私は『休みたいのなら休めばいい』と言っているのです。ただ――」
アルヴィーノは視線をアルフレッドから、その傍らで俯くレオへと移した。
その瞳は、凍てつく冬の夜のようだった。
「彼に、今、休む暇などあるのか、と問うているだけです」
「……っ、それは休むなと言っているのと同義だ!」
アルフレッドが声を荒らげる。
彼にとって、限界を超えた人間にさらに鞭打つようなアルヴィーノの論理は、到底容認できるものではなかった。
対話と言い聞かせで解決しようとする王の光が、魔王の闇を激しく咎める。
二人の間に、一触即発の、ひりつくような緊張感が走った。
そのとき。
張り詰めた空気を切り裂くように、掠れた、しかし妙に芯のある声が響いた。
「……父上。……いえ、陛下」
レオだった。
彼は震える膝を自身の意志で押さえつけ、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳には、身体の衰弱とは裏腹に、恐ろしいほどの執念の炎が爆ぜている。
「大丈夫、ですから。……私は、まだやれます」
「レオ、だが君の身体は――」
「これは、私が望んだことです」
アルフレッドの言葉を遮り、レオは実の父親を真っ直ぐに見据えた。
叔父の言う通りだ。
自分が休んでいるその一秒、一分が、あの白亜の塔で泥を啜る彼女の絶望に直結している。
休む暇など、最初からどこにも存在しない。
ここで倒れるくらいなら、自らの血を燃料にしてでも思考を回し続ける。
「お気遣いは感謝いたします。ですが……私は絶対に、立ち止まりません」
弱々しくも、狂気的な決意を孕んだ息子の言葉に、アルフレッドは言葉を失い、ただ痛ましげに表情を歪めるしかなかった。
その様子を、アルヴィーノはただ満足げに、冷酷な微笑を浮かべて見つめていた。
執務室に隣接する回廊に、張り詰めた沈黙が流れていた。
そこにはアルフレッド、アルヴィーノ、そして疲れ果てたレオの三人が顔を揃えていた。
レオの顔色は酷く青白く、目の下には濃い隈が刻まれている。
立っているのすら奇跡のようなその痛々しい姿に、アルフレッドはついに耐えかねたように、弟へ向けて厳しい視線を走らせた。
「アルヴィーノ、もういい加減にしなさい。……レオを、少し休ませてやるんだ」
それは、普段の朗らかな彼からは想像もつかないほど、低く、重みのある苦言だった。
我が子の身を案じる父親としての、そして一国の王としての拒絶の意志。
だが、漆黒の軍服に身を包んだ軍師は、眉一つ動かさなかった。
アルヴィーノは視線を兄へ向け、至極淡々と、冷徹な声を返す。
「私は、彼に休むななどとは一言も言っていませんよ、陛下」
「言葉の綾を弄するな。寝る間も惜しんで課題を課し、追い詰めているのはお前だろう」
「勘違いしないでいただきたい。私は『休みたいのなら休めばいい』と言っているのです。ただ――」
アルヴィーノは視線をアルフレッドから、その傍らで俯くレオへと移した。
その瞳は、凍てつく冬の夜のようだった。
「彼に、今、休む暇などあるのか、と問うているだけです」
「……っ、それは休むなと言っているのと同義だ!」
アルフレッドが声を荒らげる。
彼にとって、限界を超えた人間にさらに鞭打つようなアルヴィーノの論理は、到底容認できるものではなかった。
対話と言い聞かせで解決しようとする王の光が、魔王の闇を激しく咎める。
二人の間に、一触即発の、ひりつくような緊張感が走った。
そのとき。
張り詰めた空気を切り裂くように、掠れた、しかし妙に芯のある声が響いた。
「……父上。……いえ、陛下」
レオだった。
彼は震える膝を自身の意志で押さえつけ、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳には、身体の衰弱とは裏腹に、恐ろしいほどの執念の炎が爆ぜている。
「大丈夫、ですから。……私は、まだやれます」
「レオ、だが君の身体は――」
「これは、私が望んだことです」
アルフレッドの言葉を遮り、レオは実の父親を真っ直ぐに見据えた。
叔父の言う通りだ。
自分が休んでいるその一秒、一分が、あの白亜の塔で泥を啜る彼女の絶望に直結している。
休む暇など、最初からどこにも存在しない。
ここで倒れるくらいなら、自らの血を燃料にしてでも思考を回し続ける。
「お気遣いは感謝いたします。ですが……私は絶対に、立ち止まりません」
弱々しくも、狂気的な決意を孕んだ息子の言葉に、アルフレッドは言葉を失い、ただ痛ましげに表情を歪めるしかなかった。
その様子を、アルヴィーノはただ満足げに、冷酷な微笑を浮かべて見つめていた。